先ほどちらっと言ったけど今年の担任は引き続き相澤先生だった。安心安全の除籍の実績を持つ相澤先生が担任でかっちゃんと海神さんは大丈夫だろうか。生活態度等で除籍されないだろうか、なんて少し心配になってしまう。

(二人共実力は抜きん出てるんだけどなあ)

 かっちゃんは言わずもがな、B組とは合宿とかしか絡みがなくてあまりよくは観察できていないけれど海神さんは個性の扱いがうまい。去年と変わらず午前中は通常の座学なのでつつがなく終了し、問題の午後の授業がやってきた。問題の戦闘訓練だ。去年別クラスだった者同士をペアにし、個性使用可能な鬼ごっこをする。逃げる側と追う側はランダム……というか先生が指定する。作戦会議は2分。お互いの個性の把握にもなるし、お互いの事をよく知らないままペアを組むことがあるプロヒーローだ。将来のための練習になる。

「さすが相澤先生合理的だなあ……戦闘訓練自体は良くするけど人数が少ないからお互いの個性は把握してしまうし急造ペアの練習が出来るのは年度の初めだけだこの貴重な機会をしっかり物にしないといけない慣れてなくてデビュー戦で足を引張たりそのせいで被害が大きくなったりは絶対に避けたいからなああとは実力者をよく観察できる機会だ体育祭ではトーナメントに上がってきた人しか余り見ることできなかったもんなノートが手元にないのが惜しまれるよ全く頑張れ僕の記憶力」
「なんかもうお家芸やね〜」
「怖いぞ緑谷」
「えっ何が?」

 なんてことは置いておいて。第一回目の組み合わせは鬼:飯田くん、物間くん、逃げる側:海神さん、蛙水さんだった。なんというかこれは、先生もひどい人だ。

「どう見る?」
「圧倒的鬼側有利」
「機動力の時点で飯田は抜きん出てるからなあ」
「物間はなんだっけ? コピー?」
「そうだよ。ってことは実質飯田が二人だね」
「うへえ」

 飯田君の個性の強さは先の一年で身にしみている。一見大したことないような個性に見えがちなのだが、機動力があるということは連絡や情報収集にも有利だし、単純な足止め等でも有利だ。相手より早く動けるということは攻撃の回避、不意や先手も付ける。犯人確保の単純な追いかけっこならかなり有利になるのは間違いない。


「蛙水梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。個性は蛙。壁に張り付いたり舌を伸ばしたり、カエルっぽいことはなんでもできるわ」
「海神瑞姫と申します。個性は水を操ること。限界量はありますけど、体内から放出も可能ですわ。以後お見知りおきを。それからあちらもチームの物間さんですがコピーです。飯田さんが二人いると考えてよろしいかと」
「……ケロ。私たち相性がいいみたいね。でもあちらもかなり相性がいいわよ」
「と、言いますと?」
「飯田ちゃんの個性はエンジン。単純に足が速いわ」
「なるほど……それは厄介ですわね」

 今回のルールはタッチされたら負けの鬼ごっこ。純粋な機動力がものを言います。幸いにしてここは嘘の災害や事故ルームUSJ。彼らのスタートまでに水難ゾーンのところへたどり着くことができたら勝ち目はありますけど。

「タッチされたら負け、ということでまずは水難ゾーンを目指すのがいいかと存じます」
「そうね。水中に入ってしまえば足場がない二人は近寄れないものね」
「私は池の中央で足場を作り遠隔攻撃、蛙水さんは水中に潜んで逃げ切りとアシストをお願いしたいんですけど」
「問題はたどり着くまでね」
「そうなんですの。一分のハンデを貰ってもそんなの個性で直ぐに追いつかれてしまいますわ」
「こちらの個性がバレているなら絶対に水難ゾーンを目指してくるわね」
「二手に分かれて一人を犠牲にして見つからないことにかけるか、二人で応戦しながら水上戦に持ち込むかの二択かと」
「私があのふたりなら合図を決めておいて水難ゾーンまでの道のりを手分けして探すわ」
わたくしもです。一対二を取れるしばらけない方がいいかと存じます」
「決まったわね。あとは見つからないことを祈りながら走りましょう」
「ええ、蛙水さん!」
「梅雨ちゃんと呼んで、海神ちゃん」

 さすが学生の身にして対ヴィラン戦を経験したことのあるA組です。頭の回転がとにかく早い。そして冷静です。見方のパニックは周囲に移るもの。いつでも冷静であるということはそれだけでパフォーマンス精度をあげられます。作戦タイム終了の合図とともに私たちは走り出しました。


