Holy Sleep


「来るなら電話くれればよかったのに、」
『えー、別にええやん』
「...いいけど、」
『俺のあるー?』
「お腹一杯になるほどはないかも」
『ちょっと前に少し食うたから大丈夫やで』

もうご飯を食べたのに、うちに来てわざわざまたご飯食べるって!と思ったけれど、自分が作ったものを美味しいと食べてくれるのは素直に嬉しい。

来るとわかっていたら、煮物なんかじゃなくチキンやケーキを用意したのに。
クリスマスに会えないのはわかっていたししょうがないと思っていたけれど、クリスマス前に会えるのは多分今日が最後。ならせめて、食事だけでも雰囲気を出したかったのに。

準備している間、幾度となく大きな欠伸をしていた忠義を横目に見て、申し訳ない気持ちになる。
きっと、クリスマスに会えないことを気にして、今日会いに来てくれたんだろうから。
会えないと言われた時に顔に出したつもりはなかったけれど、物凄く申し訳なさそうな顔をして頭を撫でて『ごめんな、ごめんな、』と何度も言っていたし。

『悪いけど明日起こしてくれへん?』
「うん。わかった」
『明日からまたハードやねん』
「だろうねー」
『今年会えるの最後かも!』
「良いお年を」
『さみしいー!とか言うて抱き付いてくれへんの?』
「しなーい」
『むっちゃ淡白やね...』

笑っているけれど疲労の色は拭えなくて、酷くなった肌荒れからもその過酷さが見てとれる。
温めた煮物をテーブルに置きながら、言い訳のようにさっきの心の中を声に出した。

「来るって言わないから煮物だよ」

ちらりと見た忠義は目を閉じていて、あ、と思ったときにはもう目を開けた。

『煮物でええし。#name1#の煮物めっちゃ好きやもん』

笑った忠義はどこかぼーっとしていて、気付かずに話し掛けてしまった自分を悔やんだ。

いただきまーすと箸を持って手を合わせた忠義が、煮物やご飯を口に運びながら『うまっ、』と言って頬を膨らませている。

お茶を淹れようとまたキッチンへ戻り、湯を沸かして注ぎ、目を向けた忠義は箸を持ったまま目を閉じ、ウトウトとして頭を揺らしていた。
ゆっくりと近付いて忠義の箸を静かに掴むと、パチリと目が開いて箸を掴み直した。

『めっちゃうまいで』
「食べながら寝たら危ないよ」
『...まだ食べたい、』
「でも、」
『...暫く食べられへんもん、...#name1#の飯、』

瞼が半分閉じかかって必死に格闘している忠義の箸を手から抜き取ると、忠義がぼんやりと私を見た。

「明日の朝も作るしさ」
『朝も食べるけど、...今も、』
「今日はいいよ。立って。ベッドまで歩いてよ!一人じゃ運べない!」
『...#name1#ー、...ごめん、』

思わず言葉を失った。
食べられなくてごめん、なのか、
会えなくてごめん、なのか。
どちらにしても謝らせたかったわけではないから、支えて立たせた大きな背中をバシッと叩いた。

『...痛、』

いつもの何倍も間が空いて笑う忠義の閉じられた目を見ながら、ありがとう、と言ったら『何がやねん』とまた笑ってベッドに転がった。
毛布を掛けると薄く開いた目が私を捉えて、ふにゃりと笑う。

「おやすみ」
『...一緒に寝よ』
「テーブル、片付けてからね」
『えー、寝てまうやん、』
「寝てよ」
『嫌や、』
「放っておいたらゴキブリ出るよ」
『...それも嫌や、』
「おやすみ」
『...キス、』

大袈裟なほどに突き出された唇に軽く触れると、忠義が満足そうに笑って目を閉じた。それを見ながら背を向けると、後ろから小さな声が聞こえた。

『...メリークリスマス、... 』

寝ぼけているのか、おやすみの代わりなのか。よくわからないけれど幸せそうに笑いながら言うから、私もつられて笑いながら部屋を出た。

食べ掛けの料理が置かれたダイニングテーブルを片付けながら、隣の椅子に置かれた忠義のバッグに目が止まる。
さっき忠義を立たせた時に落ち掛かった忠義のバッグの中から、黒い包装に赤と緑のリボンが付いた四角い箱が覗いていたから。

見ない振りをしてバッグに押し込み、バッグを置き直す。
忠義の気持ちが詰まったその箱の中身は、明日の朝までお預け。


End.