どうにも血が近すぎる、となまえは思った。父と母のことである。現代の禁忌を犯したわけではないのだが、炎と氷という対極の個性にありながら、きっと彼ら二人は遺伝子的に酷似した存在なのだとなまえは思う。でなければ対極の個性が末の弟のように綺麗に混ざることはないだろうし、下の弟妹たちのように一部が綺麗に混ざることもないだろう。近親婚は禁止されたのは、倫理観だけの問題ではない。身体的な理由もある。近すぎる血で交配を繰り返すと、稀にとんでもなく身体に不備を抱えた子供が生まれてくるのだ――私と、双子の燈矢ような。
 遺伝子の相性のいい妻を見つけた父親は、最初の子供である私達に失望した。個性が混ざって生まれてくることを望んだのに、私達双子はぱっくり別れてしまったからである。男子である燈矢は父親を越える個性を持って生まれたものの、母親の体質を引き継いだせいでヒーローとして使い物にならなかった。母親そっくりに生まれた私は、個性こそ母親より強いものの身体が極端に弱い。その強大すぎる個性を扱う事もままならず、年がら年中病を患って、自室で療養してるほどだ。私達二人は、炎と氷、両親を越える個性を持って生まれたのにそれを扱うことのできない落ちこぼれだった。
 それでもまだ、家族は平穏だった。ハズレの私たちを父親は咎めるでもなく、あるのかわからない愛情と、ふんだんな資金でもって養育してくれた。冬美と夏雄もそうだった。私たち四人はすべてハズレの子供たちで父親の望んだ個性はないから跡取りにもならず、公平に愛も期待も受けずに育ってきた。変わったのは末の弟が産まれてからのこと。生えてきた髪の毛は私達とは異なり、ぱっくり半分に別れていた。瞳の色も左右で違う。私と燈矢が一人の人間が二人に別れて生まれてきたのと違って、別個の二つの人間が、無理やり一つになったかのような色を持って生まれてきた弟は、やはり個性も特別だった。

「お前はあいつらとは違う」

 そう言って弟は上のきょうだい達から引き離された。ハズレの子供たちに与えられなかった父親の愛は、期待は、末の弟一人に向けられることになる。炎とは生きていく上で必要なものではあるけれど、激しく苛烈で攻撃性も大変高い。父親の愛は、期待は、幼い弟が受けきれるものではない。焦凍はまだ小さいのよ、と母が弟を庇う声を一番聞いていたのは、寝たきりで家にいた私だと思う。
 可哀想な焦凍。私の弟。あなたが傲慢な性格であればよかった。出来損ないの上の子らと違って自分は選ばれた才能のある人間なんだと。この家で唯一の成功作なんだと、そう言い切れる嫌な子供だったらあなたの人生は幸福だったのに! どうして優しい子に生まれてしまったの。自分の痛みや苦しみだけじゃなく、自身を庇う母親の痛みや苦しみまで抱え込んでしまったの。可哀想な焦凍。私の弟。あなたは悪くないのに、なんにも悪くないのに、母親から向けられた憎悪の視線をそのまま受け継いで父親を睨み付けている。

「お母さんは悪くない」

 自分に大きな火傷を追わせた人にまで、そんなに優しい気持ちを持たなくてもいい。あなたが自分を許せなくっても、私があなたを許してあげるわ。

 母が焦凍に火傷を負わせてすぐ、父は母を病院へ入れた。それは自分の跡継ぎを傷付けた母が憎かったからではなく、母の精神も限界だったから、彼女の心を守る為にも必要な措置だった。でも不器用で、罪深い父親は、自身の犯した罪によってそう思っては貰えない。彼も彼で、可哀想なひと。
 母親がいなくなって、家事をする人がいなくなった。年齢的に私ができなくもないが、私は肉体的に無理だ。冬美も、お手伝いレベルならまだしもすべてを任せるにはまだ幼い。父はすぐに家政婦を手配したが、急いでも数日の期間はあく。その間、私と焦凍は広い家に二人っきりだった。

「お姉ちゃん……お部屋、はいっても、いい?」
「いいわよ」

 普段ならこの時間、焦凍は母とテレビを見ている時間だ。そもそも、午前中の間私の部屋に入らず一人で大人しく過ごしていただけでも充分に賞賛に値する。――お姉ちゃんは病気だから、静かに寝かせてあげましょう。焦凍も家族から引き離されてきたが、私も私で家族から離されてきたのだ。孤独は引力を持っていて、一人と一人は引き寄せ合う。だから私と焦凍がそういう関係になったのは必然的なことだった。

「ありがと……」
「ただ……お姉ちゃんは病気で、うつしちゃいけないからお部屋に入るときはマスクちゃんとできる?」
「うん」
「いい子ね」

 本当にいい子。よろよろと上半身を起こした私を気遣いながらもぎゅっと抱きついて甘えてくる焦凍の髪を撫でながら思った。他の弟妹たちと違って混じりっ気のない白い髪。きょうだいの中で一番年の離れている姉。きっと弟の中では母親に私が一番近いのだろう。自分のせいだと言う罪悪感にも耐えられず、だからといって謝る機会も与えられず、ただただ父を憎むことで感情をやり過ごそうとしている。

「ぼくはいい子じゃない……ぼくのせいで、おかあさんが」

 じわりと目に浮かんだ涙を、見ないようにするため、私は焦凍をぎゅっと抱きしめる。ここまで近くにいたら、心臓の音が聞こえるだろうか。

「焦凍のせいじゃないし、例え焦凍がそう思っていても、私は焦凍のことが世界で一番好きで嫌いになんかならないから」
「お姉ちゃん……」

 ぽろっ、と焦凍は涙を流した。甘えられる環境のないこの家で、役立たずの私が存在するのは、この可愛い弟の心を守るためであったら、生まれてきた意味があったというものだ。
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