Stuck on you!!


『あ、コレ誰なん?』
『...グラドル?』

屋上で俯せに寝たまま忠義がぼんやり眺めていたコミック誌のグラビアを、マルちゃんが指差した。

『今日な、クラスの奴がこれ見て、#name1#に似てる言うてた』
「え、」
『何となく似てへん?雰囲気』
「...そう、かな...?」

忠義からコミック誌をさっと奪って私の顔の横に並べ、マルちゃんの目が比べるように左右に動く。

『似てへんやろぉ』
『ちょっと似てるやん!ほら!』
『#name1#はそんな可愛ないし、おっぱいもない!』
「...ちょっと」
『あっはっは!』

何がそんなにおかしいの。お腹を抱えて笑う忠義を、唇を尖らせて睨み付けた。けれど『ほんまのことやん!』と更に笑うから、溜息をついて目を逸らす。
別にいい。今に始まったことじゃない。こんなのは慣れっこ。

2つ下の忠義は幼馴染みだ。いつも同級生にも先輩にも声を掛けられて、可愛い女の子ばかりに囲まれて、それなのに誰とも付き合わないでみんなにいい顔しちゃって。
さっきだって、告白されて笑いながら『ありがとう』なんて言っちゃって、付き合う気もないくせに。

『#name1#可愛いやん』

突然のマルちゃんの言葉に、笑っていた忠義がピタリと止まった。

『#name1#めっちゃ人気あんねんで?大倉は1年やからわからんかもしらんけど』
「いや、そんなことないでしょ、」

本当にそんなことはない。告白されたのだって高校に入ってから一人だけだし。

『ないわぁ...』
「...何がないの」
『んは』
『ほんまやって!みんなよう可愛い言うてるし!ほら、休み時間俺が居らんとめっちゃ話し掛けられてるやん!』

...それはそうだけど。
ていうか、マルちゃんの前に言った忠義の『ないわぁ...』にダメージを受けたから曖昧に首を傾げて反論はやめた。
あーだこーだ言っている2人は次の授業をサボりそうな勢いだから『先行っとくよ』と声を掛けて屋上を後にした。

忠義のあんな態度は当たり前だからわかってるけど、悔しい。何がって、そんな人を好きになってた自分が悔しい。
...でも本当は優しいんだから。笑いながら毒を吐いても、意外と敏感に察するところも私を気遣うところもある。だから、もう近所に住んでいない今もこうして離れられない。

授業が終わってもマルちゃんがずっと教室に戻って来ないところを見ると、そのまま忠義と帰ったのかもしれない。
学校ではよく話すけれど、方向が違うから一緒に帰ることも少なくなったし、私には関係ないけど。





“屋上。迎えに来て”

授業が終わると同時に忠義からメッセージを受信した。
まだ居たんだ。何とも忠義っぽいちょっと我儘なメッセージを確認して席を立った。

屋上の扉を開けると、数時間前に私達が居た場所に忠義の姿はなく、見回すとフェンスに手をかけて下を見下ろしていた。
あまりにもじっと何かを見ているからそっと近付いて同じ方向に目をやれば、マルちゃんと女の子が2人並んで歩いていた。

「え、」
『...びっくりした、』
「マルちゃん...」
『おん。さっき、上手くいって』
「...そうなんだ」

話は聞いていた。好きな人がいるんだと、顔を真っ赤にして打ち明けてくれたから。よかった。本当によかった。

『はぁー、ええなぁ...』
「よかったね。マルちゃん」
『なにアレ。めっちゃ可愛い子やん!』
「うん。可愛いね」
『マルちゃん狡いわぁ』
「忠義の周りだって、いっぱい可愛い子いるじゃん」
『そぉ?#name1#も可愛いで』

あまりにも突然サラッと言うから、聞き流しそうになった。可愛いなんて言われたのは、小学生以来かもしれない。
なんで今更。数時間前は散々貶してたくせに。

『...可愛いで?』
「......なんで2回言ったの」
『んは、無視するからやん』
「ありがとう、とか言えばいいの?」
『別にええけどー』

何だか変な感情。擽ったくて、嬉しいけど恥ずかしい。忠義の顔は見れなくて、マルちゃんと彼女の後姿を見つめた。

『あ、手ぇ繋いだ』
「...だね」
『...あぁーマルちゃんええなぁー俺もあんなんしたいなぁー羨ましいなぁー』
「...だから、忠義はいっぱい」
『#name1#としたいねん』

なんなんだろう。今日は、どういうつもりなんだろう。なんで急にそんなこと。
私を見た忠義はすぐにマルちゃんに目を移す。

『#name1#、好きやで』

...本当に?いつも冗談ばかりでヘラヘラしている忠義が、今は珍しくちょっと大人の顔に見える。

『好き、やで?』

横目で忠義を見ていたけれど、こっちは見てくれなかった。でもそれでよかったかもしれない。きっと今、顔が真っ赤だ。

「...可愛くないしおっぱいないって言ったくせに?」
『それはしゃあないやん!#name1#に似てるなー思てあのグラドルのおっぱい見てたとか言うたら引くやろ?』
「...あは、そうだね」
『んは、顔真っ赤っか』
「.....忠義が変なこと言うからでしょ」
『変なことちゃうし』

ニヤニヤする忠義をパンチして顔を背けると、笑いながら私の手を取る。10年振りくらいに繋いだ手は、驚くほど大きくてあったかくて、何だか照れ臭い。

「...まだ付き合うなんて言ってない」
『えー俺のこと嫌いなん?好きやろ?』
「...なにそれ」
『そんなええ感じの雰囲気で今更断るとかあかんてぇ。無理無理!離さへん!』

甘えた口調で駄々っ子みたいな忠義はやっぱり年下で。けれど、離された手の代わりに抱き締めるその腕は、私が知らなかった男の腕。


End.