シースルー


さっき私の隣に移動して来たその横顔を盗み見る。向こうの会話を聞いてニコニコ笑っている章ちゃんを見ながら、ゴクリと喉を鳴らした。すると、視線に気付いたらしい章ちゃんが私に笑顔を向けるから、ぎこちない笑顔を返して目を逸らした。

目の前のカクテルを口に運んで、気持ちを落ち着かせるようにチビチビとアルコールを口に含む。

2人で話す機会があったら誘ってみようと決めていた。この飲み会よりもずっと前から、チャンスはあったのにどうしても誘えずにいた。
「今度一緒にご飯行かない?...2人で」
言う言葉も決めてある。2人で、は最後に付けるとこまで決めてあるのに、それでもいざとなると勇気が出なくて困る。

タイミングなんていくらでもあるのに。今章ちゃんは隣で笑っているだけだし、ここで行かなきゃと思ってるのに。
ちらりと目を向ければ、今度はすぐに私を見た章ちゃんが、首を傾げて笑う。

『どうしたん?』

そう言われてしまったら咄嗟に首を横に振っていた。
ちょっと待って、今このタイミングで言えばよかったのに!

『え、何ぃ?』

逸らした目をもう一度章ちゃんに向けて口を開いた。キョトンとして私を見るその目を見ながら、喉まで来ていた言葉を思わずまたゴクリと飲み込んでしまった。
章ちゃんの真ん丸の目が首を傾げながら不思議そうに私を見つめていて、耐え切れず目を逸らした。

...不自然だったよね、どうしよう。何か言い掛けたの、バレたかな...。変に思ったよね?...絶対思ったよね?思ってないわけないよね、どうしよう...!

掴んだグラスを傾けてカクテルを飲み干すと、章ちゃんも何も言わずにビールに手を伸ばした。

ここまで来たら、言うしかない。
言わないと進まないんだから。

もう一度体の向きをくるりと章ちゃんに向けると、その目が私を捉える。

「...章ちゃん」
『うん?何?』

口元に笑みを浮かべた章ちゃんを見つめて、より一層激しく脈打つ心臓。
...やっぱ、無理...言えない...。
俯いて言葉を飲んだ。

『...なんなん』
「......何でもない、」
『...なんやねん、』

顔は見ていないからわからないけれど、怪訝な顔で私を見ているに違いない。
...もう無理。絶対変な奴って思われた。もう二度と言えない。

『...告白、されるんか思た...』

小さく呟かれた章ちゃんの言葉に驚いて、顔を上げた。掌で口元を覆った章ちゃんは、私と目を合わせることなく俯く。

「...ちが、違うよ、...」
『...なんや...ちゃうんや...』

慌てて何度か頷くと、手を退けて顔を上げた章ちゃんがちらりと私を見てから不機嫌そうな表情を浮かべた。章ちゃんらしくないその表情にドキリとして自分の手を強く握り締める。

『...期待してもうたやん...どうしてくれるん』

溜息の後に尖らされた唇を見ながら固まった。
期待...?一瞬のうちに頭の中で色んなことを考えたけれど、答えが出る前に章ちゃんが私に目を向けた。
...睨む、とはちょっと違う。真っ直ぐ、と言うよりもっと鋭い。その目が黙ったままじっと私を見つめるから、どんどん顔が紅潮していくのが自分でわかって思わず目を逸らした。

『...なぁ』

言い掛けて耳元に唇が寄せられたから体がびくりと揺れた。ますます顔が熱くなって、髪の毛越しに僅かに耳に触れた唇のせいで一気に熱を集める。

『俺のこと、好きやろ』

思いもよらない言葉に体が硬直した。

『...言うてくれるの、待ってるつもりやったのに』

次第に高鳴る鼓動。汗ばむ掌。動揺で上手く呼吸が出来ない。

目の前に横向きに現れた章ちゃんの顔が、私を覗き込みながら笑う。

『...とりあえずさぁ』

章ちゃんがまた距離を詰めたから思わず構えた。すると、ふっと息を漏らして笑った章ちゃんが、私の髪を払って今度は完全に耳に唇を触れさせた。

『今から抜け出さへん?...2人で』


End.