もしものはなし


『もし#name1#がデートするとして、理想のデートってどんなん?』

隆平は、もしもの話が好きだ。
最近好きな子が出来たと私に打ち明けた隆平は、私に『もしも』の質問ばかりする。

『もしも、告白するなら』
『もしも、プレゼントするなら』

今日だけでもう3個目。
私の答えは所謂“データ”なのだ。

並んで隣を歩く隆平はずっとにこやかな顔をしていて、恋を楽しんでいるのが十分すぎるほど伝わってくる。

「私は、ただブラブラして、ランチとか食べて、...それで十分」

私はこの状況を自分の理想だと言った。絶対わかってないだろうけど。
私を見ながらうんうんと頷いた隆平が、何を妄想しているのか頬を赤らめているから少し胸が痛んだ。

「でも、高級レストランじゃなきゃ嫌だとか、...そういう子もいるんじゃない?相手がどんな子か知らないけど」

ちょっと意地悪な言い方をしてしまった。だって、ずっとこんな話を聞いていたら、いい加減私だって苦しい。
ちらりと隆平を見れば、私の言葉に目を丸くしてから、すぐに口元を緩めまた顔を赤らめた。

『そんなん言いそうもない子やから、大丈夫』
「...そっか」

かっこ悪い。自分で言ってへこんでどうするの。バカみたい。
俯いていたら隆平が急に大きな声を出すから、顔を上げた。

『...あーもう。俺、こんなんで告白とか出来るんかな、』

しなくていいよ。しないでずっとこのままでいればいいのに。
デートってなんなの。私とこうして二人でいるのはデートじゃないの?隆平にその気がないから?けど私にとったら立派なデートだよ。会話の内容を除けば、の話だけれど。

「どうすればデートになるの、」
『えー?』
「...隆平、...デートして」

すごい勢いで隆平が私を見たから驚いた。と同時に、気まずさに耐えかねて隆平から視線を逸らした。

「...って、言ったらデートなのかな、って...思って、」
『...あ、...そゆこと、?』

ちらりと目を向ければ、隆平の目が落ち着きなく泳いでいたから戸惑う。
...そんなに焦らなくたっていいじゃない。ちょっと傷付く。

『...そうか、...ちゃんと言わんかったらデートちゃうんや...』

妙に納得したようにボソッと呟いた隆平が、視線を落として何やら考えを巡らせている。
本当に真剣すぎて嫌になる。真面目にデータを提供してしまう私も私だけれど。

『...#name1#はさぁ、もしも、好きじゃない奴にデートに誘われたら、...どうする?やっぱ、断る?』
「......わかんない、」

そんな答え方をしたのは初めてかもしれない。今まで何かしら答えを出していたけれど、こればかりは考えられない。いつも思い浮かべる相手は隆平だったんだから、好きじゃない人と急に言われてもわかるわけがない。

けれど、いきなりそんな答え方をしたことを変に思われないかと我に返って隆平に目をやると、何だか険しい顔で俯いていた。それを見て、私の心が伝わってしまったんじゃないかと、咄嗟にその横顔から目を逸らした。

『...今から、俺とデートしませんか!』

隆平が足を止めた瞬間に聞こえた言葉に驚いて、すぐに視線を隆平に戻して立ち止まる。じっと私を見つめる隆平が、止めていた息を吐き出すみたいに一度大きく呼吸をしてもう一度口を開いた。

『...って言うか、これ、デートにしませんか、?』

意味はわかった。けれど動揺しすぎて上手く声が出せないからただ小さく頷いた。
すると前を向いて強ばった顔のまま隆平が歩き出したから、慌てて後を追う。

『...もし、俺が#name1#のこと好きや、...とか言うたら、』

前を向いたまま隆平が言った。
はっきりと聞きたいのに、自分の心臓の音でよく聞こえない。
思わず伸ばした手は隆平の上着の裾を掴んで、隆平が振り返った。

『...もし、じゃないわ。好きや』

好きだと言いたいのに。言葉に出来ない代わりに何度も頷いた。きっと、 泣きそうな情けない顔。そんな顔のままで首をぶんぶんと振る。
隆平が笑った気がした。すぐに頭をぽんぽんと撫でられ、手を握って引かれた。

『...ランチ、間に合うかな』
「..............、」
『#name1#がしたい言うから先ブラブラしたら、ランチ間に合えへん!』
「...................ン」
『え?』
「...高級レストラン」
『んは、ええよ!』
「...うそ。...この前のスイーツバイキング」
『あ、オッケー!俺らが初めてデートしたとこな!』

好きな人のことを打ち明けられた日にされた質問を思い出していた。
二人だけで出掛けた日をデートと呼んでいいなら、今日が3回目だと考えて一人頬を緩めた。

“...#name1#ー?...もし、告白されるんやったら、何回目のデートがいい?”
“...3回目、くらい?”


End.