ハート・フレーム
大学の敷地内にある桜の木を、少し離れたところから眺めていた。あっちの日当たりのいい場所の桜はもう葉桜になっていたから、残るはここだけ。明日は雨らしいし、今日で見納め。
ふと視線を感じて振り返れば、少し距離を置いてこちらにスマホのカメラを向けた隆平の姿があった。
『あ、待って!さっきみたいにそっち向いて』
モデルでもないのに照れ臭くて、首を横に振ると隆平がふにゃりと笑ってこちらに歩いて来た。
『もー、折角ええ感じやったのにー』
「...だって恥ずかしいじゃん」
『なんでやねんなぁ、ええ顔してたで?』
ふふ、と笑った隆平が中の写真を確認して、私の方へ差し出した。
私の後姿に横顔、桜の木、散る花びら。
こんな風に綺麗に撮ってもらえるなら、もっとマシな格好してくるんだった。
『な?』
「...いつも勝手に撮るんだから、」
『だって“撮るでー”言うたら自然な姿撮られへんやん』
みんなで出掛けた時だって、いつも微笑みながらスマホのカメラをみんなに向けているのを知っている。大倉くんの寝顔が何枚も入っているのも知っている。たまに私へも向けられるそのカメラを通して、この恋心が伝わってしまわないか不安になる。けれど、隆平が撮ったたくさんの写真の中に私が存在することに、胸が甘く締め付けられる。
「講義中にぼーっとしてるとこ撮るのはやだ」
『あは、ええやん。この前の、なかなか可愛かったで!』
...すぐそうやって上手く持ち上げて。隆平って本当にそういうのが上手。私がこんな気持ちになってる事も知らないで。
「...可愛くないー」
『汐里は可愛いよ』
急にそんなことを言うから、思わず言葉を飲んでしまった。黙ってしまった自分に戸惑いながらちらりと隆平を見上げれば、自分で言ったくせに頬を染めて照れ笑いなんてするから狡い。
『...あ、あの、この前な?友達に汐里の写真見せたら、めっちゃ可愛い言うてたもん』
「...え」
思わず間抜けな声が漏れてしまった。
正直、可愛いと言われた事がないわけではない。...そうじゃなくて、私が言いたいのは...
『美人やなって』
「...なんで見せたの?」
今日みたいな写真は今まで撮られたことはないし、あとは不意打ちばかりでこれと言って見せるような写真はないはずなのに。
キョトンとして私を見た隆平は、当たり前のようにますます不思議な言葉を口にした。
『...なんでって...“見せてー”言うから』
「 ...だから!なんで見せてって言うの?」
私の質問の意味がわからないとでも言うように不思議そうな顔をして首を傾げた隆平のパーカーを掴んで軽く引いた。
「...なんで私の話が出たの?」
隆平の目が丸くなって顔色が変わった。急に落ち着きなく泳ぎ出した目と、再び赤く染まり出す顔。
本当に思わせ振り。...そんな反応されたら、期待しちゃうよ。
「......どんな流れ?」
『...や、』
「ねぇ」
しどろもどろの隆平のパーカーを引っ張って問い詰めると、耳も顔もどんどん真っ赤に染まっていく。
『...うん...なんでやろ...な、』
口元を掌で隠してボソリと言うけれど、私の顔を見ようとはしない。
心臓が煩い。期待に手が震える。私の顔まで紅潮してくる。
「...ねぇ、隆平、」
やっと、ちらりとだけ私に目を向けた隆平が口の端を持ち上げると、下手くそな笑顔を浮かべてまた目を泳がせた。
『...俺が、言うたからかな...』
「...何を、」
『...可愛いでって、』
伺うように私に向けられた隆平の目が驚いたように少し丸くなった。...当たり前。だって、今すっごい顔熱いもん。
照れ隠しに顔を手でパタパタと仰げば、隆平がダメ押しのように呟いた。
『...俺の好きな子、めっちゃ可愛いで、って...』
End.