LOVEスパークル!


『...うざ。あんたもいつもピアスしてるくせに』
「...だから、ほら、今日はしてないんで、」
『あんたが書かなきゃわかんないよ』
「とりあえず外してくれたらそれでいいんだよ?没収とか嫌でしょ...?」

何が楽しくて風紀委員長になってしまったんだろう。
そう。ただジャンケンで負けただけ。だから今、理不尽に怒られたりウザがられたりしてるわけで。

明日身だしなみチェックしますよーってお知らせしたでしょ。ピアス外してスカート伸ばして、ズボン下げちゃダメですよーってさ。
なのになんで朝っぱらから門の前でこんなに怒られるんだろう。

『外した。いいでしょ』
「はい。ご苦労様でした...」

溜息と共に項垂れる。精神的ダメージで疲労がMAX。早く登校してくる生徒より、遅くなるにつれて問題児が押し寄せて来る。
それを聞いていたから人の多い正門は副委員長達に押し付けた。だって私は一人だし。...だってこっちは、安田くんが来るし。

安田くん、来ないかな。安田くんならきっと注意するところがいっぱいあって、話が出来るんじゃないかと思ったんだけど。普段から遅刻常習の安田くんだから、あまり期待はしていない。していなかったのに。

『...あ!風紀の日や!』

左側から聞こえた少し高めの声に、思わず勢い良く顔を向けた。

『あ、おはようございまーす』
「...おはようございます!」

ニコニコと笑顔で私の前に立ち止まった安田くんに笑顔を向ける。
...可愛いなぁ。

『...で?』
「...え?」
『チェックせぇへんの?』
「え、あ!あの!ズボン!」

見とれた、と言うよりも挨拶をして満足してしまったことに、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってズボンを指差した。

『...脱ぐの?』
「...ま、まさか!...ちょっと上げられない?」
『ちょっとなぁ、これデカイんよー。ベルトしても下がってまうねんなぁー』
「とりあえずで大丈夫、」
『...はーい。出来た!あとは?』

今までの人とは大違い。素直だし、いちいちニコニコしてくれてなんていい人なんだろう!そんなとこが好き!

「ピアス、外して、...マフラーも、取ってみてください、」
『了解でーす』
「えっと、」
『なんでしょう』
「ネクタイ、ちゃんと、」
『えー、俺上手いこと出来へーん。#name2#さんしてくれる?』

今まで生きてきた人生の中で、5本の指に入るくらいショッキングな出来事。震える手は、寒さのせいかそれとも緊張のせいか。
あまり躊躇っていると意識しているみたいに見られたら恥ずかしいから、震えを隠すように無駄に力を入れた手を伸ばした。

『お願いしまーす』

暢気な声で言った安田くんに返事を返す余裕もなく、ピアスを外しながら少しだけ顎を上げた安田くんのネクタイを掴む。

落ち着いて、私。焦って上手く結べない...
どうしたって震えてしまう手のせいで無駄に時間が掛かる。...もうちょっと。やっと首元に収まろうとしているネクタイに安堵したその時、突然私の耳に安田くんの手が触れた。

『あ、出来た?ありがとぉ。...ちょっと待ってな?』

ネクタイを離して下に下ろした手は、今日一番の震えを記録しているはずだ。

『あ、ほら!ええやん!可愛い!』

無邪気に笑った安田くんを見ながら、今まで安田くんが触れていた耳に触れて確認する。
...多分、今安田くんが外したばかりのピアス。

『それ、あげるな?#name2#さん、色白やから映える!』
「え、...でも、」
『没収や思てさ!』
「...........、」
『...うん、...可愛い』

目を逸らした安田くんが少し頬を染めながらマフラーを巻き直して口元を埋める。それを見て私も安田くんから目を逸らした。彼以上に赤面している自信があるから、恥ずかしくてたまらない。

「...あ、りがとう、」
『...おん!...へへっ、似合てるよ!』
「...そう、?」
『...あとは?平気?』
「あ、うん、...大丈夫、」
『...じゃあ、...行きまーす、』

ちらりと私を見て前を向いてから手を振った安田くんに、見えているはずもないのに頭を下げた。

何これ何これ何コレ...!
ちょっと、どういうこと...
興奮が治まらないままガバッと顔を上げると、安田くんがすぐそこまで戻って来ていたから驚いた。
不意打ちに動揺してスカートを握り締める私の前に、安田くんが立ち止まる。

『...これは、あとで...返しに来てくれると嬉しいな、』

さっき巻き直したはずのマフラーが、私の首に巻かれた。
いつも私じゃない誰かに向けている笑顔より幾分かぎこちない笑顔を私に向けて、安田くんが言った。

『...風邪、引かんといてな?』

くるりと音がしそうな程勢い良く向きを変えて、足早に安田くんが校舎へ向かう。その後姿さえ見ていられずに、真っ赤に染まった頬を押さえて蹲った。


End.