歪なアイラブユー


今日届いたばかりのコーヒーメーカーの封を開け説明書を開いた。
コーヒーは好きじゃない。けど、信ちゃんがよく飲んでいるから、安くなっていたし買ってみた。お酒は外で飲んでくるし、家にいる時はいつもインスタントコーヒーを出していたから。

信ちゃんと付き合っていなかったら見向きもしなかった物を衝動買いしてしまうなんて、自分でも恋する乙女だなと思う。胃袋をつかむ程の料理の腕前ではないから、せめてコーヒーで。

玄関で解錠される音が聞こえて肩がびくりと揺れた。信ちゃんしかいない。いないんだけど、今日はメンバーやスタッフの人に誕生日を祝ってもらうと聞いていたから、来るのは明日だと思っていたのに。
ドアの隙間から玄関を覗くと、顔を上げた信ちゃんが私に気付いた。

『おう』
「明日って、言ってなかったっけ、」
『なんや、あかんかったか?』

それなりに酔っていて、上機嫌の信ちゃんはずっとヘラヘラと笑っていて幸せそう。

「誕生日、おめでとう」
『連絡せえへんかったしなぁ...』

いまいち噛み合わない会話に思わず笑った。ちょっと照れ臭いのかもしれない。
信ちゃんの前に回り込んでもう一度「誕生日おめでとう!」と言えば頷きながら『あーあー』と頭を強めにポンポンと叩いてから『どけ』と押し退けられた。
友達におめでとうを言われても『ありがとう』と返すのに、私のおめでとうに対する反応はいつもコレだから、ちょっと特別に感じて嬉しくなってしまう。

『帰るうちに大分酔い醒めてもうたわ』
「うん、珍しいよね」
『コーヒーくれるか?』
「あ、うん」

奥の部屋に着替えを取りに行った信ちゃんを見送って、意外とすぐに出番がやってきたコーヒーメーカーを、説明書を片手にセットする。

ジャージに着替えた信ちゃんがソファーに豪快に座った音を聞きながら説明書を見て機械をいじっていると、大袈裟な欠伸の音が聞こえた。

「ごめん、ちょっと待ってね」
『おー、ええよ』

やっとコーヒーの香りが漂い始めて安堵し、少しだけ時間が掛かるから信ちゃんの隣に座った。

『え、なに?むっちゃええ匂い』
「うん。買っちゃった。コーヒーメーカー」

ソファーから立ち上がってキッチンのコーヒーメーカーを見つめ、目をまん丸しにして私を振り返る。

『本格的なやつやん』
「うん」
『本格的やったら余計お前飲めへんやん』
「信ちゃんが飲むんじゃん」

信ちゃんが口を開けたまま、キッチンのコーヒーメーカーと私の間を、視線を往復させる。驚いている、というよりも、呆れているように見えるから横目で様子を伺った。はぁ、と溜息を零して首を傾げる信ちゃんは、私ではなくコーヒーメーカーに視線を送ったまま言った。

『...お前ええ女やなぁ...』

予想外の言葉に驚いて信ちゃんの方に顔を向けた。さっきとは打って変わって、胸の前で腕を組んで感心したように呟いくから、若干顔が火照ってきた。

『わざわざ買うたんやろ?』
「...いつもインスタントじゃ悪いかなぁ、って...」
『俺のためにやろ?』
「...うん、まぁ...」
『はぁー、なるほどなぁ...』

おかしな感心の仕方に思わず苦笑いすると、タイミング良く抽出終了を知らせるアラームが鳴った。
立ち上がろうとした腕は掴まれて、信ちゃんが私の腕を引いた。上がった腰はまたソファーに沈んで、信ちゃんが私に聞いた。

『あれ、保温出来るやんな?』
「うん、あのまま保」

言い掛けたところで唇が塞がれた。こんな信ちゃんはあんまり見たことがないから少し戸惑う。けれど、やっぱり少し酔っているらしい。アルコールの匂いもするし、いつもと様子が違う。
首と腰に回った腕に引き寄せられて口内に舌が侵入すると、いつもより深く絡みつくようなキスで翻弄される。

『コーヒー飲んだ後のキスは嫌やろ』

離れた唇から出た、信ちゃんらしくない言葉に驚いた。...ほら、やっぱり酔ってる。いつも飲んだ後だってするくせに。けどそれが遠回しな愛情表現だと知っている。性急に求められるのは嬉しくないわけがない。

またすぐに絡みついた舌と同時に、信ちゃんの手が体を這った。擽るように脇腹に触れた指に、口の端から吐息と共に思わず声が漏れると、唇が離れた。頭の両サイドを掴まれたままあまりにじっと私を見つめるから、今度はこっちが照れ臭くなる。

「...誕生日、おめでと」
『...今はこっちに集中せんかい』

荒々しく唇を塞がれたけれど、お互いの照れ隠しにキスをしながら思わず、ふふ、と笑いが零れると、より荒く重ねられた唇に吐息ごと飲まれて、幸せな息苦しさに胸の奥が甘く痺れた。



Happy birthday!!  2017.1.26