曖昧ラブコール


忠義は、勝手だ。
いつも私の都合なんかお構い無しで。

『なぁ、俺家寄る言うたやーん』

私の想いもお構い無しで。思わせ振りな事をするくせに、ずっとフラフラしていて、誰のものにもならない。

『なのになんで居らんかったーん』

自宅マンションの鍵を開けながら隣で騒ぐ酔っ払いの忠義に「静かにして」と顔を顰めて言うと、ただでさえ不機嫌な顔はますます不貞腐れる。

寄る、とは確かに言っていた。けれど私は飲み会だったし、わざわざ忠義のために途中で抜けて帰るわけないじゃない。
...少し前は、そうだった。忠義が好きだったし、来ると言えば浮かれて、飲み会も友人との約束も早々と切り上げて帰って来ていたけれど。

それでも忠義は私のものにはならないのだ。だからやめたの。自分で自分を可哀想な女にするのは、やめた。

玄関のドアを開けると、私に続いて我が物顔で部屋に入って来て、私より先にソファーにドサリと腰を下ろす。

「...何しにきたの」

黙ってじとりとした視線を私に向けて、あからさまに唇を尖らせる。そんな視線であっても、忠義に見つめられるのは好きじゃない。心の中を見透かされているような気がしてしまうから。
本当は私の想いもこの葛藤も、未だに諦め切れない気持ちも、忠義は全部わかっていて、結局忠義に甘い私の対応も全て見透かされているのかもしれない。

「...用がないなら帰ってよ」

目を逸らして言うけれど、横顔を見つめられ、居心地が悪くて顔を背けた。それでも尚視線を感じるからソワソワしてしまう。

『...もうちょっと飲みたいなー思て』
「...............。」
『一人で飲む気分でもなかったから』

不機嫌さを滲ませながらも、アルコールが入って少し舌っ足らずな甘えたような口調は狡い。悔しいけれど、そんな理由で来てくれたことが少し嬉しいと思ってしまう。
けどこれじゃあダメなの。

「私も飲んできたの。私はもういいよ」

こうやって断るような事を言うのは初めてなのだ。だから胸が痛い。
けれどこれで諦めて欲しいと思う反面、“わかった!別んとこ行く!”なんて言われたら、きっとヘコむ。

忠義が視界の端でソファーに寝転んだのが見えたからちらりと視線を向けた。すると忠義の目は私に向けられていた。

『んじゃ泊めてや。汐里がなかなか帰って来おへんから遅なってもうたし』

ドキリとしたの。けれどそれに気付かれるわけにはいかないから、忠義に背を向けて言った。

「...明日朝から出掛けるから無理」

出来るだけ冷たく聞こえるように言ったはずなのに、語尾は小さく弱くなってしまった。だからわざと面倒臭そうに大きな溜息を吐き出す。

『どこ行くん?』
「買い物。と、ランチ」
『...誰と』

一瞬言葉に詰まってしまった。こんなことすら口にするのを躊躇っているようでは、私の中でまだ全然諦められていない証拠。

「...章ちゃん」
『...ふーん』

忠義の声がまた明らかに不機嫌になる。その様子に僅かに期待してしまう私は本当にどうしようもない。

「...なんで?」
『は?』
「なんでそんな事聞くの」
『別にぃ?何でもないし』

トゲのある口調と、苛立ったような溜息に鼓動が早くなる。
...そういうところが思わせ振りで困る。私は忠義のものではないし、何度も何度も期待して泣いてきたじゃない。それなのに。

「全然何でもなくなさそうじゃん」

ちらりと忠義に目を向けると、仰向けのまま天井を睨みつけるように見ていた。
そんな態度取らないでよ。期待させないで。

「...ねぇ、何怒ってんの?」
『...煩いなぁ!もうええの!』

大きな声で言って、ばし、とソファーを叩くように手を付いて起き上がった忠義が、私を流し目で見てから俯いた。

『...なんでヤスと2人で会うねん』
「...なんで2人会ったらいけないの」

忠義がますますムッとした顔をして、鋭い目が私を刺すように見た。
忠義は狡い。私のものじゃないくせに。私のものになってくれないくせに。

『俺が聞いてんねん』
「...何それ...彼」
『彼氏でもないのに!...やろ?だからええ言うたのに!お前が言わせたんやろ?お前が聞くから!』

一気に捲し立てて目を逸らした忠義は、怒っているのか拗ねているのか、よくわからない顔で頭を掻き毟る。
それを呆然と見ていた。

『...ムカつくわぁ、お前』

今度はドン、とソファーを拳で殴り、また鋭い目が私を捉える。その顔が薄く赤に色付いているのは、アルコールのせいか、興奮のせいか、それとも。

『...俺のもんになる気ぃないなら、拒んだらええやん』

項垂れるように俯いた忠義は、バツが悪そうに視線をさ迷わせ、その視線は私のそれと絡むことはない。

『帰る』

どくりと脈打った心臓は、壊れそうなほど早い鼓動を刻む。立ち上がった忠義の腕を思わず掴むと、忠義の目がやっと私に向けられた。心を覗き込むようなその目は、私と同じ期待の色に染まっていた。

『...なんやねん...期待ばっかさせんなや』

苛立ったように呟いて逆に私の腕を引いた忠義に、荒々しく唇を触れさせながら痛い程に抱き寄せられた。



End.