good morning, and Good night.


※「Hello, and goodbye.」の続きです。R18要素を含みますので18歳以下の方は閲覧をお控え下さい。











「あっ、」と洩れ出そうになった声を咄嗟に掌で塞いだ。ここは地下だ。
コンクリートに囲まれた広大な空間でそんな声を出せば、絶対響くし、恥でしかない。
無骨な指が背後から股下を弄ってくるたびに、私は肩を揺らした。
膝もガクガクと震えて、力が上手く入らない。
耳元で低く笑う声が聞こえて、それがさらに羞恥心を上乗せさせる。



ポルシェを擦ったとベルモットに相談していたら運悪く持ち主に話を聞かれ、怒ったジンニキに引っ張り連れ去られた私は駐車場にて現場検証をしていた。
車はアジトの入り口から地下駐車場へと戻してあったから、そこからどういう経緯を辿りどこでそうなったのかを粛々と説明していたら、いつの間にかこのザマだ。

なに、これ。……体で弁償しろっていうヤツ?
車内プレイならいざ知らず、自分の愛車に女を押し付けてのプレイだなんて、……まさかジンニキは変態だった?




「腹が立つ顔だな」

「そう見えるだけじゃない?」

「いいや。手に取るようにわかるぜ。お前が何か、よからぬことを考えてるのはな」


いっそう指の動きが激しくなる。
突き上げてくる快感に身を捩らせながら、なんとか私は平静を保とうとした。
ジンとこういう行為をするのは初めてのはずなのに、この男は先程から実にセンス良く性感帯を突いてくる。
悔しくて涙さえ滲む。
「うう……こうなったら車体を指紋でベタベタにしてやる」そう思って私は腕の力をへにゃりと抜いた。
車体に手をかけて何とか支えていた身体が崩れかかると、ジンはすかさず、私の腰を支えた。



「なんだ、もう我慢が利かねえか?」


引きぬかれた指がぬらりと粘液を纏って太腿を撫でてくる。
「そんな訳無い」って笑い飛ばしたかったけれど、正直限界は近い。
以前ベルモットが、「ジンは巧いわよ」って評価していたけれど、確かにこれは、まあ、……中々だ。
相変わらず恐すぎる顔面が、私の好みからは外れてるけど。


問いかけを無視して奥歯を噛んでいると、くるりと身体の向きを反転させられた。
ちょうど恐いと思っていた顔と正面から向かい合うことになり、身が竦む。
冷徹な色を宿した瞳の奥に、普段見せないような獣のような激しさが見える。
うん。さらに恐い。
しかも先程から胸元に当たるガツガツとした硬いもの。
「……コイツもしや懐に拳銃をしまったままなんじゃ?」と思ったが口には出さなかった。
そんなことを指摘して行為を中断させれば、ジンの機嫌を損ねるだけかもしれないし、懐から銃を取り出させるという選択は、ただ死に急ぐだけかもしれない。

顎を掴まれ、そのまま唇が合わさる。噛まれるんじゃないかとヒヤヒヤしたけれど、案外口づけは優しかった。
彼の舌が私の口内を蹂躙していく。時に合わさり、絡められ吸われる。
その間に放置された下半身がまた疼くようになるあたり、私もだいぶはしたない女だ。



「ねえ……。もう、充分でしょ」



何もかも彼に委ねてしまいたい感情と、何としてでもブレーキを掛けたい理性とが激しくぶつかる。
こんな危険な男と深く関わるのはやめておけ、と、頭の中で警告が鳴り響く。
同じ職場の男と、だなんて厄介過ぎる。
大人としても、組織の人間としても未熟な私は、ベルモットのように、うまく感情を割り切るということすら、できないし。

ジンの肩口を押して、逃れようとするも、逆にその手を捕られてしまった。


「ああ、……充分だ」


そう言ってジンが私の腰を抱え上げた。
そのまま車のボンネットの上に降ろされて、一気に思考が固まる。


「な、何が!? 何が充分……!?」

「うるせえ」

「お、降ろしてよ、私、こんなっ、」

「キャンキャン騒ぐな、キティ」

「誰が子猫じゃ、……ちょ、……アっ!?」



私が無駄口を叩き騒いでいる間に、なんとこの男はちゃっかりしっかりズボンのジッパーを下げ、自身のものを私の股下へと宛てがっていた。
本格的に下着のクロッチ部分をズラされて思わず「ヒイっ」と息を詰める。



「…………っ!」



肉の壁を割って入ってくる感覚に、身体が硬直する。「力を抜け」と言われたけれど無理だ。無理。
こんなでかいものを挿れられて、平然としていられるわけがない。
ああでもベルモットなら……ううん。今はやめておこう。一瞬思い浮かんだ金髪セクシー美女を、余計な事だと頭の中から追い出した。

服を捲し上げられ胸の頂きを弄られて、下の口を彼自身のもので責められて、嬌声が漏れる。
地下だから響く、なんてことも、もう気にしてられなかった。
腰を打ち付けられる度に狂いそうになる。彼の欲を受け止める度に車がユサユサと揺れる。
身体中が熱い。のに、黒のボンネットに押し付けられた背中だけはひんやりと冷たかった。










「………………弁償になりましたでしょうか」


自身の額に腕を当て、肩で息をしながら、懇願にも近い形で問いかける。
股の間がびしょ濡れで気持ち悪い。グショグショになったパンツ脱ぎ捨てたい。腹の上に吐き出された液体もシャワーで流したい。
なのにこの男ときたら………。

傍らで、マッチを擦る音が聞こえる。ついですぐに苦い煙臭さが鼻腔を衝いてきた。





「この程度で弁償とは俺の車も安く見られたモンだな……まあ……少なくとも小賢しい真似で誤魔化そうとした愚かさは帳消しにしてやるよ」

「…………あ、ありがとうございます?」

「フン…………」




明日の命は、とりあえず保証された。油性ペンの許しも貰った。湾岸ルートも消えた。
……撃ち殺されなかっただけマシと見るべきか、否か。

私は釈然としない気持ちのまま溜息をついて、コンクリートの天井を眺めた後に、目を閉じた。



「おい……寝るな」

「…………こんな所で寝るわけないでしょ」



こんな駐車場で、という意味の言葉であって他意はなかったのだが、ジンは『こんな所』=『愛車の上』と取ったらしい。またもやこめかみにゴリっと黒のベレッタが食い込んだので、もういっそこれ以上余計な事は言うまいと、私は口を噤んだ。

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