Drunk with joy!!


ちょっとさすがに酔ってきた。
一軒目で帰るはずが、安田くんに
『この後、行くよなぁ?』
なんて可愛く聞かれたら帰れるはずがない。
しかも、全然話していなかったのに、真っ先に私のところに来て聞くんだから、本当に狡い。

なのに、向かいに座る安田くんは隣の女の子とさっきから楽しそうで。両脇の同僚たちが私を挟んで話しているのに、さっきから全く話が入って来ない。

なんとなく焦って、落ち着かなくて、最初に頼んだアルコールと『これオシャレだね』と、みんなで追加で頼んだ名前も覚えていないようなストローがささった綺麗な色のカクテルにチビチビと休みなく口を付けていたら、顔が熱いしフワフワしてきた。

ちらりと安田くんに視線を向ければ、女の子の耳に手を添えて耳打ちしながら視線が絡んだ。すると、そのまま私に微笑んでから離れるから、本当に確信犯なんじゃないかと思ってしまう。

「...ちょっとごめん、」

話の途中で申し訳ないとは思ったけれど、 同僚に頭を下げて席を立ち、煙草の煙が充満した息苦しいその空間を脱出した。
お手洗いで鏡に映した自分の顔はほんのり赤くて、少し眠たそうな目をしていて、気合を入れるように掌でパシリと顔を覆った。

トイレから戻ると、さっき安田くんが座っていた場所に彼の姿はなく、別の人が座っている。自分がいた場所も埋まっていたから、一旦立ち止まる。

『なにしてるん?』

後ろから掛かった声に振り返れば、ニコニコと笑いながら安田くんが私の手を取った。手を握られたまま、あっという間にさっき私が座っていた方へ導かれ、元の席から一つずれた席へ並んで2人で座った。

今の一瞬で心臓が飛び跳ねるほどドキドキした。もう既に離されているさっき握られた手首からは、ドクドクと脈を感じる。
やばい。どうしよう。動揺しすぎだ。

落ち着こうと伸ばし掛けた手をピタリと止めた。席がずれて、並んだグラスは同じものばかりで、どれが自分の物かわからない。
隣は女の子だったけれど反対の隣は男の子だったし、躊躇ってグラスを見つめる。

『...どうしたん?』

突然耳元に寄せられた唇から囁かれて、再び心臓が跳ねた。首を傾げて私の顔を覗き込む安田くんは、ニコニコと私を見ている。

「どれかわかんなくなっちゃったから...」

並んだグラスを指差せば、納得したように頷いた安田くんがまた耳元に唇を寄せるから体が強ばる。

『どれでもええんちゃう?あの人の絶対無理!...とか、ないやろ?』

笑う安田くんに、口角を上げて頷いた。上手く笑えているだろうか。緊張し過ぎて笑顔が難しい。
自分が居た位置に近いグラスに手を伸ばし、ストローに口をつける。
何となくホッとした顔をしてしまったのか、それを見た安田くんが可笑しそうに口に手をあてて笑うから、少し恥ずかしくなった。

安田くんが私の方を向いて椅子に座り直したから、右半身が硬直したような錯覚に陥った。安田くんの方が見れないままストローをくわえて、一口ゴクリとカクテルを流し込んだ。

肩がポンポンと叩かれたから、ゆっくりと安田くんにちらりと目を向けると、口元を緩めて楽しそうに私を見て笑う。あまりに笑うから首を傾げると、私の肩に手を乗せたまま唇を耳元に寄せた。ふっ、と笑ったと同時に耳に息が掛かる。本当にわざとやってると思う。私をからかって、楽しんでいるみたいだ。

『はーずれぇー』
「え?な、何が?」
『今飲んでるの、俺のでしたぁー』

一瞬固まった後、口を付けていたストローをそっと離してちらりと安田くんに目を向ける。悪戯っ子みたいに笑いながら私の持つグラスを指差して、安田くんが言った。

『間接キスや!』
「...違うなら、言ってよ、」
『なんか、ドキドキするやん?』
「...しないよ」

何だか本当にからかわれている気がしたから思わず言った。グラスを置いて顔を背けると、肩にあった手が離れてからもう一度ポンポンと遠慮がちに肩が叩かれた。
横目で彼を見た私の様子を伺うようにちらりと私を見た安田くんは、ちょっとしゅんとした顔をしていた。
怒ってるわけじゃない。恥ずかしかっただけなのに。

『...柴崎さんにな、#name1#ちゃん一次会で帰るって聞いててん』
「...うん」
『俺が誘ったから来てくれた、...とか、そんな都合のいい考え方は、...やっぱあかんか、』

驚いて安田くんに顔を向けたら、それに驚いたらしい彼が目を丸くして私を見る。
...やっぱり、なんとなく気付かれてたんだ。やばい。恥ずかしい。

自分の体温が上がる感覚に比例して、安田くんの顔が若干赤くなっているように感じる。私が目を逸らしたと同時に俯いた安田くんが、ぼそりと零した。

『...なんでそんな赤くなるん、?』
「...安田くんも赤いじゃん、」
『......うん、好きやもん、』
「..............、」
『...なんか言うて、』
「.........嬉しい」

俯いたまま固まった安田くんは、さっき私に意地悪して笑っていた人と同一人物とは思えないほど弱気で思わず苦笑いする。
ゆっくりと顔を上げた安田くんは、伺うように私を見て小さな声で言った。

『...明日、休みやね、』
「.........うん、?」
『...俺ん家、来ませんか、?』
「.........うん、」
『...へへ、』

子供みたいに笑った安田くんが、私から顔を背けて手を握った。不自然に二人の間に下ろされた手に、合図のようにキュッキュッと力が込められて、また赤くなった安田くんの横顔をちらりと見る。

『...#name1#ちゃん、』
「......ん、」
『...あとでさぁ、...キスくらいは、してもええ、?』
「.........うん、」
『......#name1#ちゃん、』
「........なーに、」
『...はよ帰りたい』
「.........うん、」
『.........#name1#、』
「え、」
『...好きやで、』


End.