secret intention


玄関のドアがいきなりガチャガチャと音を立てたから驚いた。
忠義は今日は飲みに行くと言っていたし、もう22時だというのに。

暫く続いたガチャガチャがやんで、ビクビクしながらもしもの時のために携帯を握り締め部屋の奥から覗いていると、インターホンがなったからびくりと肩が揺れた。

モニターに映し出されたのは、ドアップで無駄に満面の笑みを浮かべた忠義だ。
ゆっくりと玄関を開けると、ヘラヘラと笑いながら忠義が抱き着いて来た。

「どんだけガチャガチャすんの。怖いよ」
『よく見たら俺んちの鍵やった!』

ヤスくんと会うのは20時くらいだと言っていたのに、短時間でこんなに酔えるなんて。
呆れ気味に忠義を見るけれど、本人は何を勘違いしたのか『んふふ、』と笑ってキスをした。

「...酒臭い、」
『当たり前やん!飲んでるもん!』
「短時間でよくそこまで酔ったね」
『はよ帰りたくて急いで飲んだ!』

意味がわからない。今日は元々来ないと言っていたし、ヤスくんを誘ったのは忠義の方だ。早く帰りたいならなんでわざわざ遅い時間から約束したりしたんだろう。

ご機嫌な様子の忠義は私から離れてソファーに座ると、手を広げておいでと言っているみたいだ。
けれど本当に酒臭いから、それをスルーして隣に座ると横目でちらりと私を見る。

『むっちゃツンデレやーん』
「忠義はデレデレだね」
「...あんな、今日な、ヤスと会う前に一人でブラブラしてたらな、むっちゃ#name1#に似合いそうなの見つけてん!」

そう言えばさっき紙袋を持っていた。
玄関横に置いた袋を指差して忠義がニコニコと笑う。
街を歩いていてそんな風に私を思い出してくれる瞬間があるというのは、素直に嬉しい。

『着てみて?』
「今から?」
『はよ着て欲しくて急いで帰って来てんから!』

立ち上がって紙袋を手にして戻って来た忠義に、それを押し付けられる。
何だか嫌な予感がする。コスプレ的な物だったらどうしよう。
来た時よりも更にご機嫌な様子で目を輝かせているから、怪訝な顔で忠義を見る。

『なにー?脱がせてほしいん?』
「...違う」
『しゃあないなぁー』
「だから違うって」

太腿に伸ばされた手をパシリと叩くと『痛っ』と言って笑っている。それを横目に袋の中を恐る恐る覗いた。

...意外にも普通の服だ。
広げてみても、胸元は若干あいている気がするけれど綺麗な色のニットと、短過ぎないスカート。普段忠義が好きだという物よりも清楚なイメージだ。本当に普通過ぎて拍子抜けした。

「...着ればいいの?」
『うん!着てみて!』

あまりにも嬉しそうに言うから私も笑みが溢れた。
隣の部屋で、何の抵抗もなく着替えを済ませ鏡で確認する。サイズもぴったりだし、忠義が言ってくれたように、本当に似合っている気がして逆に少し恥ずかしくなった。

『...めっちゃ可愛いやん!』

部屋を出るとすぐに振り返った忠義が、立ち上がって再び満面の笑みで私を迎えた。

『むっちゃ似合てる!ええやろ?やっぱ似合うやろ?』
「...ありがとう」
『めっちゃいい!マジで!』

あんまり褒めるから照れ臭くて目を逸らすと、手を掴まれて引き寄せられ、立ち上がった忠義の腕の中へ導かれた。

『...めっちゃイイ...』
「...はぁ?」

抱き締めて腰を引き寄せられ密着してみれば、何故か忠義のそこが反応している。
そういう雰囲気じゃなかったはず。忠義の好きそうなコスプレでもないし、本当に普通なのに。

ニッコリと笑いながら忠義の唇が触れて、食むように唇を愛撫する。腰から下がった手は、ヒップから太腿にかけてスカートの上から撫でている。

「なんで」
『なにが?』
「興奮する要素あった?」

言いながらもソファーに押し倒されて、忠義が私を跨いだ。物凄く楽しそうに私を上から眺めている。

『あるやん。清楚な人犯して乱れさすって、むっちゃ興奮する』
「...悪趣味、」
『たまにはええやんかぁ』
「...プレゼント、嬉しかったのになぁ、」

含み笑いした忠義が、ゆっくりと顔を寄せてキスを落とした。弄ぶように何度も離れては触れてキスを繰り返すから目を閉じて応えると、頬にキスを落とされたから目を開けた。
忠義はさっきまでとは違う、色気をふんだんに含んだ表情で私を見ていた。

『男が服プレゼントする時ってな、大体脱がすことしか考えてへんで』

それは忠義だけでしょ、と反論し掛けた言葉は飲み込んだ。
忠義が私を欲して来てくれたのは素直に嬉しい。...なんていうのは建前だ。
キスで高められた身体は既に忠義を求めている。触れられる度に疼く身体は、本当は忠義が来た時から期待していた証拠だった。


End.