オレンジトワイライト


もしかしたら、隆平も私を...なんて思っていた。確信があるわけではないけれど、一緒に居る時間は長いし、隆平に『ふたりで』と誘われることも増えたから。

だから、休み時間に隆平が女の子に呼び出されているのを見て動揺した。いても立ってもいられなくて二人のあとを追い、息を潜めて向かい合う2人を覗き見た。
自分の煩い心臓の音を聞きながら、顔を真っ赤にした隆平が口元を押さえるのを見ていた。不安で、怖くて、見ていられなくなって俯くと、私の耳に僅かに届いた隆平の声。ただ唇を噛み締めて逃げるようにその場を後にした。



ぼんやりとしていたら突然私の前に隆平の顔が横向きに現れたから我に返る。

『さっきからずーっとぼーっとしてんなぁ』

ふふ、と笑った隆平を横目で見て俯く。
...あんたのせいじゃない。あれから隆平のことばっかり考えてる。『一緒に帰ろ』っていういつものお誘いにすら緊張しちゃうくらい。

「そんなことないよ」
『ふーん、ならええけどぉ』

自分から言ったくせに大して興味のなさそうな返事が返ってくる。
けれどそれっきり沈黙が流れてちょっと居心地が悪い。いつもなら無理しているんじゃないかと思うくらいマシンガントークの隆平が、今日に限って喋らないなんて。

隆平が、ちら、と私を見た気がしたから目を向けると、その顔はもう俯いていた。すると隆平の口が開いてまた閉じて、暫くの沈黙の後、顔を上げて一瞬だけ私に視線を向けた。

『...今日な、隣のクラスの子にな、』

まさかその話を持ち出されるとは思わなかったから、動揺して一瞬で体温が上がる。

『...告白、された』

...知ってるよ。だって見てたもん。
伺うように隆平に目をやれば、ちらりと私を見て顔の前で手を振る。

『...や、ちゃんと断ってんけどな!』

...それも知ってるよ。
“好きな子が居る”
って、言ってたよね。聞いてた。

隆平はどうして私にそんな話をするの。私が見ていなかったとしたら、わざわざ言う必要もないのに。

「...そっか」
『...うん、...ちゃんと、言うてきた...』

...だから、なんで私に報告をくれるの。そんな言い方されたら期待しちゃうじゃない。隆平の言う“好きな子”が自分なんじゃないかって自惚れちゃう。

「ん、それで…?」

私の言葉に一瞬動きを止めてから視線が逸れ、隆平が言い掛けた言葉を呑んだように見えた。
苦笑いを浮かべた隆平が自分の頭をわしゃわしゃと掻き乱し首を捻る。

『...あは、...俺、何が言いたかったんやろ、』

困ったような笑顔で逸らされた隆平の顔は赤く染まってるのに。期待してしまった私の胸の高鳴り、どうしてくれるの。
だからと言って自分から言うことは出来ないのだから私も同じ。妙に焦る様な気持ちのせいで胸がズキズキと痛んでいた。

ふと隆平を見遣れば、伺うように私を見ていて視線が絡んだ。唇を噛んでいた隆平が何か言いたそうにしているからドキリとする。

『...見てたやろ?』

ドクリと心臓が脈打った。何を?なんて、聞かなくてもわかる。

『...汐里だけは、見間違えたりせぇへんはずやねんけど、』

思わず足を止めた私の横に立ち止まって、隆平が遠慮がちにちらちらと私を伺う。
もう隠し切れない。こんな反応をしてしまったら見ていたことも勿論、追い掛けたこともバレてしまう。
...そっか、違う。もうバレてるのか。

「......見てた、」

隆平がごくりと唾を飲むから緊張して目も合わせていられなくて俯いた。この後の言葉なんて考えていない。もう頭は働いてくれない。ただ、想いを伝えるのだけは、やっぱり怖い。

『...汐里やねん』

視線を上げれば、眉を下げ妙に情けない表情で顔を赤く染めた隆平が私を見ていた。

『好きな子は、...汐里やから、』

泳いだ私の目が捉えた隆平の拳が、腿の横で固く握られていた。それを目にしたら、意外にもすんなりと言葉が運ばれてきて顔を上げる。沈む直前のオレンジの夕日に照らされた隆平の顔は、ますます真っ赤に染まって見えた。

「...私も、...好き、」


End.