5ミリ以上の刺殺


どうすれば傷つけることが出来るのかなって真剣に考え始めて、考えて考えて考え尽くして考え抜いて、既に5時間が経過した。
こんなことに時間を割くだなんてはっきり言って無駄だしそもそも非効率的だ。
だって対象物ときたらトラックに轢かれても死なないしナイフで刺されても死なないし、もうこれおかしいよね。
え? いやだって真面目にさ、不可能でしょ。こんなバケモノを私みたいな一般人がどうこうできるって話じゃないわけ。
なら何故こんな馬鹿げた問題に捉われてるかというとね、一種の向上心なんだよこれは。
どこかのウザヤが君を始末しようとどれだけ尽力してもさあ、あれ、全然効果ないじゃん。今のところ。
無敵強気怪力パワーで跳ね除けてるじゃん、今のところ。
……ああ、分かってるよ。苦労してないとは思ってないよ? その辺は分かってるって。
けどさあそうまでしてもあのノミ蟲ヤローが出来ないことをね? 私がね、さらっと? そりゃもう手際よく、やちゃったとしたら?
すっげーカッコよくない、すごくない。



「シズちゃんシズちゃんねえシズちゃん、私の話も少しは聞いてよ君の事についてこんなに長々と思考してるんだからさあ。少しくらい興味持ってくれてもいいじゃないの、ねえ、ねえねえねえねえ!」

「少しは黙ってろお前」

「黙ってろってなに? 黙ってろってなに? こんなに美人で可愛い女の子が言い寄ってるってゆうのに、そういうこと言っちゃう?」

「……ぁぁぁああ、うぜえ! 胸糞わりいな、たく! そういう所もノミ蟲にそっくりだぜ」

「私? 私のこと? 私がノミ蟲ヤローに似てるって? 心外だなああんな男と一緒にされるなんて。折原臨也と被るデータなんてDNAだとかそんなくだらない血の繋がり程度のもんでしょ、なにか問題ある?」

「問題だね。そこが、果てし無く地雷を含む大問題だ」



スタスタ足早に歩く平和島静雄を小走りに追いかけながら、私は彼の隣を必死にキープする。
池袋の路地裏なんか目を瞑って歩けちゃうくらい知り尽くしてるから見失ったって別に平気なんだけど、今、私がここにいる目的は彼自身にあるのだ。
それなのに、シズちゃんはどんどんズンズン、歩いていってしまう。



「ねえ、ちょっと待ってよ、静雄くん、平和島さん、シズ、……シズちゃん」

「うぜえ! お前もうほんとうぜえ……!」

「あ、止まった」

「……いい加減にしろ、もう俺についてくんな、付き纏うな、池袋に来んな、新宿帰れノミ蟲の妹」

「ああ、またそれ言う! 九瑠璃と舞流に対してはフツーに接してるみたいだけど、なんで私だけ毛嫌いするかなぁ……」

「あいつらよりもお前が、一番、限りなく、それこそ本人みてえにノミ蟲に似てるからな」

「……むぅ。持って生まれてきちゃった性格はしょうがないよ……。それこそ、兄妹だもん……」

「あと見た目もなんか似てる。ムカつくぐらい似てる。髪色とか服の趣味だとか目つきとか」

「…………そ、そうかな……。そこまで、似てるかな、……ノミ蟲に、」



自分の横髪を掴んでみる。
確かに、私の髪はロングだけど癖のないストレートで、色も兄と同じくして真っ黒だ。
ファーつきの黒コートだし、目つきが悪いとよく新羅から注意されるので、最近では鏡に向かって笑顔の練習もしている。
けれども、あの人格破綻者と似ている、だなんてあんまりだ……。



足を止め、シュンと地面を見下ろす私に、流石のシズちゃんも同情したのだろう。
先に行きかけていた距離を戻って、私の前に立つ。



「あー……悪い。今のは、言い過ぎた。お前、マジでそっくりだから、つい、な。ごめんな」



謝ってはくれたのだが、フォローになってない。

それでも、口下手な彼からはちゃんと伝わってくる。
不器用な優しさ。
怒りっぽい性格と、乱暴な口調の裏側にある、隠れた優しさだ。
そして毛嫌いしているはずの私にも、優しくしてくれる。



「……やっぱり静雄くんって、面白いね。興味が尽きない対象だよ。もう、これだから好き。大好き。私は、平和島静雄が好き。愛してる。もう量り得ないほど、愛している。大好き。スキ。好き好き大好き! だからね、シズちゃんの方も、私を愛するべきだと思うんだ。あ、今思いついたんだけど、こういうの、どう? シズちゃんを私に惚れさせて、ドッロドロの骨抜きにして、そしてから手酷く振るの! そりゃもう暴言吐いて、分かち合ったはずの愛を全て否定して、……そうすれば、深ぁあく君を傷付けることができるんじゃないかな? 肉体的な意味じゃなくて、心を、だけど! ウフフフ!」

「…………。お前、ほんっとノミ蟲の妹だな……」

「だからー、それ、言わないでよ。 超心外!」

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