愛に生く
...誕生日、だなぁ。
メッセージ、どうしよ。
...なんて考えてるうちに、今日が終わるまであと2時間もなくなってしまった。
ソフレになってからは、色んなことをなんとなく遠慮してしまう。それがどういう感情なのかと考えてみたら、ずっと隠してきた気持ちに気付かれるのが怖いからだと自覚した。
“おめでとう”や“会いたい”、そういう意味ではない“好き”一つを取っても、言葉には敏感になっていた。伝えられる距離にいると欲張りになってしまう。
だから余計なことはしない。彼女気取り、なんて思われたら嫌だもん。
ソファーで缶ビールを飲みながらぼーっと章大のことを考えていた。スマホはずっと手の中にあるけれど、メッセージを送ることはもう半分諦めていた。
その時、手の中の携帯が震えたからびくりと体が揺れた。慌てて画面を見ると表示されていた章大の名前にドキリとする。息を吐き出して、小さく咳払いをして通話ボタンを押した。
「...はーい」
『もしもしぃ』
語尾が上がる電話の話し方は、甘えられているみたいで好き。
『何してた?』
「ビール飲んでた」
『わーええなぁ』
もうそこそこ遅い時間なのに、疲れを感じさせない明るい声色。
すると章大の後ろで聞こえていたメンバーらしき人達の笑い声が段々遠ざかってパタリと遮られた。二人きり、みたいで胸があたたかくなる。
「まだ終わらないの?」
『ん、もうちょい』
みんながいた部屋から出たらしい章大のトーンが、少しだけ低くなったからドキドキする。二人の時だけの声。
もしかして、電話をくれたってことは、今日来てくれるのかな。
...そうだ。せっかく話せるんだから、言ってもいいか。今日のうちに、言わなきゃ。
「...あ、誕生日おめでと」
今思い出したみたいに、さらっと伝えた。1日の大半、ずっとメッセージを送るか悩んでいたなんて感じさせないように。
『あーありがとぉ』
「...ん」
章大が黙るから、二人の間に静かな時間が流れて少し緊張してしまう。
...掛けてきたの、章大でしょ...なんか言ってよ。
けれど沈黙に耐え切れず、結局私から切り出した。
「...今日、来る...?」
『...あー、...明日早いから、今日は帰るわ』
...なーんだ。電話をくれる時は大体『今から行くわ』なのに、なんで今日に限って違うの。誕生日だからって、ほんの少し期待しちゃったじゃない。
...ソフレって、こういう時ほんっとにつらい。
「...うん、そっか...」
『...うん...そやな』
「...ん」
またおとずれた沈黙のせいで、僅かに章大の呼吸音が聞こえるから余計に切なくなる。すぐそこに感じるのにやっぱり遠い距離は、埋めることが出来ないのだ。
...会いたかった。章大の大切な日に、少しでも一緒に過ごしたかった。この関係が終わってしまったとしても、いつかの誕生日に思い出してくれることがあるかもしれないから。
「...なんか、用だった...?」
『...あー、』
いつもと少し雰囲気の違う章大に、少し不安が過ぎる。けれどそれを悟られたくはないから笑ってみせた。
「ふふ、どしたの?」
『...ん、』
「私が恋しくなったんだ?」
茶化した言葉に『何言うてんねん』...みたいな返事を想像していたのに、笑い声すら聞こえてこないから焦る。
...なんか言ってよ。けど『終わり』なんて言葉は嫌だよ。...なんなの。なんで黙ってるの。
「...なんてね、」
『...うん』
あまりにも短い返事は何を指しているのだろう。思わず、え?と聞き返すけれど、胸が一気に高鳴るから上手く声が出なかった。
『...うん、そうやねん』
一瞬期待したはずなのに、いざその言葉を聞いたら頭が真っ白になる。
『やっぱ、今日行くわ。起きて待ってて』
...待ってるよ。当たり前じゃない。
思ってるのに声にならない。
でも待てない。その言葉の意味を、早く知りたい。
『会いたい』
End.