ごめんね、すき


いつも私を気にかけてくれる丸ちゃんの優しさもスキンシップも、私を勘違いさせるのには充分過ぎた。

「告白、されたの」

電話で私が打ち明けた時、丸ちゃんは笑っていた。笑って『おめでとう』と言った。付き合うなんて一言も言わなかったのに。
その言葉は私の心を抉った。
勘違いだったと今更気付いても、もう遅い。

「...まだ決めてない」
『あ、そうなん?はよ決めや。待たされる相手の気持ちも考えたらんとな』

泣いてしまいそうだった。
それよりさ、と話を逸らした丸ちゃんが何を言っていたかなんて覚えていなかった。だから電話を切って泣いた。
私はきっと、丸ちゃんが慌てて止めてくれるのを期待していたのだ。

どうしたって諦め切れない。私の思考の8割は丸ちゃんだったのだから、それを0にすることなんてどうしたって出来ない。余計に想いが募って、苦しくて堪らなかった。


アルコールで少し高ぶった気持ちのまま、意を決して丸ちゃんの家へ向かった。0にするには、自分から離れなければいけないのだから。

インターホンを押すと、少ししてプツリと部屋と繋がる音がして緊張が高まる。

『...どうした?』
「...話したい事があって」
『...今開けるわ』

ドアを開いた丸ちゃんが私を見つめた。丸ちゃんを見上げて拳を握り締めると、部屋へ招き入れられドアが閉まる。

『...なんかあった?』

首を横に振ると、玄関に私を残したまま丸ちゃんが奥へ入って行く。後を追ってリビングに入れば、冷蔵庫から取り出したお茶をコップに注いでテーブルの端へ置いた。どうぞ、と言われたけれど、油断したら決意が揺らいでしまいそうで、立ったまま丸ちゃんを見つめた。

「付き合うことにした」

顔を上げた丸ちゃんが私をじっと見た。おめでとう、の声を電話で聞いた時に思い浮かべたようないつもの笑顔もないまま、暗い色の瞳が私を真っ直ぐに貫く。
決意の嘘は、私の心を自分自身で深く傷付けた。

『ふーん。...で?』

視線が逸れて鼻で笑った丸ちゃんは、不機嫌そうでドキリとした。
遅い時間に急に家に来られてこんなどうでもいい報告をされたのだから当然だ。
でもそれでいい。いっその事、嫌われてしまえばいい。

「...それだけ」
『そうなんや』
「...一応、報告...だけ」
『こんな時間に?』

...尤もな言い分だ。でも急に思い立ってしまったのだ。だから揺らがないうちに話してしまいたかった。

「...それはごめん、」

けれど結局は私の都合しか考えていなかった。だから素直に謝ると、丸ちゃんの足が俯いた視界に入ってきて顔を上げる。

『さすがに無防備過ぎひん?』
「え?」

口の端を吊り上げて笑う丸ちゃんには、やっぱり苛立ちが見えた。

『こんな時間に家上がってさぁ』

それも尤もだ。嘘だけれど、彼氏が出来たという報告をこんな時間に男の部屋へ上がり込んでしているのだから。

もう一度「ごめん」と口にしようとしたけれど、丸ちゃんの手が私の手首をきつく掴んで引いたから叶わなかった。ただ驚いて丸ちゃんを見上げれば、掴んだ腕ごと体を後ろに押され、ソファーに押し付けられた。

見たこともない男の人みたいな冷たい目をした丸ちゃんが私を見下ろすから、ごくりと唾を飲んだ。

『何されても文句言われへんで』

傾けられた顔が近付いて思わず肩を押した。

「...待って、丸ちゃ、」
『俺な、今めっちゃ機嫌悪いねん。なんでかわかる?』

答えなんて探している余裕はなかった。丸ちゃんの射抜くような冷たい目が、僅かに揺れているのに気付いて言葉を失う。
嘲笑うように私に向けられた笑みは、私の大好きな笑顔とは全く違うけれど、なんだか胸が痛くて苦しくてただ丸ちゃんを見つめた。

『わかるわけないよなぁ?』

掴まれた手首を引かれて距離が縮まると、数センチの距離で丸ちゃんがふっと息を零し笑った。

『タイミング、悪かったな』

冷たく言い放たれた言葉のわりに、押し付けられた唇が震えているように感じて一気に体の力が抜けた。開いた唇の隙間から侵入した舌に絡め取られ、弄ばれて丸ちゃんのTシャツを掴む。
唇が離れて私を見つめた瞳はさっきよりも揺れていて胸が苦しい。

『...なんで俺ちゃうねん、』

絞り出すように小さく呟いた丸ちゃんの手が手首から離れ、縋り付くように私の体を抱き寄せ首筋に顔が埋められた。
丸ちゃんがギリ、と音がする程奥歯を噛み締めたの聞きながら、呆然としたままその背中を無意識に抱き締める。同意を求めるように私を見た丸ちゃんを見つめて目を閉じれば、唇を押し付けながらソファーに倒され、二人の指が絡んだ。


End.