mooniness


やっぱり合コンって、苦手。
信ちゃんがいなかったら絶対来なかった。信ちゃんに変な虫がついたら困るもん。

とか言ってるそばからもう虫がつきかけてる。あの女、『はじめましてー』って言ってたけど、信ちゃんのこと狙って参加したって感じだし、なんかベタベタしちゃってさ、ほんと感じ悪い!

...ボディータッチって、何。どうしたら出来るの?
無理無理、私には無理!信ちゃんに触るなんて...!ちょっと手が触れただけで動揺しちゃってるのに、自分から触りに行くなんて、絶対無理!

『さっきからなんっちゅう顔しとんねん!』

頭に鈍い痛みが走ったけれど、女の子と話していた信ちゃんが戻って来てくれたことに、ちょっと口元が緩みそうなくらい嬉しかったりする。

「どんな顔?」
『ぶっっっさいくな顔やで、ほんま』
「.............。」
『そんっな顔しとるからいつまで経っても彼氏出来ひんのやろ!』

それは違うよ(多分)。私だって告白の一回や二回されたことあるよ。...一回だけど。けどその貴重な告白を断ったのは信ちゃんのせいであって。どうしても信ちゃんがチラつくからであって。
自分でも呆れる。告白する勇気もないくせに、こんなとこまで追い掛けて来てるんだから。

けどそんな信ちゃんこそ、この前告白されてたくせに、モテるのに、なんでこんなとこ来てんの。

『お前処女やろ』
「...ななななんてこと言うの...!」
『むっちゃそんな感じやんけ』
「...どこが...!」
『わかんねんて!この歳なったら!』

机バシバシ叩いた上に、何そのドヤ顔。見てわかるって何。モテなさそうって言いたいわけ?ムカつく...!

「...信ちゃんには関係ないじゃん」
『そろそろちゃうの?』
「なに」
『そろそろ経験した方がええんちゃう?なぁ?』

笑いながらビールを煽る信ちゃんはどう見てもただの酔っぱらいで、しかも馬鹿にしたみたいに見えるからさすがに本当に腹が立った。
誰でもいいみたいな言い方、しないでよ。

『手伝ったろか?』
「...はぁ?」
『俺が奪ったろか?』

いきなりの耳打ちに心臓がドクンと脈打って息が詰まる。固まった私の顔を覗き込んだ信ちゃんの顔が見れない。
どうせからかって楽しんでるだけなのに、ドキドキしてしまうのが恥ずかしい。

『...おい。こっち見ろや』

照れ隠しに睨むように信ちゃんを見れば、馬鹿にしたような顔もしていなければ笑ってもいない。ただじっと私を見ている。

『貰てやる言うとんねん』
「...なんで信ちゃんが、」
『どうなん』
「...何が、」
『帰ろうや。二人で』

...やばい。私口説かれてるの?信ちゃんのこんな顔見たことない。
私だけに聞こえるトーンで返事を急かす信ちゃんの真っ直ぐな瞳に、今にも吸い込まれてしまいそうだ。

『お前、...』

信ちゃんがいきなり笑い出したから驚いて信ちゃんを見つめた。

『冗談やんけ!またなんちゅう顔しとんねん!』
「......ぇ、」

...冗談?ちょっと待って、そんな冗談ひどくない?私の気持ちを何だと思ってるの。
ショックを隠して呆れたように信ちゃんを睨んだ。目に薄く涙を溜めた信ちゃんは、私の冷たい視線に気付いて涙を拭って笑みを消した。

『...は?何キレとんの?』
「...そういうの、嫌い」
『ほんならほんまにヤったらええんか』
「はぁ?」
『せやろ?いきなり手ぇ出すわけないやんけ』
「......いきなり?」
『今日はせぇへんでー言うてんねや!』
「......今日は、...?」

眉間に皺を寄せたまま首を傾げて見つめれば、信ちゃんは何故かバツが悪そうに顔を背けた。

『...今日は我慢したるわ』
「...ぇ、」
『付き合う気ぃあるなら、店の外。5分後!』

バン、と音を立ててテーブルに手をつき立ち上がった信ちゃんを、ただ見つめるしか出来ない。
慌てて時計を確認して、今更真っ赤に染まった頬を覆って離れた席に座った信ちゃんを見る。
目が合えばぷいと背けられた視線と赤く染まった信ちゃんの耳に、言葉の意味を再確認した。

思いの外すぐに私に戻って来た信ちゃんの視線にドキッとしたところで、信ちゃんが立ち上がって顎でしゃくる。
まだ5分も経ってない。けど、信ちゃんに呼ばれて行かない理由はない。
先に外に出た信ちゃんを追ってこっそりとバッグを掴み店の外へ出ると、振り返った信ちゃんに腕を掴まれ壁に押し付けられた。

『...もー、あかん...、...キスだけは、ええやろ?』

答える間もなく塞がれた唇に目を閉じる隙も与えられないまま、信ちゃんの真っ直ぐな愛の言葉で夢心地の頭の中が更に甘く侵される。


End.