三文芝居に三行半1


シリウスに付き合ってくれ、と言われた。
どこにって聞いたら、「どこだと思う?」って返されて、じゃあ「男子トイレ?あんた一人でトイレにも行けないの?」と軽口を叩いたら、流石に怒られた。

あたしを怒るより、あんたはどうなのよ、シリウス。
たぶんあなたの方が、怒られるべきなんだよ、こういう時。





「ふうん、シリウスとしてはもっと色んな女の子と遊んでいたいから、とりあえずあたしと付き合いたい、ってわけ?」

「今、名前はフリーだろ?こんなこと頼めるの、お前しかいなくて」

「あったり前だよ。なにソレ、体のいい当て馬じゃん。むしろ諸手を上げて引き受ける子がいたらびっくりだわ」


あたしという彼女の存在があるということで、シリウスは相手の子に言い訳が立つ。
深入りせずに、浮気と称して身体だけを繋げる、言い訳が。


恋人という煩わしい関係を結びたがらないシリウスの性格からして、一人の子限定で愛することは、窮屈なのかもしれない。
ただでさえこいつは、外見だけは王子様のように格好いい、申し分ない。中身はこんな、腐った男だけど。
来年になればホグワーツも最終学年だ。今が遊び時、そう感じているシリウスの魂胆がありありと見える。



「俺と名前の仲だろ。頼むっ!ひとときの自由を、下さい」

「最低なクズ男だよソレ。いっそ、女に刺されてまえ」



どんなに頼まれようが土下座されようが足を舐めて乞われようが、断固拒否。
あ、最後のはちょっとトキめいたかもしんない。シリウスがもしやるって言い出すなら、考えるぐらい、してやってもいいなあ。



「なんで!お前、いつもエバンズに言ってるだろっ。えーと、……なんだけ?命短し、一夜恋せよ?」

「一夜ってなんか不純、これだからシリウスは不潔なのよ」

「はあ?じゃあ、なに」

「命短し、人よ恋せよ。だよ、バーカ」

「それそれ」

「だからあ、それはー。最近、真面目正しく構成してきたジェームズくんを哀れ哀れになった心優しい名前様がぁ、二人の恋を応援しようと思ってんじゃない。リリーの背中を押すことと、あんたの背中を押すことは違うのよ」


ジェームズの為にリリーの説得を試みているのだ。
だってほんとあの子、近頃は生れ変わったかのように品行方正だし。
まだ時折の悪戯はするものの、可愛いレベルだ。過去のように、目に余るものじゃない。



「ね、シリウス。あんたも少しはジェームズを見習いなさい」

「げー。やだよジェームズなんか。あんな、妄想癖で自惚れ屋の、どこがいいんだ?名前はああいう男が、好きなのか?」

「……君達、たしか親友同士だよね」


シリウスの言い様が、あまりに酷い。
的確にマトを射抜いているだけに、酷い。



「うーん。……例えば、リリーが死ねと言ったら喜んで湖に飛び込むよ、あの子」

「物騒な例え使うなよ……。あ、でもジェームズならやりかねないな」

「でしょ?あたしはそういう純愛を好むの」

「純愛か、これ?お前の愛、鬼畜すぎねえ?もっと軽くなんねえの?」

「あんたはあたしをどうしたいんだ」



さっきから言いたい要領が掴めない。話が脱線しまくりだ。
煮え切らないシリウスの言葉に若干苛々しつつ、仁王立ちしていた爪先でコツコツ、シリウスの革靴をつつく。



「俺と付き合って」

「だからどこに。男子便所?」

「お前が嫌がるようなことは、ぜってーしないから。つーか、大事にする」

「人のお話はちゃんと聞きましょうねえシリウスくん」

「キスもセックスも、お前がいいって言うまで、他の子で我慢する」

「……だからいっぺん、湖に沈んでくる?そしたら、前向きに検討してやるよ」



何が付き合ってだ。何が他の子だ。
ほんとどうしようもない奴だな……!

そもそもフェイクで付き合ったとして、シリウスにいい、なんて言わないから。
そこらの女子とあたしを一緒にするな。



ひゅうと囃し立てる口笛が聞こえた。ジェームズだ。ニヤニヤしながら、こちらを見ている。
リーマスとピーターは、その後ろで苦笑していた。



ああもう。我慢の限界もいいとこだわ。



「あんたとなんか付き合ったら、それこそ身の破滅ね」



あたしは持っていた鞄で思い切りシリウスの顔面を殴って、きれいさっぱり華麗に身を翻した。

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