You belong to me


信ちゃんの誕生日パーティーでみんなで集まっていた。
私が2時間ほど遅れて会場に到着した頃には、何人かの友人はすでに酔い潰れ、主役である信ちゃんもヘラヘラと笑いながら私に絡んで来た。

『なんや#name1#!来てくれたんか!』
「おめでとう」
『今日は笑ろとるなぁ』
「...その話は、...」

肩を組まれて面白がるみたいに私の顔を覗き込む信ちゃんに、苦笑いする。
信ちゃんにはずっと彼の浮気を相談していた。泣きながら歩いていたところにたまたま会ったのがきっかけだった。
2ヶ月続いたそれも、今日ここに来る前にピリオドを打ったのだけれど。1ヶ月程前から、私の気持ちは既に信ちゃんにある。

友人たちは休日だけれど信ちゃんは仕事だ。幹事から、まだアルコールを一杯しか入れていない私が信ちゃんを送って行く仕事を命じられた。
別れたことを報告しようと思っていたし、ふたりになれるのは丁度いい。

「信ちゃん、帰るよ」
『はぁ?まだ早いやろ!』
「帰れるうちに帰らなきゃ」
『...んやねん』

舌打ちをした信ちゃんが私の肩を抱いたからドキッとした。さっきみたいに私をからかうようなそんな表情で耳元に唇を寄せる。

『ほんなら一杯くらい付き合うてや』
「まだ飲むの?」
『家やったらええねやろ?』
「...うん、」
『何今更警戒しとんねん。いつも来てるくせに』
「ち、違うよ、」
『ほな、行こか!』

肩を組んだまま皆に手を挙げて挨拶し、店の外へ出るとタクシーに乗り込んだ。
信ちゃんの家に向かうタクシーの中で気持ち良さそうに目を閉じる信ちゃんの横顔を見つめた。
今日はだいぶ酔ってるし、報告はまたにした方がよさそうだ。

タクシーを降りてマンションのエレベーターを待つ間、自分で歩けるけれどフラフラと落ち着きなく動く信ちゃんに声を掛ける。

「大丈夫?」
『大丈夫やー言うてるやろー!』
「信ちゃん!声でかい!」
『デカイことあるかい!』
「近所迷惑だよ、」

扉が開いたエレベーターに乗り込み並んで立つと、信ちゃんが私を見て、ふっと笑って顔を戻した。

「...なに、」
『なんもあらへん』

エレベーターを降りて妙に足早に部屋の前まで歩いた信ちゃんが、鍵を開けて私を中に押し込んだ。
相談する時に何度か上げてもらった部屋も、時間が時間ともなると妙に緊張してしまう。

部屋に入ってすぐにその足でキッチンへと向かった信ちゃんを横目に、静かにテーブルの前に正座した。意識していると思われるのは恥ずかしいけれど、どうしたって緊張してしまう。

目の前にグラスを置かれてはっとした。顔を上げると、信ちゃんがまた口の端を上げていたから怪訝な顔で聞いた。

「...だから、何、」
『...や、最近泣かんようになったなぁ思て』

シャンパンをグラスに注ぎながら言った信ちゃんに、一度逸らした視線をちらりと向けた。
もしかしなくても、それは信ちゃんのせいだ。

『ま、上手く行ってるならえんちゃう?かんぱーい!』
「...乾杯、」

このタイミングで言うべきか、と思っていたのに、乾杯で遮られた。
グラスのシャンパンを一気に流し込んでテーブルに強めに置いた信ちゃんを見ていたら、いきなりくるりとこちらを向いた信ちゃんが横目で私を見る。

『思たより粘るなぁ』
「...え?」
『...別れてまえばええのに』

その意味を理解出来ずにいると、信ちゃんの左手がわたしの頭を引き寄せた。ぶつかるように唇が触れて、今度は信ちゃんの右手が私の腰に回された。抱き寄せるようにしながら舌が侵入して絡め取られ、呼吸も出来ないほど深く口付ける。
もう、頭が真っ白だ。

