シュガーレス
マンションの下から部屋を見上げたら、自室に灯りが点いていたからドキリとした。慌ててエレベーターに乗り込んで部屋へ向かいながら深呼吸。
ソフレ歴、1ヶ月半。すばるが部屋で待っているなんて初めてのこと。自分で鍵を渡したんだから、この事態に動揺しているなんて気付かれたくない。
鍵を開けて部屋へ入ると、奥のリビングに灯っている明かりに何だか緊張してしまう。
「あ、来てたんだ?ただいま」
『...おん』
平静を装い、リビングに入ってすぐにそこに立っていたすばるに声を掛けた。ドアのすぐ傍のキッチンの脇に立っているすばるは、この部屋にいつ来たんだろう。こんなところでテレビも点けずに何をやっていたんだろう。
「...何?」
『ん?』
「そんなとこ突っ立って」
『あぁ...ん、』
歯切れの悪い返答で目を逸らしたすばるの目が辿り着いたのが時計だったから、心臓がドクリと脈打つ。飲み会で遅くなったから、すばるがいつもこの部屋に来るよりも、2時間程遅い時間を指している。
「もしかして、心配してた...?」
『や、』
「違うんだ...」
...なんだ。違うのか。
だったら、そのソワソワの原因はなんなの。いつもと違う様子を見せられたら、こっちだって落ち着かない。
「...じゃあ、どしたの」
『..............。』
「ねぇ、」
そこに立ち尽くしたままのすばるがちらりと私を見て俯く。バツが悪そうに目を泳がせて鼻を啜りながら、すばるが言った。
『...腹減ったなぁ思たら、来てた...』
予想外の答えに目を丸くしてすばるを見れば、だから言いたくなかったんだと言わんばかりに顔を顰めて背ける。それがあまりにも意外過ぎて、どうしようもなく胸が高鳴った。
すばるが来る日は、いつも外でご飯を食べてふたりでここに帰って来ていた。家で料理を出したのなんて、簡単な酒のつまみを作ったことがあるくらいだったのに。
考えていたら顔に熱が集中してきたから唇を噛み締めた。そんな私の色付いた顔をすばるがちらりと見るから思わず顔を伏せた。
「...彼女じゃないんだから、」
照れ隠しの言葉に、視界の端のすばるがぴくりと反応して私を見た気がした。私も目だけを動かしてちらりとすばるに視線を向けると、思いの外ムッとしたような顔をしていたから驚いた。
『...彼女みたいなもんやろ』
...すばるの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。そんなふうに思ってくれていたなんて、知らなかった。
『彼女で、ええんちゃう』
...私なんて、ベッドで隣に寝ていたって手を出されたりしないし、可愛くないって言われるし、本当にただのソフレだと思っていた。
『...どうなん、なんか言えや』
「......うん」
『うん、てなんやねん』
「...彼女でいい」
『...おん』
「......彼女がいい」
照れくさくて「好き」という言葉は出て来なかった。けれどすばるにちらりと目を向けたら、何も言わずに頷いたから、きっと伝わったんだと思う。
「...ごはん、なんか作るね、」
沈黙が恥ずかし過ぎて言ったけれど、私に歩み寄ったすばるがそのまま触れるだけのキスを落として私を見つめた。
『...やっぱ、飯いらん』
引き寄せるように抱き締められて再び触れた唇のせいで、締め付けられるように胸が痛んで幸せの涙が滲んだ。
End.