かっちゃんは童貞だ。推測だけれど。幼馴染と言っても仲がいいわけじゃないしむしろ険悪な僕たちだからそういう話は一切しなかったが、良くも悪くもかっちゃんは目立つのでそういう噂はすぐ回ってくる。「3組のあの子爆豪くんのこと好きらしいよ〜」とか「サッカー部のマネージャー爆豪くん狙いらしいよ〜」とかは何回も聞いた。だけどかっちゃんが誰を好きとかいう噂は一切回ってこなかった。高校生になってもだ。まあ去年はいろいろあったし恋愛する暇がなかったと言える。こっそり付き合っていたのかもしれないが「俺に釣り合うレベルの女がいねーだろ」って言いきってたし、中学ではたぶんなかったろうなあ……海神さんとならお似合いだとは思うけど、一時期そんな噂は回っていたけど、優等生と不良って感じで馬が合わなさそうだったしないだろう。まあそんな感じで長々と語ったが、何が言いたいかというと、かっちゃんは恋愛経験が少ないってことだ。
「何あれ……」
「さあ」
「昨日の委員会で何があったんだよ」
クールぶってる癖に凝視なんですけど。かっちゃんは朝からずっと海神さんを見つめている。基本的には真面目なのでちゃんと普段はちゃんと受けている授業中もたまにちらっと見ている。後ろの席なのが憎い。だって自然と視界に入っちゃうんだもん。さて、見られている当の本人は視線に全く気付いていないし、たまに気づいたと思ったらにこっと笑い返してかっちゃんが目を逸らすのループだ。さすが女王様は目立つから視線に慣れてるんだろうな。見られることが当たり前だから他人の視線をいまさら意識しないのかも。
やれば出来るタイプの天才であるかっちゃんはまさかの恋愛関係が不得手だったようだ。小学生男子みたいな絡み方を僕にしてくるやつだ。きっとアプローチも好きな子をついいじめちゃう系に違いない。別の世界線のかっちゃんはクールでスマートにさらっと好きな子に対して紳士対応をするのかもしれないけどこの世界線のかっちゃんは童貞だ。間違いない。
「なあ爆豪」
「なんだよクソ髪」
「ボーっとしてるけど体調でも悪いのか?」
さすが切島くんだ。かっちゃんへの対応が神がかってる。ここで下手に「海神のこと見すぎじゃね?」とか言うとぶっ殺される。だからと言って体調を気遣う言葉もプライドに触るからNGなのだが、本人に自覚がある場合に限っては「表にでてたんか。気を付けるわ」と意識するだけでぶっ殺されるまでには至らない。暴言は貰うが。最小のダメージで済む。
「昨日海神と何かあったん? 告られたとか?」
あーーーーーーーーーーっ! おやめくださいお客様! 爆発物にお手を触れるのはおやめください!!
もうなんでこのクラス地雷踏む人多いの? 僕が去年の体育祭で地雷を自ら踏みに行くスタイルでトップ通過したから? それで地雷は踏んでも平気とか思っちゃったの? よくないよ、爆発して確実に殺すスタイルなのが地雷なんだよ……避けなよ……。
「は? ンなわけねーだろ。第一あいつと俺じゃ釣り合わねぇわ」
「爆豪の方が?」
「ぶっ殺すぞ」
「悪ぃ悪ぃ……でもよ、正直なところ海神はかなりレベル高いと思うぜ。ちょっと身長は高いけど」
「おめーチビだもんなあ」
「チビじゃねえ! 平均はあっから!! お前が平均より上なだけだから!」
海神さんは八百万さんを抜いてはいないけど目線ほぼ一緒だもんなあ。小柄なのは小柄なので俊敏性に優れる強みがあるからいいけど、僕はパワー系なのでやっぱりある程度上背はあったほうがいいと思うし、せめてクラスの女子よりは高くなりたいかな……。オールマイトは202cmあるし、同じ個性を引き継いだから僕も大きくなるかな?
「……海神と俺が並んでも見劣りしねえのか」
「何言ってんだよ、性格ならまだしも外見ならお似合いだろ。身長差もいい感じだしな。お嬢様が最初は嫌悪してた不良っぽい男子に惹かれていくのは少女漫画の王道だぞ」
「あ゛? 誰が不良だ」
「そういうとこそういうとこ」
自然と切島くんと目が合う。上鳴くんは「爆豪理想が高すぎて価値観狂ってるんだろうな〜」くらいにしか思ってないだろうけど、幼馴染である僕とかっちゃんの友達である切島くんは、かっちゃんの話す言葉をちゃんと正確に理解できるのだった。見劣りはしねえのか、ってことはこれから並んで歩くことを想定してるってこと。
つまり、これはあれだ、初恋ってやつだ。