Be Quick!!
酔っているはずなのに、心臓はありえない程早いビートを刻んでいた。
誰かのものになってしまうくらいなら、ぶつかってみようと思った。だってまだ丸ちゃんは、私の気持ちをこれっぽっちも知らないんだから。
『...もー、さすがに飲み過ぎやてぇ』
眉を下げて困ったような顔で私を覗き込む丸ちゃんにちらりと目を向けてグラスをテーブルに置いた。
これ以上はないと思っていたけれど、鼓動がさらにまた早くなったから動揺する。
でも言わなくちゃ。決めたんだから、決心が鈍らないうちに、ちゃんと言わなくちゃ。
「...丸ちゃん」
目は合わせられなかった。俯いたまま呼べば、グラスに口を付けたまま丸ちゃんが『んー』と返事をした。
『なんですかー』
子供相手のような口調でまた私を覗き込んだ笑顔の丸ちゃんを再びちらりと見てから周りを見回した。
丸ちゃんの向こうには友人が見えるし、私の後ろからも声が聞こえる。聞かれたくないから。丸ちゃんだけでいいから。丸ちゃんを見上げて訴えるように見つめれば、首を傾げてから私に耳を向けてくれた。
大きく脈打つ心臓。荒くなる呼吸。火が出そうなほど熱い顔。
「...好き、」
丸ちゃんにしか聞こえない程の声を、耳元で絞り出した。
動きを止めた丸ちゃんからゆっくり離れると、その横顔を見つめてから目を逸らす。信じられない、といった顔をしていたから。
すると、丸ちゃんがくるりと私の方を向いたから思わず構えた。
『えー。...ふふ、ありがとぉ』
...ダメだった、と思った。私の気持ちを受け入れるような返事ではない気がしたから。
「...なーんてね、」
今からでも誤魔化せる?冗談だったって言えば、まだ友達に戻れる?
やっぱり丸ちゃんがいなくなってしまうのは怖い。
『素面でも言える?』
頭の上に降ってきた言葉の意味を瞬時に理解することが出来なくて丸ちゃんを見上げた。優しい顔をした丸ちゃんは、はにかんだように笑いながら私から目を逸らす。
「...え、?」
『酔い醒めてから、もっかい聞こかな!』
聞き返すと顔を若干赤らめて私の頭をくしゃりと撫でるから、また胸が苦しいくらいに鼓動する。
「........え、?」
困惑する私に、丸ちゃんも困ったような笑みを浮かべて顔を近付けた。
『後で覚えてへん言われたら困るもん』
思わず動きを止めた。はぁ、と大袈裟に溜息を吐いた丸ちゃんに合わせたままの視線は、言葉の本意を探るように逸らすことも出来ず見つめていた。
すると私の耳元に顔が近付けられてドキリとしていると、丸ちゃんが囁いた。
『俺も、好きやで』
「..............、」
『...後でもっかい言うわ。覚えてへん言われたら困るもん』
小さな声で零すと、ちらりと私を見てから笑みを浮かべて俯く。
次第に体が熱くなって顔が火照るから、私も俯いて掌で口元を覆った。
すると視界に入ってきた丸ちゃんの手が私の片手を取り握るから顔を上げると、一瞬でキスを落とされすぐに離れた。周りを見回してから自分の唇に人差し指を当て、内緒と言っているみたいに照れたように笑いながら目を逸らす。
『...びっくりしてはよ醒めたらええのに』
End.