ゲートをくぐり、ふと違和感に首を傾げた。いつもは短刀たちのはしゃぐ声が聞こえてくるのに、まるで生きているものが何もいないかのように、本丸は静かだ。話し声や足音どころか、風の音さえも聞こえない。ごぼり、と嫌な音を立てて心の中に湧きあがってきた、一つの答え。
それがはっきりと姿を現したときには、私は思わず駆け出していた。そんなはずない、ありえない、そんな否定の言葉を繰り返し吐き出しながら。
「あ、………」
執務室に飛び込んだ瞬間、思わず床に膝をついた。いつもなら真っ先に出迎えに来るはずの彼…否、その本体が、砕け折れた状態で床に横たわっていたからだ。
私が本丸を留守にしてしまったから。現世の病院になんて行ったから。だから彼は、主である私をこの姿で迎えることになってしまったんだ。
そう思うと悲しくて情けなくて悔しくて、けれど過ぎてしまったことはどうにも出来なくて、滲む視界もそのままに、彼だった破片のひとつに手を重ねた。
「私、ね。貴方のひまわりみたいに眩しい笑顔が、おひさまみたいにあったかい声が、大好きだったんだ。」
ぷつりと。破片が皮膚を突き破って肉を刺す、ちいさな音がした。指先からぷっくりと、赤い雫たちが顔を出す。
「私もね、のうがわるいんだよ。」
破片たちを辿って、まだ形の残る柄へと手をのばしていく。
「もう、永くは生きられないんだって。」
だからね。と、言の葉を紡ぐことはやめないまま、指先に血をにじませたまま柄を握りしめる。
「私の人生の幕を引くのは、貴方であってほしいんだ。」
例え貴方と同じ処には、逝くことが出来ないとしても。
ごとり。なにかが落ちる音が、執務室に響きわたった。