「みーつけたぁ」

 彼らがスタートしてものの数分。水難ゾーンにはだいぶ近づいたもののまだ到着はしていない、そんな時点で物間さんに見つかってしまいました。

「蛙水さん離れてください!」
「了解よ」

 タッチされたら負け。そのようなルールでは攻撃手段が限られている蛙水さんだと不利です。ここは遠隔攻撃ができる私が時間を稼ぐのが最善手。ありがたいことに、見つかったのが飯田さんではなく物間さんなので制限時間があります。それを凌ぎきれば物間さんはただの人! 怖くなんてありません。

「……今めちゃくちゃ失礼なこと考えただろ」
「いいえ、そんなことありません」

 私の個性は水を操ること。体内から水分の放出は可能ですが、それには制限がありますので一定量の水を所持して行動しています。だって現場にいつでも水源があるとは限りませんからね。幸いなことに市中には水道管が整備されていますし、将来都市圏に勤務をするならば困ることはなさそうですけれども。現代社会の恩恵です。私は背負っているタンクから水が補給されていることを確認し、腰から水鉄砲を抜きます。ただの水鉄砲と侮ることなかれ。制作会社の技術と私の個性があれば人間の頭部など吹き飛ばしてしまうほどの威力だって出せる、とんでもない武器なのですよ。

「近寄ると撃ちます」
「近寄らなくても?」
「撃ちます!!」

 威嚇射撃……と見せかけての目くらまし。相手の近くに水を置くことができればこっちのもの。けれど物間さんは私のその手段は知り尽くしていますので、即座に位置を変えます。本当は当たってほしいんですけれど、そこはさすがの機動力。あと先ほどの威嚇射撃で位置がばれてしまったので応援に来るのがいつなのかひやひやしてしまいますね……。
 連続で撃ってもものの見事に交わされて、射撃の特訓をしたと云うのに自信を喪失してしまいそうです。物間さんの反射神経が素晴らしいのか個性の恩恵なのか、後でお聞かせ願いたいものですね。なんてやり取りはしながらも水難ゾーンの方へ近づいています。あと少し、というところで、

「そこだな!!!!!」

 と、飯田さんがやってきてしまいました。不幸中の幸いで背後側ではなく横から。物間さんと対峙しているときに奇襲なんて、とは思いますがこれも作戦のうちですからね。ずるいとは言えません。飯田さんが私に触れようと伸ばした手をかわしたはいいものの、体勢を崩し次の動作に移ることができません。ですがこれも計算のうち。だって私のパートナーは蛙水さんなんですもの!

「海神ちゃん!」
「助かりましたわ」

 伸ばした舌で回収してもらい、そこから蛙水さんの跳躍。水陸両用で本当に強い個性です。鬼ごっこで敵には回したくありませんね。エンジンを使っての跳躍も可能ですが、物間さんはそろそろ時間切れなので一度飯田さんにタッチしなくてはなりません。もし追っていても空中での方向転換は厳しいので私の個性に捕まってしまいます。どうしよう、と策を練るために一瞬固まったのが命取り。私たちは無事に水中に逃げることができ、そのまま逃げ切りを成功させたのでありました。



「うっそだろ飯田の個性で負けるなんて」

 上鳴くんのいうこともさもありなん。鬼ごっこで飯田くんが後手に回ることはなかったけれど、今回は鬼側に見つからずに移動した隠密性が凄かったのだ。今回のチーム分けはバランスが偏っているように見えて、ちゃんと勝ち筋も用意されている。機動力に優れ陸上に特化した鬼側のチーム。水中戦に特化した逃げる側のチーム。相手の得意を如何に回避し、自分の得意フィールドに持ち込むことができるか。それを問うていたのだ。

「やっぱり蛙水さんは個性もすごいしこれといった弱点がない、落ち着いて周りがよく見えているから位置取りやサポートも的確だった。逃走経路を指定したのも彼女だろうか? あそこから水難ゾーンにむかうのに敢えて最短経路を使わなかったことから最短を想定して走っていた飯田くんを回避できたんだし……二人とも頭脳戦向いてるな……」
「ブツブツうっせーよクソナード!」
「わっ、ごめんかっちゃん」

 相沢先生の手前、威嚇爆破すらしなかったものの明らかにかっちゃんは不機嫌だった。理由は簡単、海神瑞姫さんが活躍をしたから。かっちゃんはもう狭い世界から広い世界へ出てきて自分が一番ではないことを知っている。知った上で頂点を目指してあがいている。轟くんも僕も、同じクラスの全員が彼の越えるべき倒すべきライバルである。だけど、強気で傲慢な、折寺中学校の王様は、同じく「王」を冠する彼女にはまた違った感情も抱いているようだった。

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