Dear You!!


『なんでその色選んだん?』
「............。」

章ちゃんバカ。うるさい。

『しぶやんはぜーったい赤か黒な感じやのにぃー』
「............。」

もう、うるさいって。ちょっと黙っててよ。こっちはドキドキしてるんだから。

『なぁなぁ、#name1#聞いてるぅ?』
「............。」
『なぁって、#name1#ちゃー』
「うーるさーい!」
『...ごめんなさい』

唇を尖らせ拗ねたような文句を言いたそうな顔で私の手元を見つめる章ちゃん。その視線の先には、手作りしたクッキーと、水色の小さな箱に青いラッピング、緑色のリボン。

『...しぶやんが青と緑て、なぁんか...』

鋭い視線を向ければまた黙って徐々に唇が尖ってくる。
5枚ずつクッキーが入った4個の袋。その中のひとつの袋を手に取って、袋の上からあまりにベタベタ触るからそれを取り上げ、小さな箱にふわふわを詰めて二つの袋を綺麗に並べる。

『ふたつしか入れへんの?』
「うん」
『あまったん?』
「んー、どうかな」
『一個食べたい』
「ダメ」
『なんでぇ?食べたい!味見!』
「まるちゃんがしてくれたから大丈夫」
『なんでまるには食わせて俺にはくれへんねん』

プリプリ怒ってますます唇が尖って、子供みたいに拗ねるこの人は本当に可愛い。けどダメなの。これはあげられない。

『俺が#name1#のこと好きや言うたから?』
「..............。」
『だから手作りはダメなん?』
「...そうじゃないよ、」

そんなセリフを吐きながら、よくじっと見つめられるなぁ。私の方が照れちゃうよ。顔、赤くないかな、大丈夫かな。

箱をキラキラの青で包んでリボンをぐるぐると巻く。章ちゃんがあまりに手元を見るから、なんか上手く動かない。

『もー!イライラする!』
「...は?」
『#name1#のぶきっちょ!俺がやる!』

私からリボンを取り上げて整えながら綺麗にリボンを巻いていく。私よりもはるかに器用なその手元を見つめながら、章ちゃんに言った。

「...章ちゃん、私のこと、ほんとに好きなの?」
『うん』
「それなら、なんで手伝うの?」
『ぶきっちょやから』
「...そうじゃなくて...」
『好きやもん。#name1#も、しぶやんも』

章ちゃんて、不思議な人。よくわからない。私とは全然感性が違う人。
だから余計に惹かれるのかもしれない。

「章ちゃんて、変わってるよね」
『よう言われるぅ』
「章ちゃんて、...バカだね、」
『え!』

章ちゃん。私、すばるくんのことが好きなんじゃないんだよ。バカじゃないの。ずっと勝手に勘違いして、ほんとバカ。

『でーきた!ほら!キレイ!』
「...うん、キレイ...」
『しぶやんラッピングなんか気にせんとガッサー取る思うけど』

綺麗に包まれた箱をくるくると回して見せてから机に置くと、その横にあるクッキーを物欲しそうにじっと見つめている。
...もう、いいか。ちゃんとラッピングした方をあげようと思ったけど、そんな犬みたいな顔されたら、どっちでもよくなっちゃう。

「ご褒美」
『え!食べてええの?』

キラキラと輝くその目がクッキーから私に移った。どくんどくんと鼓動が早まる。
開いた袋からクッキーをひとつ取って章ちゃんに差し出すと、章ちゃんの掌がそれを受け取るために受け皿を作る。そこにクッキーを1枚置くと、章ちゃんの唇が綺麗な孤を描いた。

「待て」
『え?いや、犬ちゃうし!』
「よし!」
『いただきます!』

大事そうに両手でクッキーを持って口に運ぶと、ちびちび歯で削って食べながらムフ、と笑う。なんだろう、この可愛い生き物は。ドキドキし過ぎて、この先に予定している言葉を忘れてしまいそう。

「...犬っていうより、ハムスターだね...」
『おいしいよ!めっちゃうまい!』
「...うん、よかった」

最後のひと欠片を口に入れて、ごちそうさまでした、と章ちゃんが手を合わせた。そして胸の前で腕を組んで一言。

『...けどやっぱ、しぶやんは赤やなぁー』
「..............。」
『俺のが青っぽい感じせぇへん?』
「...うん、...あげる」
『えぇ?』
「...章ちゃんに、あげるね」

章ちゃんによって綺麗にラッピングされたその箱を章ちゃんに押し付けると、まん丸になった目が私を捉える。更に押し付ければ、その箱を章ちゃんの両手が包んだ。

『...怒ったん?』
「怒ってない」
『...ごめん、いや、大丈夫や思うで...?ただの俺のイメージで言うてもうて、』
「...いいの!あげるの!」

今度は逆に章ちゃんが私に押し付けるから、それに手を添えて更に押し返す。
後には引けない。けど、ドキドキし過ぎて上手い言葉もやり方も見つからない。

『いや、よくないやろ、だって』
「いいの!」
『なんでや!』
「章ちゃんにあげたいの!」

ぴたりと止まった章ちゃんの手の中に箱をしっかりと押し込んで手を離すと、章ちゃんがふにゃりと笑った。ふにゃり、と言うより、デレデレ。

『そんなん言われたら貰うしかないなぁ♡...しぶやんには申し訳ないけどぉ♡』

...しぶやんに、申し訳ない...?
...私の気持ち、全然、伝わってなかった...。

片手で箱を抱えて、もう片方の手で顔を覆って、んふふふと笑っている章ちゃん。...喜んでくれてるのは確かだ。
でも、他人事ほど敏感なくせに、自分のことには鈍感で困る。私の一世一代の告白(?)にも、気付かないくらい鈍感。

...そうか、章ちゃんにはもっとはっきりとした言葉で伝えなきゃいけないのか...。さっきみたいな遠回しは、通用しないみたい。
ここまでの勇気と精一杯の未熟な告白は見事に泡のように消えてしまった。

「...はぁ...」
『え、今更返してとか言うてまう?』
「...章ちゃんのバカ」
『...ちょっとぉ、俺の純粋な気持ち弄ばんでくれるー?』
「...好きだよ、章ちゃん」
『うん。...うん?...え、』


End.