唇が離れると、少し荒く熱い吐息が掛かる距離で見つめられる。信ちゃんが目を伏せて私の肩に額を乗せると、両手を私の首の後ろへと回した。

『...あかん、酔うたわ』

今のは何だったんだろう。よくわからないけれど、酔ってたからしてしまったということだろうか。

『俺にしといたらよかったんちゃうの』
「......信ちゃん、」

顔を上げた信ちゃんが、下から掬い上げるように再び唇を合わせた。
同じ気持ちだと思っていいんだろうか。キスといい今のセリフといい、そう思う他ない。

次第に深くなるキスの途中で、信ちゃんの背中に腕を回した。ギュッと抱き締めてキスに応えると、信ちゃんの手が体を這ってそのまま床へと押し倒される。

『...今日だけ、俺のもんな』

すぐに噛み付くようなキスで塞がれて、完全に打ち明けるタイミングを逃した。
性急に服を剥ぎ取られて直に触れた信ちゃんの手が、少し乱暴に私を愛撫する。それさえも刺激になる程に昂った感情が、私の頭を真っ白にした。



『処女ちゃうねんから力抜いとけや、っ』

ついさっき上り詰めたばかりの体に信ちゃんが入って来て、激しい快楽に思わず体が強ばる。ゆっくりと埋め込まれるだけのそれにさえ体は反応し声が漏れる。

奥までぐっと押し込んだ信ちゃんが緩やかな律動を始める。目を閉じて息を吐き出した信ちゃんが目を開けたところで視線が絡む。

『...あいつと俺、どっちがええか言うてみ、っ』

意地悪な笑みを浮かべて私を見下ろす信ちゃんに首を横に振った。

『わからんよなぁ。まだまだこれからやもんなぁっ、』
「ちが、っ、...信ちゃ、っ」

違うよ、別れたの。好きなのは信ちゃんだよ。それがなかなか口に出せない。私が口を開くとそれを遮るように信ちゃんが口を封じる。何かに怯えているようにさえ感じるから、早く口に出したいのに。

奥を突かれる度に目をぎゅっと閉じて耐えるけれど漏れる声は止められず、目を開ければキスで口を塞がれる。それを繰り返すうちに今伝えるのは断念した。

抱き起こされて座る信ちゃんの上に乗せられると、より深く繋がって顔を歪める。それをまっすぐに見つめる信ちゃんが私の髪を撫でたから、はっとして口を開いた。

「...別れたの、っ」

無表情で私を見つめる信ちゃんの手がぴたりと止まってから、眉間に皺を寄せた。

『...はぁ?』
「...来る前に、別れて来た、」

口を開けて私を見ている信ちゃんを見ながらごくりと唾を飲んだ。

『なんっでや、...はよ言えや!』
「...だって、信ちゃんが、」
『俺のせいかいな!』
「...言わせてくれなかったじゃない、」

バツが悪そうに私から視線を逸らした信ちゃんが、私の腰を掴んで下から突き上げる。急な律動の再開に思わず声が漏れると、それをきっかけに腰を浮かされては引き寄せられ、ますます激しく打ち付けられる。

『なんで今言うたっ、?』

好きだからに決まってるじゃない。
信ちゃんの問い掛けに目を開けると、荒い呼吸を繰り返しながら顔を歪め、信ちゃんが私を見つめる。

『...なぁ、っ、なんでやっ』

聞いたのは自分なのに、話す隙を与えない程激しく突き上げるから出て来るのは嬌声ばかりだ。
さっきまでの黙らせるキスとは違う、高めるようなキスで舌を愛撫され、絶頂がすぐそこまで来ている。

腰を押し付けるように奥を抉られ、体がびくりと跳ねた。脱力して信ちゃんの首筋へと預けた頭を撫でられてから、頭を支えて起こされる。

『今日だけ言うたの、取り消すわ』
「............、」
『今日から、ってことでええやんな?』
「...うん、」

照れ隠しか無表情で私を見つめた信ちゃんが、また乱暴に頭を掴んでキスをした。そのまま背中からベッドに倒されてすぐに再開された律動に、篭った声が僅かに漏れた。

『...今日から、俺のや』

言い聞かせるような真っ直ぐな視線、刻み付けるような深く激しいキスと刺激を全力で受け止めて、信ちゃんの胸元に紅い印を刻み込んだ。


Happy birthday!!  2014.1.26