「う、嘘、だろ……」
「デクくん?」

 なんやかんや忙しかった一年が終わり、二年になってのクラス替え。飯田くん、轟くん、それになんと麗日さんと親しいメンバーと同じクラスになることができて浮かれていた僕はとんでもない落とし穴に落とされた。かっちゃんまで同じなのはもういい。ここまで来ると腐れ縁で諦めがつく。だけど、なんで、よりによって、

「海神さんと同じクラスに……!?」
「あら、緑谷さん、ご機嫌よう」

 きっちり制服を着こなしていた中学時代とは違い、首元はネクタイこそつけているものの緩め、短いスカートから伸びる細く引き締まった脚はタイツに覆われている。過度な露出は品が無い。上品さが下品に変わるギリギリのラインで彼女は制服を着こなしていた。

「今年は同じクラスですわね。緑谷さんの武勇伝は聞いていますわ。その立ち回り、ぜひご教授願います」
「アハハ……ドウモ」

 一見すると聖母マリアのような優しそうな笑み。だけど威圧感はたっぷり。以前は感じなかったものが自分に向けられている。僕はこのオーラを知っている。かっちゃんが僕に向けるやつだ。

「え〜〜〜誰々!? この子デクくんの知り合い!?」
「うん……まあ……」
「緑谷さんとは同じ中学校だったんですの」
「えっってことは爆豪くんとも知り合い?」
「あの野蛮な方ですか? ええ、残念ながら」
「だァれが野蛮だってェ……?」
「いましたの?」

 あ〜〜〜〜やめて〜〜〜〜〜新学期早々かっちゃんを煽るのはやめてくれ海神さん! 若干丸くなったようなそんな気がしないでもないかっちゃんだけどまだ煽り耐性低いんだから……キレたかっちゃんの被害に遭うのは僕か切島くんとか上鳴くんとかが多いんだから被害を増やさないで欲しい、切実に。

「この俺が見えねえなんて目腐ってんじゃねーのか?」
「貴方の性格の話ですか?」

 BOOM! とかっちゃんの掌で爆発が起きた。去年の一年でかっちゃんの爆発には慣れた面々は騒ぎ立てることはしなかったが、海神さんの外見と性格のギャップに驚いているらしい。わかる。

「ね、ねえデクくん。この二人仲悪いの?」
「うん。見ての通り」
「海神くんは誰に対してもああなのか?」
「ううん。かっちゃん以外には凄くいい人だよ」
「おいデクうっせーぞ!!」
「わっ、僕に八つ当たりしないでよ」
「まだ貴方はそんなことをしているのですか……!」

 叫びながらかっちゃんが僕を叩くと、それを見た海神さんが勢いよく席から立ち上がる。そして取り出したのは――500mlのペットボトル。殴って武器にすることは可能だけれど、それより拳で殴ったほうがいいに決まってる。皆は「え? なんで取り出したの?」という顔になったが僕だけは青褪めた。やばい。殺る気だ。

おいた・・・がすぎる悪い子にはお仕置きしませんと、ねえ?」
「てめぇ……」

 地雷だ……。まっすぐに地雷を踏みに来た。僕だけが知っているふたりの秘密。個性を使って喧嘩して、海神さんが勝利した中学時代。そのときの地雷ワード。

「体育祭で上位にも食い込めなかったクソモブが俺に勝てると思ってんのかァ!?」
「勝てますわ。貴方と一対一なら私負ける気が致しません」
「いい度胸じゃねえか。表でろや」
「ええ」
「いいわけねーだろ個性使うな席につけ」

 天の助けというやつで、今年も担任らしい相澤先生がやってきた。個性抹消とすぐ除籍にしたがる性格は、みみっちいかっちゃんと根は優等生な海神さんを御し易い。ここまで来て除籍されてたまるかって感じだもんね。



「びっくりしたあ。瑞姫があんなに怒るの初めて見たよ」
「そうですか? お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「A組のやつらが気に食わないっていうのはわかるよ」
「こら物間!」

 ヒーロー科は二クラスしかないから去年同じクラスだった友人はクラスに半分ほどいます。特に仲のよかった一佳さんが同じで少し安心です。

「でも瑞姫が意味もなく喧嘩を売るのは珍しいよ。同じ中学って聞いたけど、なんかあったの?」
「特に事件はないんですけど……単に馬が合わないというか、ムカつく、というか」
「その気持ち分かるなぁ」
「物間はA組全員がだろ。今年は同じクラスで仲間なんだから仲良くしなきゃダメだ」
「……善処はするよ」

 中学の頃は単に素行が気に食わないからだと思っていました。私は自分で言うのもなんですが、真面目な性格で、ルールを守らないタイプの人間が生理的に受け付けなかったりするのもですから。爆豪さん自身はどちらかといえば素行の悪いタイプの人種で、その中で一番目立っていたからだったと思っていたんです。雄英に来てからもそう。一人だけ制服をだらしなく着崩していらっしゃいますし。

(でもそれは私も同じ……)

 「そんなにキチキチしてたら息が詰まっちゃうよ。このくらい緩めたほうが生きやすいよ」と一佳にタイを緩められた日から私は初めて校則違反をしました。これで私と爆豪勝己さんは同じラインです。だというのにやっぱり私は彼が気に食わなかった。

 ここにいるということは将来プロヒーローとして活躍する可能性があるし、そうなれば共闘することだって多いかもしれません。だから、どうにか彼と仲良くしたいと思うのですけれど、理性では感情が追いつきません。どうしたものかしら、と私は深くため息をつきました。
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