物心つく前から、変わった子だと言われていた。
薪を割った時の端切れを耳に当て「もしもし」と言って遊んだり、竃の端をツンツンと指で突いて火を起こそうとしたり、箪笥の中に物を入れたら雪のように入れた物が冷えると思っているような頭のおかしい子供だった。
大人たちが成長するにつれ収まるだろうと期待していた奇行は、年々悪化していった。教わってもいないのに文字を書き算術を使う。聞いたこともない珍妙な歌を口ずさみ、異国の言葉を喋る。誰もいない所に向かって楽しそうに話しかける。失せ物の場所を言い当てる。数日先に起こる出来事を言い当てる。人の心の内を読む。
そのうち周りからは神がかりだ、狐憑きだなどと後ろ指を差されるようになった。
なんとも気味の悪い子供だが、気味悪がる周囲の大人たちとは違い、楽天的な性格だった両親はそんな子供でも可愛がって育ててくれた。近所の子供達にはいじめられたけれど、不思議と子供に迫害されるのは気にならなかった。
ただ、自分でもよく分からない違和感があって、それが日に日に膨らんでいってどうにも生き辛さを感じていた。
そうして生きているうちに、妹が生まれた。6歳の時だった。生まれたての妹が産婆から母に渡されて、ほぉら、彩刃の妹だよと言われて、差し伸べた手を小さな手にぎゅっと握られた瞬間、はっとこれまでの違和感を理解した。
ここは私が生きていた頃よりずっと前の時代だったんだ。
どうして忘れていたのだろう。
携帯電話もコンロも冷蔵庫もあるはずない。だって私が生きていた頃よりずっと昔なのだから。一般家庭に生活家電が入るのも、電話が携帯できるようになるのも、英語が必修授業になるのも、色んな国の音楽が聴けるのもずっと先の話だ。
子供の幼気ないじめを気に留める訳が無い。だって私は大人だったんだから、子供にちょっと馬鹿にされたくらいでは聞き流して終わりだ。
どうして忘れていたのだろう。
私、死んで過去の人間に生まれ変わったんだ。
記憶を取り戻した衝撃でボロボロと涙をこぼした私を見て、両親は困った顔で笑っていた。ずっと感じていたズレが消えてどこかスッキリとした頭で、私は赤子の頭をそっと撫でた。きつく握られた手が、愛しくてたまらなかった。
ああ、きっとこの子と一緒に私も今生まれたんだ。
この子は私の魂の恩人だ。訳の分からない違和感に包まれて生きている私を助けてくれた。
だから、今度は私がこの子を助けてあげよう。この先の人生、ずっと幸せであるように。
「虹ノ原、妹の名前はセイよ。まだ小さいから、貴方も助けてあげてね」
「…うん、助ける。お姉ちゃんがずっと守ってあげる」
「あら、頼もしいお姉ちゃんね」
泣きながら返事をした私をみて、母は安心したように笑っていた。
***
妹が生まれてから、私の生活は一変した。