シークレットシャッター


緊張していたからアルコールのペースが上がっていた。自覚はしていたけれど、落ち着かなくてついグラスに手を伸ばしてしまう。
私の部屋に章ちゃんが来るなんて、二人きりで飲むなんて、貴重過ぎる。

飲もうと誘ったのは私。家に来たいと言ったのは章ちゃん。そういうつもりはないのかもしれないけれど、ちょっと期待してしまう。だって、多少なりとも私に興味があるから、『家行きたい!』と言ってくれたんだと思うから。

テーブルの向こうに座る章ちゃんは、さっき『ちょっとごめん』と言ってからスマホを弄っている。きっとほんの2〜3分。たったそれだけ黙っているうちに、瞼が重くなる。

...ダメ。寝たら勿体ない。折角章ちゃんと二人きりなんだから。

膝を抱えて膝に顎を乗せ、落ちてきた瞼に逆らうことなくゆっくりと目を閉じた。大丈夫。ほんの少し目を瞑るだけ。

ふわふわとした頭は目を閉じたら更に浮遊感が増した。心地良い浮遊感の中、瞼の向こう側が暗くなったのを感じてゆっくりと瞼を持ち上げる。

すると目を開けた瞬間、目の前にあったスマホからカシャリと音がした。
その音で少し酔いが醒めたような感覚で、私に向けられたスマホのカメラを見つめた。
そのスマホの向こう側から顔を覗かせた章ちゃんの目が真ん丸になって私を見る。

『...あ、...おは、よ...』

たどたどしく言った章ちゃんが慌てたようにスマホを引っ込め、私から目を逸らしてぎこちない笑顔を浮かべる。

「...今の音、何?」
『え、』
「...撮った?」

私をちらりと見た章ちゃんは首を傾げて笑いながら、俯いてスマホを握り締めた。

『...え、や、...スクショ、スクショ、した...』
「...本当?」

だって今、確かにカメラは目の前にあった。章ちゃんの腕は伸ばされていて、立膝で、そんな不自然な格好でスクショとか...する...?

『...スクショ、』
「...こっち向いてた...よね?」

スマホを床に置き、立てた膝に口元を隠すようにして目を泳がせ、明らかに動揺した様子の章ちゃんに胸が高鳴る。
そんな反応されたら、期待せずにはいられない。

「...ねぇ、章ちゃん」

膝から少しだけ顔を上げてフローリングの床を見つめたまま、章ちゃんが言った。

『...そら撮るやろ、』
「...え?」

視線が上がってちらりと私を見た章ちゃんと目が合うと、叱られた子供のようにすぐに視線が逸れて膝に顔を埋めてしまった。煩い心臓の音で聞き逃さないように、膝を抱えた章ちゃんを見つめて言葉を待つ。

『...寝顔、貴重やもん...』

赤く染まっていく耳と横顔を見ながら、私の頬までも熱を集める。
章ちゃんの言葉とその行動が意味するものは、きっと、きっと、私の期待するそれのような気がする。

モゾモゾと動いた章ちゃんがスマホを掴んだ。その画面をちらりと見て、章ちゃんが溜息を漏らして再び膝に顔を埋める。
すると私に向けられたその画面には、寝起きの虚ろな目でカメラを見つめる私が写っていた。

『...カメラ目線やん...寝顔ちゃうし...』
「...ちょ、消して...」

不満げに小さく呟いた章ちゃんに訴えながらスマホに手を伸ばすと、顔を上げた章ちゃんがくるりと画面を逆にして手を引っ込めた。再び私に向けられた画面には“保存しました”の文字が並んでいた。

「...章ちゃん、」
『...今日、泊まってこかな...』

伺うようにちらりと私を見遣る章ちゃんから目を逸らし、ゴクリと喉を鳴らす。
もう一度章ちゃんに目を向ければ、同意を求めるような目で黙ったままの私を不安げに見つめていた。

「...いいよ」

私から目を逸らした章ちゃんが両手で顔を覆った。僅かに見える口元は緩んでいて、真っ赤な耳を見ながら思わずつられて笑った。


End.