ビターキャラメル


“ する?...セックス ”

優しい笑顔で残酷なセリフを吐いた章大に胸を痛めたけれど、それでもどこかで抱かれることを望んでいたのも事実で。けれど、どこかでやっぱり怯えていた。愛のないセックスに。



目を固く閉じて顔を歪ませ、快感に声を漏らした。じわりと痺れるように広がる快楽に我を忘れてしまいそうで、握った自分の掌に爪を食い込ませ堪える。

『気持ち良さそ』

目を開ければ、微笑んだ章大に頬を包みキスを落とされたからふっと力が抜ける。
目を細め、あまりに優しい顔をするから胸が痛い。髪を柔らかく撫でる手も体を這う手も優しいから、勘違いしてしまいそうになる。愛されているんじゃないかと、錯覚してしまいそうになる。

思わず章大に手を伸ばせば、章大がその手を捕まえて指が絡められた。
私の中を味わうように目を閉じる章大は、時折耐えるように眉根を寄せて甘い吐息を漏らす。
繋いだ指で引き寄せぐっと奥に押し付けられて声を漏らせば、ふわりと髪を撫でるから章大を見上げた。

『もっと気持ち良くなる方法、教えたろか』

緩やかに腰を揺らす章大が首を傾けて私を見つめる。その細められた瞳が揺れていたから胸がざわつく。

『俺を好きになったらええねん』

思いもよらない言葉に声も忘れ、思わず目を丸くする。すると、揺れる瞳を逸らし章大が笑った。

『...そしたら、俺と同じ位...気持ちくなるで』

章大を見つめる私の視線から逃げるように、性急に唇を塞がれた。愛撫するようにねっとりと纏わり付く舌は少し震えている。

今日は予想外の事ばかり起こるから、夢の中にいるような気すらしてきた。
ずっと隠し通す覚悟でいたこの想いを、伝えてもいいのだろうか。
遠回しの言葉を間に受けて、そのまま受け取ることにまだ抵抗がある。私の中の動揺は判断力を鈍らせた。

胸が高鳴って鼓動が早い。息が荒くなって章大がキスをして食んだ唇が震えた。

『...そしたらキスも...もっと気持ちくなるのに、...』

章大の貼り付けられた完璧な笑顔は、視線が絡んだ瞬間に歪んだ。泣き出しそうに唇を噛み締めて、目が逸らされる。
私の心を知らない章大の悲しみ色の目はすぐに瞼に覆われ、絡められた指はするりと解けた。

強く深く腰を打ち付けられながら思わず伸ばした手で章大の頬を包むと、開かれた目から悲しみが零れ落ちる。その雫を見送ると、自分の目に溜まった涙が目尻から一筋流れ落ちた。

章大が驚いたように呆然と私を見つめる。すると、慌てたように私の涙の跡を指で拭おうとするからその手を握った。

「...私も、同じ位...気持ちいいよ、」

快感と涙で途切れ途切れになった私の言葉に、章大が律動を止めた。

『......意味、わかって言うてる、?』

震える声は切なくて、でも嬉しくて胸の奥が締め付けられる。ずっと伝えたくて、伝えられなくて隠してきた想いは言葉にならなくて、ただ頷くのが精一杯。

逸らされた章大の目からまた涙が零れ落ちるけれど、それはもう悲しみではなかった。
嗚咽は咥内に飲み込まれ、抱き寄せられた体を章大がきつく締め付ける。何度も啄む唇に次第に荒くなる呼吸さえも奪われて、痛みはじわりと2人の間に溶かされた。


End.