フレンドラブストーリー
寝る前にふたりで映画を見ていたら、思いの外濃厚なベッドシーンが画面に映し出されて思わず息を呑んだ。ソファーの端と端に座る章大をちらりと盗み見ると、その目は真っ直ぐにテレビに向かっている。
思春期でもないのにこんな場面で緊張してしまうなんて。私だけが意識していると思ったら恥ずかしい。
そもそも、ソフレとして何度も隣に寝ていたって、章大は私の手にすら触れてこないというのに。章大はきっと、そんなこと何も考えていな...
突然章大がちらりとこちらを見て視線が絡んだ。ドキリと心臓が跳ねた私に微笑んで章大がテレビに視線を戻す。
盗み見ていたのに気付かれてしまったことに動揺する。バクバクと脈打つ心臓のせいで顔に熱が集まった。
『眠い?』
「...うん、」
『ん、じゃあ寝る?』
別に眠たいわけではなかったけれど、動揺が伝わってしまうのが怖くて俯いて頷いた。
ベッドシーンは、章大がテレビに向けたリモコンによって途中でプツリと途切れた。
煙草吸ってくる、と外に出た章大を見送って先にベッドに入る。何度繰り返しても慣れることはない。いつも一晩中意識は章大のいる左側に集中しているのだから。幸せだけれど少しだけ苦しい心には気付かない振りをして目を閉じた。
玄関の鍵を締める音がして、程なくしてふわりと煙草が僅かに混ざった香水の香りがした。
ぎし、とベッドが軋むと同時に左側が少し沈み、章大がベッドに入って来る。すると部屋の電気の光が遮られたように瞼が暗くなったから、ハッとして目を開けた。
『あ、起きてた。もう寝たか思た』
思いの外近くで私を覗き込んでいた章大の顔にドキリとする。心臓が煩くて、顔が赤くなってしまいそうで、笑う章大とその後ろから覗く電気の光から思わず目を逸らした。
「...電気、消して」
章大がベッドの上にある電気のリモコンに手を伸ばしながら、ふっと息を零して笑う。
『なんかそれエロいな』
「え、」
ピ、と音を立て薄暗くなった部屋の中、章大にちらりと目を向ける。すると含み笑いした章大が、私の隣に座ったまま私を見下ろした。
『さっきのやつみたい』
「..........、」
『あは、』
さっきの映画のベッドシーンの冒頭、明るい部屋のベッドの上で絡み合うふたりが画面に映し出され、女性が言った言葉が正にそれだったことを思い出して、顔に熱が集まる。
思わず逃げるように章大から目を逸らしてしまった。
『...もー冗談やんか』
私を見て苦笑いを浮かべた章大の手が、ぽん、と私の頭を撫でた。この関係になってから、多分初めて、私に触れた。
その行動によりますます早く煩くなった鼓動が、私を急かし駆り立てる。
「...したい...?」
余計なことは考えないように、すぐに口にした。
章大の笑みが消えて、丸くなった目が私を見つめる。
「...したいの...?」
...引かれたかもしれない。けれど今しかないような気がした。大丈夫。まだ戻れる。まだ冗談だと笑って戻れる。
だから、早くなんか言ってよ。早く。
「...ねぇ、」
私から目を逸らした章大が俯いてぎこちなく笑った。
『...普通さ、そんなん言う...?』
その言葉に、シーツを握り締めた。
当たり前だ。きっと私のことを、ただの友達、...ソフレとしか思っていなかったのだから。
章大が顔を逸らし、髪を乱すように頭を掻いて言った。
『...俺さ、ずっと我慢してきたんやで...?』
我慢、という言葉に心臓が跳ねて胸が高鳴る。見つめた章大の耳が少し赤く色付いているから、ますます私を期待させる。
『...してきたのにさ、そんなん言われたら...したなるやん、』
私に戻ってきた流し目はすぐにまた気まずそうに逸らされた。
「......いいよ」
振り絞った声は、消えそうに弱々しく震えた。自分の心臓の音にさえ紛れて消えてしまいそうな小さな声は、章大に届いただろうか。
『...体が欲しいわけちゃうねんけど』
また私を映した章大の目にも期待の色が宿っている気がして、その心が知りたくて見つめた。
私の横に肘を付いて距離を詰めた章大が、同意を求めるように私を見つめる。
『心も欲しい。全部』
その真っ直ぐな瞳を見ていたら、じわりと目の奥が熱くなり章大が微かに揺れて霞んだ。小さく頷けば章大がふっと表情を緩め、微笑んで私の髪を撫でる。 章大の顔が近付いて緊張が高まりバクバクと心臓が脈打つ。
その緊張を見透かしたように笑った章大が、鼻同士を触れ合わせ、また笑って柔らかく唇が重なった。
End.