「わたしはね、誰かの…ううん、彼の、代わりなんだよ。」
いつも通りの夜、いつも通りの先輩との休憩時間。ココアの入ったマグカップを両手で抱え、いつもと変わらない笑顔で先輩はそう言った。
言葉の意味がよく分からなくて、思わず首を傾げる。
「代わり…先輩は先輩であって、他の誰でもありません。誰かの代わりなどではなく、私たちのマスターです。」
「そう…だね。そう、わたしは、藤丸立香だ。他の誰でもない。…変なこと言ってごめんね、マシュ」
困ったような、けれど泣きそうにも見える笑顔を浮かべると、先輩は両手で抱えていたマグカップに口を付けた。釣られるようにして、自分も手にしていたカフェオレを一口啜る。
淹れてからそれほど時間は経っていない筈なのに、カップもカフェオレもすっかり冷えてしまっていた。
あたたかいものを淹れ直してきましょうか、と慌てて立ち上がるも、このままが良いんだ、とまた泣きそうに笑って、先輩は冷めたココアに再び口を付ける。
その瞳は、まるでどこか遠いところを見ているようだった。先輩、あなたは今、何を見ているのですか。
そして、どこに、いるのですか。