Screwed up!!
『章大からだった。あけおめーって』
『遅っ!もう年明けて2週間経ってんじゃん!...あ、私も来てた!』
はっきり言って、動揺している。
『あは、文章同じじゃない?』
『“みんなで遊ぼう”...って、今から会うのに!』
『誰かに送ったの使い回してんじゃない?』
ファミレスの向かいの席でケラケラと楽しそうに笑う友人2人を見ながら、ますます動揺。心臓がバクバク。
『#name1#も?』
「...あ、!...うん、...来てた...」
...来てない。来てないよ。
けど、嘘ではない。
“今は”来ていないだけ。
私に章大からあけおめメッセージが届いたのは、年が明けて数時間後だったんだから。だからこそ動揺している。
章大には、彼女たちと私はどう違うんだろう。もしかしたら、私にメッセージを送った後、目の前の2人に送る途中で寝落ちしたのかもしれない。だから私だけ元旦に届いていて、その後送るのを忘れて、それで...。
一瞬で色んなことを考えたけれど、私をますます動揺させたのは、メッセージの文章だ。
“みんなで遊ぼう”
...私宛の文章にそんなことは書かれていなかった。
携帯を見せ合っている2人の向かい側で、1人落ち着きなくコーヒーを啜りながら、元旦に届いた章大からのメッセージを開いた。
“近々会お!いつ会える?”
今の二人の会話を聞いていて、“遊ぼう”ではなくて“会おう”というところに、今更焦りを感じ始めていた。
みんなで、なんて、どこにも書いてない。
とんでもないことをやらかしたかもしれない。
まさか、今日誘われたのは私だけだった...?いつも通りみんなに声を掛けてしまったけれど、私は確かに今日“会おう”と言われているし、今から会うはずの目の前の2人に約束の時間前に不自然に“みんなで遊ぼう”と言っている。
章大と約束をしたから2人に伝えた。いつも通り。けれど、普段と違うことはなかっただろうか。
...あった。いつも日時を決めた後に言われる『みんなに連絡よろしくな』が、今回はなかった。
...てことは、2人で会おうって誘ってくれたの?...嘘、なんで?そうだとしたら2人で会う理由はなんなの?どうして私だけ個別にメッセージが来たの?
...まさか、章大、私のこと......。...いや、ない。それはない。章大が私を好きなはずない。今までそんな素振り、一度もなかったし。
いつも優しいけど私にだけじゃない。
連絡が頻繁にあるわけでもない。たまに連絡が来るくらいだし、自分からメッセージを送ってくるくせに大体『今忙しいから返信遅れるかも』と書かれている。
...あれ?...忙しいのに、連絡してくれてたんだ...。
そう言えばそうだ。話しを終わらせたくないがために疑問系で返信する私のメッセージに、どんなに遅くなっても返事をくれていた。
考え過ぎ...?
一人だけ元旦にメッセージが来たのも、“会おう”も、忙しい仕事の合間に選んだ話し相手が私だったのも、たまたまなんだろうか。
偶然にしては出来過ぎている、なんて思うのは、自惚れなんだろうか。
...私だけが特別だったらいいのに。
手の中の携帯が震えて我に返った。表示された“章大”の文字に、一気に鼓動が早くなる。
「...もしもし、」
『...............。』
「......も」
『ちょっとお伺いしたいんすけどぉ』
「......はい、」
『...今日は、2人ちゃうんや?』
「..............、」
...やっぱり、そうだよね。気付くのが遅すぎた。
『...ちょっと出て来て』
プツリと切れた携帯を耳から離して見つめる。誰?と問う2人に目を向ければ、2人の後ろの窓の外で、植え込みの上にちらりと見える見覚えのあるキャップ。
「...ごめん、ちょっと...コンビニ、」
不思議そうに私を見る2人を残して店を出ると、今章大が見えた植え込みまで駆け寄る。
『................。』
駐車場の片隅でキャップを後ろ向きに被り直した章大の横に立てば、パーカーのポケットに手を突っ込んで俯き、こちらも見ずに不機嫌そうに足で砂利を弄っている。
『......2人や思てた』
拗ねたように発したその言葉に、気まずさよりも歓喜が勝ってしまう。この言動に期待しないわけがない。
『俺、“みんなで”とか言うてへんよなぁ?』
「......うん、」
『......もぉー...なんやねん、...あいつらには悪いけど!』
「......ごめん、」
『...ちゃんと言うとかんかった俺も悪いけどさぁ!...いや、悪ないわ!わからんわけないやん!...わかるやろ、普通...』
「................、」
『...わかるやん...』
...嬉しい。こんなことを言われても口元が緩んでしまいそうなほど嬉しい。器が大きいいつもの落ち着いた章大からは想像出来ないほど子供っぽくて、怒られているのは私なのに、何だか妙に胸がきゅんとする。
『...あー、そうなんや、アレやろ?ほんまはわかってたけど俺と2人は嫌やったんや?せやからわかってないフリしてあいつら誘ったんや?』
やっと私に向いたその目は鋭く見つめているのに、唇が少し尖っているから愛しい。
『...えぇぇ...ほんまにそうなんや...?』
「...違うよ、」
『.................。』
「...違うから、...ごめんね、」
視線が外れてまた俯いた章大が、私に背を向け歩き出した。慌てて後を追いながら名前を呼ぶと、立ち止まって前を向いたまま言った。
『章大と2人で居たいから帰るね、...って、言うてきて』
絶句する私を振り返った章大は、顔を赤らめて睨むように私を見ている。
こんな子供みたいな我儘が章大の口から出るなんて思ってもみなかった。
「......わかった、」
『...ちょ、...そんな簡単にさぁ...』
「...ん、?」
『...意味わかってるん、』
「...わかってる、」
『わかってへんよ』
「...言ってくればいいんでしょ、」
『...全然わかってへんやん、』
苛立ったように私の前まで戻って来た章大がぶつかるように唇を私のそれに押し付けた。さっきよりも赤く染まった顔を見て、私までそれが伝染してしまったから俯く。
『...こういうこと言うてんねんで、?』
「......だから、...わかってるってば、」
ちらりと章大を見てすぐにまた俯く。一瞬私の目に移った章大は、相変わらず顔を赤く染めたまま口元を掌で覆っていた。
「...言ってくるから、」
『嫌や』
「え、」
顔を上げてもう一度章大に目を向ければ、周りを見回しながら腕を掴まれ引かれいきなり壁に押し付けられて、驚いて章大を見つめた。
『...もっかいキス、してからにしよ?』
「...見られたらまずいよ、」
『......うん』
「...だから、」
『...1回だけなら大丈夫ちゃう?』
すぐにキスで塞がれて痛いほどに胸が高鳴る。
...1回だけって言ったのに。
離れてすぐに触れて繰り返される終わりのないキスで、全てを忘れてしまいそうな程章大に侵食される。
End.