アイゲイザー
...告白、なんてそんな大袈裟なものではない。ただ、私をどう思ってるのかなって。なんで私と2人でこうして飲みに来たり遊びに行ったりしてくれるのかなって。
それを聞こうとしただけなのに、いざ隆平の顔を見てしまうと言葉は喉に詰まって出て来てくれない。
会ってから数時間、少なくとも、5回の決意の言葉は全て飲み込んでしまった。次はいつ会えるのかわからないし、今日を逃したら小さな勇気が消えてしまいそうでそわそわする。
トイレから戻った隆平が『出よか』と言うからゴクリと唾を飲む。帰り道が最後のチャンス。ただなんとなく聞けばいい。軽いノリで。
頭も足元もふわふわするくらいには酔っているのに、ちゃんと緊張してしまうんだからどうしようもない。
店から出て、信号待ちで足を止めた隆平の隣に立ち隆平を見上げる。
すると、隆平が流し目で私を見たからドキリとした。すぐに逸れていった目は赤色の信号機に向けられてからふっと隆平が笑う。アルコールのせいでいつもよりもふにゃりとした柔らかい笑顔。隆平も大分酔っているはず。
『...なに?』
「...え?」
『さっきからさ、なんか、よう見つめられてるから』
笑う隆平に精一杯の笑みを向けてから目を逸らした。
...やばい。緊張が伝わってしまっただろうか。
ひくりと揺れる口角は、上手く笑えていない証拠。
『“帰りたくない♡”とかやったりして?』
私を覗き込みながら冗談めかして笑う隆平に、頬がカッと熱くなる。
ひくつく口角を更に持ち上げて苦し紛れに視線を動かせば、信号が丁度青に変わり歩き出す。
...動揺してどうするの。いいタイミングだったじゃない。冗談で返せば冗談で終わるのだから。
“私のこと、どう思ってるの?”...なんて私から切り出すよりも、簡単な事じゃない。
「...私がそんな事言い出したらどうするの...?」
冗談に聞こえるように笑った声が少し震えてしまった気がして、気付かないでと願う。
くるりと私の方に向けられた隆平の目をちらりと見遣れば、いつもより少し大きくなった目が私を見つめていた。
『何それぇ?』
ふふ、と口元を隠して笑った隆平を見て、乾いた喉をこくりと鳴らし秘かに唾を飲み込んだ。
そして、隆平から答えが返って来ないうちに、精一杯ふざけたように見せ笑った。
...逃げてしまったことに、後悔はなかった。怖くて耐えられなかった。
『...え、汐里...あのさ、』
俯いて辛うじて口元に笑みを保っていると、戸惑ったような隆平の声がしてドクリと心臓が脈打つ。
大通りから一本小道に入ったそこは、やけに静寂に包まれていて心臓の音が聞こえてしまいそう。
「“どうする?”って、聞いただけだよ」
緊張感に耐え切れずに先手を打った。
...冗談なの。もういいの。もう、答えなんていらないから。だからお願い。これ以上、...
『...帰さへんよ』
え、と発したはずだったのに、声にならなかった。あっという間に掴まれた手首を引かれ、柔らかく触れた唇が首の後ろを引き寄せられ更に押し付けられる。
“帰さへんよ”
隆平のいつもよりも低い声と熱い唇は、私の思考を麻痺させた。
押しつけられた唇がゆっくりと離れて見つめるその目は、唇と共にふにゃりと歪み優しい笑みを作った。
「...酔い過ぎだよ、」
動揺した私には、照れ隠しの言葉しか浮かばない。興奮と動揺で荒くなった呼吸に気付かれたくなくて慌てて目を伏せる。
『酔うてんのかな、俺』
ふっと息を零して笑う隆平の胸を押し距離を取ると、腰に腕が回り再び近付く。そして寄せられた唇が、私を誘うように囁いた。
『酔うてなくてもしてたで。キス』
柔らかく囁く声と共に両方の掌が私の頭を包むから緊張で唇が震えた。か細く吐き出された息も震えると、隆平が私の瞳を覗き込む。
『...怖い?』
胸に触れた手から隆平の早い鼓動が伝わり一瞬で体温が上がる。
『誘ったのは、お前やろ』
熱を帯びた目が私を映す。
性急に唇が重なり、食むように触れた隆平の唇も僅かに震えた。それを誤魔化すみたいに壁に押し付けられ、触れ合う2人の唇の隙間から、混ざり合った熱い吐息が零れた。
End.