心構え...
生まれて初めて、男の人の家に外泊をした。
「.....かなめさん?」
『.....ん、』
「ねむいんでしょ」
『.....おきてる』
「ねむいじゃん」
『.....おきてるってば...』
「いいよ、もう寝よ。疲れてるでしょ」
『起きてるって、ほら』
「...…いい」
『ちょっと、』
「やだ。もう寝るって............っ!?」
トサッ、という音と共に視界がぐるっと反転する。
...なんで???
「ちょ、っとまって」
『ん?』
「この状況は〜......なに」
『なにって...押し倒した。』
「うん、うん。...うん?なんで?お、落ち着いて???」
『俺は至って冷静なんだけど』
「さっきまでうとうと〜って、とろ〜んって寝そうな目し
てたじゃん!というか寝てたじゃん!」
『色々考えたら目が覚めた』
「い、1回、起き上がりたいな〜......ふんっ」
これが男の人の力?両腕で押し返してもビクともしない。
『...恥ずかしいの?』
「なっ...!?あたりまえで...」
『顔真っ赤』
「〜〜〜!ち、ちかい!ちょ、ちか...!」
どんどん近付いてくる綺麗な顔。
こんな状況でも見惚れてしまうくらい綺麗。
「ちょ、っとまっ...(ちゅっ)」
二人だけの静かな室内に響く、小さなリップ音。
音と同時に、離れていく綺麗な顔。
「◎△$♪¥●&%#?!」
『ぷっ... どんな顔してんの...くくっ』
「かっかかかかか、かか、かなめくん!!」
『なに』
「なに、じゃなくて、なにした、の...いま...」
『なにって...キスだけど』
「そんな平然と...!?」
体は素直で、みるみる赤くなる私の顔。
自分でも分かる。
いや、いやいや、まって...情報が多くて、パンクしそう...」
『はぁ...まずひとつ。俺達は恋人。』
「恋人...」
『ふたつ。今日が初めての外泊。』
「外泊...」
『みっつ。そういう年頃、お互いに。』
「年頃...」
『...好きな人と一緒に居て、考えない方が無理』
「好きな人........好きな人?」
『は?アンタしか居ないんだけど』
「わたし?すきなひと?.........ぅえ!?!?」
『え、何言ってんの...?』
「あ、ごめ...まだ慣れなくて...わぁ...わたしカナメくんと、
こいびと...なんだ…」
『.........可愛い(首筋に口付ける)』
「っ...!ま、でも、順序が!ある、じゃん...!ステップアッ
プし過ぎ!三段飛ばしは筋肉痛になっちゃう!」
『うん。よく喋るね。』
「ちょ、話しかけながら服にさわるな!」
『はぁもう...なに』
「もうちょ、待って、心の準備が...事前に日程を組んで...」
『事前にって。ムードも何もないんだけど』
「む…、こ、こう、デリケートな部分はさ、その...お互い
に、ね?慎重にやっていこう...ね!?」
一瞬呆れた顔をして『ぷっ』と吹き出す彼と、ひたすらに
焦る私。
心臓の音がうるさい。
『ふふっ、分かった。我慢ね』
「物分りのいい偉い子!はい!とりあえずそこ退こうか!」
『ふあ〜ぁ.....眠くなってきたかも』
「あの、」
『ちょっと...こっち、んー、ここ』
「.........カナメくん」
『ん』
「.....甘えてるの?」
『そうだね』
「ふーん...?」
『...なに。』
「べつに〜...かわいいとこあるじゃんって思っただけ〜」
『襲うよ』
「ごめんなさい」
カナメくんは、私を抱き枕のように腕に収めると、ごろん
とベッドに寝転がってすーすーと寝息を立て始めた。
...本当にかなり眠かったご様子。
いつも私より上手で何をやるにも完璧で、ひとつしか違わ
ないけどちゃーんと歳上らしくリードしてくれて。
そんな完璧人間みたいなカナメくんにも、甘えたい時があ
るんだって思ったら、なんだか新しい一面を知れたみたい
で嬉しくてあたたかくて、自分がその相手になれているこ
とがやっぱりまだ信じられなくて、奇跡のように感じた。
...幸せだなあ。
「...私を選んでくれて、ありがとう。」
『(っ……可愛い。…いつまで我慢出来るかな、俺。)』
私もその後すぐ眠っちゃったみたいで、
次の日の朝、久しぶりのデートなのに、二人して寝坊した
のはまた別のお話。