その噂が耳に入ったのは、街の祭りの賑わいが落ち着いた頃であった。幼い演出家と幼い役者の、小競り合いで終わるはずだったそれはどうやら片方が大怪我をして終わったらしい。
もう少し早く知っていれば、プレゼントの見舞いにでも行っていたが、これまた噂によると彼女はもういつもの調子に戻ってしまっているようだ。今日のディナーでもし声が聞こえてきたら彼女に声をかけてみよう。
貸切の広い映画館の中、適当な席に座ってディナーの開始を待っていると、ほんの少し空気が変わった。次いでざわめきがやってくる。
「ねぇ、あれって……」
「よく顔出せるな、これだけ噂になってるのに」
住民の囁き声はどうやら、件の幼子を指しているようだ。彼女も年齢の割には肝が座っているが、果たして受け入れられるのだろうか。
ポイズンはまだ幼く、そしてかなり尖った演出家ではあるが、その才覚は確かだ。勿体無い。周りが望まないのならば劇団の一員に入ることは難しいだろう。芝居は一人で作るものではなく、ましてや演出家など他者ありきの存在だろうに。
「おい」
すぐ近くにいた住民にポイズンの元へ案内させる。あまり乗り気ではない声を出していたから、少し宝石をやった。
「ポイズン」
少女の、布擦れの音と、ささやかな咀嚼音、そしてお弁当が揺れる音がした。どんな顔をしているのか、そもそも目の前の少女がポイズンなのかどうかもわからないが、それはもう先ほどの住民を信じるしかないだろう。手を伸ばして少女に触れてみようとしても、どうせ払いのけられるのがオチだ。
この少女はきっと口をきこうとはしないだろうから。
「噂を聞いたが、あれは事実か」
返ってくるのは無言のみ。否定も、肯定もしないのは面倒だからだろうか。
「……まぁどちらでも良いが。もし、どこかで脚本家が必要ならば呼べ」
心からの言葉ではあった。彼女の技術はこれまでの舞台を聞いて知っているし、彼女を利用したいと自身も考えている。それに、まだ世間を知らぬ幼子の間違いは許すのが大人というものだろう。人の悪性ばかり見ていれば損をするのは己だ。
「説教などは不要だろうが、事実であろうとそうでなかろうと、仕事をするのに必要なものがあるならば利用するがいい」
ごくん、と彼女の何かを飲み込んだ音を聞いて、それを皮切りにため息をついた。もう少し社交性を身につければきっと彼女もいい演出家として名声を轟かせられるだろうに。
「それだけだ」
最後まで彼女は何も言わず、理解しているのか聞いているのかもわからないままだった。どうでもいい、と突き放せないのは、己の中のエゴだろうか。
カツ、と杖を利用して段差を登る。途中、見かねた住人が席に戻るのを手伝ってくれたが、何も言わなかった。