不機嫌スウィーティー


頭痛で目が覚めた。目を開けると更に動悸を打って痛みが増し、こめかみ辺りを押さえる。

ふと目に入ったシーツの色が見慣れないものだったから恐る恐る辺りを見回す。すると飛び込んで来た亮ちゃんの顔にドクリと心臓が音を立てた。
ベッドの隣で頬杖を付いて、不機嫌そうに私をじとりと見つめるその顔から思わず距離を取る。
すると、ぱっと手首を掴んで引かれ、ますます心臓が早鐘を打つ。

『...落ちる』
「え、」
『ベッドから落ちるって!』

大きな声に思わず顔を顰めた。高鳴る鼓動も怒鳴るような声も、頭に響く。
すぐに手首から亮ちゃんの掌が離れ、ベッドの淵に座り威圧的に私を見下ろす。

「...頭痛い...」
『そらそうやわ』

表情だけではなく不機嫌丸出しのトゲのある口調の理由も理解出来ない。
...その前に、まずどうしてここにいるのかも理解出来ていないんだから。
とりあえず頭をフル回転させながら体を起こして、伺うように亮ちゃんを見遣る。

「......怒ってる?」

鼻で笑って私から視線を逸らした亮ちゃんが、盛大な舌打ちをかまし煙草に火をつける。

『覚えてないやろ?』

昨日は...飲み会だった。二次会、までの記憶はある。二次会で亮ちゃんが隣に居て、
『水滴ついてるで』
と急かされるからペースも上がっていた。
『...一緒に、帰る?』
覚えている限りで最後の言葉は、亮ちゃんのそれだ。
その後は、...思い出せない。
いつみんなと別れたのかも、どうやって亮ちゃんの家に来たのかも、何を話したかも、全く何も覚えていない。

『...腹立つわぁ』

煙を吐き出しながら心底苛立ったように言った亮ちゃんの目が、また鋭く私に向けられたから戸惑う。何度目かわからない舌打ちが亮ちゃんの心を表しているようで、掛ける言葉も見つからない。

『帰りたくない言うから連れて来たのに』

頭が一瞬真っ白に染まり、すぐに意味を理解して今度は顔が赤く染まり始める。どんどんと上がっていく体温で顔が火照って仕方ない。

「...え、まって、」
『お前が誘ってきたのに先寝られた俺の気持ち考えてくれよ...』

あんなに威圧的だった亮ちゃんの声が尻窄みの情けない声に変わって項垂れる。

ちょっと待って、...誘ったの?どれだけ大胆な言動をしたのか予想もつかず、ただ顔に集中する熱を隠すように頬を掌で覆う。
...でも、受け入れてくれようとしたってこと...?でも、でも...

「...全然、...覚えてない、」

ごめん、と言おうとした瞬間に顔を上げた亮ちゃんに噛み付くような目を向けられ思わず言葉を飲んだ。

『せやろな!だから怒ってんねん!...アホ!』

怒っているというより寧ろ拗ねている方に近いその態度が、こんな状況でも私の胸を擽る。
忘れられて指に挟まれたままの煙草、興奮で荒い吐息、尖った唇。怒られているのは私なのに、たまらなく胸が甘く締め付けられて苦しい。

「...ごめん、ね...」
『シャワーまで浴びたのに!』

不貞腐れた子供のように訴えながら煙草を灰皿で揉み消し、大きく溜息を吐いてまた亮ちゃんの唇が尖る。それを見て思わず苦笑い。でも、やっぱりその横顔が愛しい。

「...だから、ごめんてば...」

睨むように流れてきた亮ちゃんの目が私を捉えたまま立ち上がり、ベッドに乗り上げた。

「...何笑ろとんねん」

口元を引き締めて首を横に振れば、私の足を跨いだ亮ちゃんが顔を寄せる。覗き込むように私を睨むその目は、寧ろもう上目遣い。

『...ほんっま、腹立つ』

言葉のわりに優しく柔らかく唇が触れた。すぐに離れて至近距離で私を見つめる瞳が、照れたように逸らされる。

...頭、痛い。胸のドキドキが頭まで響いて、痺れるような感覚。

私に戻って来た亮ちゃんの目に気を取られていたら頭を支えられ、押付けられた唇。そのままベッドに倒れ込むと、啄むようにキスを繰り返してから抱き寄せられ、横向きに転がりながら私を腕の中に閉じ込めた。

『もっかい寝ろ。...ほんで、はよ治して』

不器用に髪を撫でる指も、触れた胸から伝わる少し早い鼓動も、愛しくて堪らない。
覚えていない。何も思い出せない...んだけれど、亮ちゃんが私にするそれは恋人と一緒。
頭の痛みは胸へと移って胸がきゅんと締め付けられるから、亮ちゃんの背中に腕を回して心地良い体温に体を委ねた。


End.