Capture you


『#name1#ー、ありがとうなぁ』
「........重い」
『うわ、めっちゃ抱き心地ええやん』
「........痛い、...離して、」
『あはは、照れてるん?...嫌やー離さへん』

一年前の忠義の誕生日のことは、よく覚えている。...じゃなくて、忘れられない。

忠義のバースデーパーティーに一人遅れて参加した私がプレゼントを渡すと、酔った忠義はありがとうと言ってみんなの前で私を抱き締めた。
恥ずかしくて冷たくあしらった私に動じることなくヘラヘラしながらさらっとすごい言葉を零すから、ドキドキしていた。
誰にも内緒で、忠義を思っていたから。

それから忠義は酔うといつも私を抱き締める。その度にドキドキして馬鹿みたいに期待していたけれど、その日からそれ以上進展することはない。
『酔っている時』に『みんなの前』でしか、してくれないんだから。


『#name1#も今日来るやんな?』
「...うん」
『プレゼント何?』
「買ってない」
『はぁ?なんで用意しとかへんの?今日やで?』
「お金ないから」
『ちょ、それひどない?高い物要求してへんやん!』
「うるさいよ、」
『夜までに買っといてや!』

子供みたいにムキになる忠義を見て、可愛いな、と思う。それと同時に、自分に嫌気が差す。

もう、一年が経つ。
一年も進展しないのだから、何度もこの気持ちを捨てようとした。けれどいつも、忠義の言動にいとも簡単に引き戻されて、いつまでもずるずると想いを引き摺っている。

今日こそは、と拒絶を決意しても、抱き締められてしまえばその手を振り解くことは出来ない。
半分ほどしか開いていない目で、ヘラヘラと笑いながら私を後ろから抱き締め肩に顎を乗せる。私なんて、クッションやぬいぐるみと変わらないのかもしれない。

本当は1ヶ月も前から用意していた忠義の誕生日プレゼントを、渡すことを躊躇っている。
忠義に似合いそうだと選んだ爽やかな香りの香水。私に対して何の感情も抱かない男に、自分がプレゼントしたその香りを纏って抱き締められるのかと思うと、苦しくてたまらなくなったから。
この時点で、もう既に抱き締められることを想像している自分のおめでたい頭にも、たまらなくイライラしていた。
もう、ダメだ。今日こそは。



『おめでとー!』
『ありがとぉ!』

あの時と同じ忠義の部屋で、同じメンバーで、今年も忠義の誕生日を祝う。
視線の先の忠義はハイスピードで酒をあおりながらヘラヘラしているから、何となく溜息が出た。

忠義はいつもどんな気持ちで私を抱き締めるんだろう。私がどんな気持ちで抱き締められていると思ってるんだろう。
...どうせ、何も考えていないんだろうけど。

友人たちと簡単なつまみを調理しているうちにあっちでは男性たちが手を叩きながら馬鹿笑いしている。その無邪気な忠義の笑顔を見ただけで決心が鈍りそうになってしまうからどうしようもない。

出来上がったつまみを持って、忠義たちから離れたソファーに座った。乾杯以来2杯目のビールに口を付けていると、忠義がこちらに歩いて来たから思わず身構える。
けれど忠義が座ったのは隣に座る友人の隣で、受け取ったプレゼントを手に高笑いしながら友人の頭を撫でている。

やっぱり。...きっと、私を構うのに特別な意味なんてない。忠義にとっては、抱き締めるのも頭を撫でるのも、変わらないんだ。

『#name1#ー、プレゼント!』

呼ばれてはっとした。顔を上げて目に入ったのは頭の上に置かれたままの手だった。

「...用意、してない」

目を逸らして、何でもないみたいに言って急いでビールをあおる。笑っている友人たちの中で、ただ一人、忠義がムッとした顔をしている。

『なんで用意してくれへんの!昼間言うたやん!』
「だから、お金ないの」
『ええやん!気持ちやねんから!気持ちがあれば!』

唇を尖らせてあからさまに拗ねたような態度と話し方の忠義を思わず睨んだ。
気持ちって何?気持ちがあれば?なら忠義はなんであんなことするの?
口には出せないから飲み込んで目を逸らした。

じっと私を見ていたらしい忠義が立ち上がったからドキッとした。
案の定、私の背後に来た忠義が私の背中とソファーの間に無理矢理押し入って私の肩に顎を乗せる。
いつものことだと、友人たちは私達二人の言動を気にもとめず話している。

『なぁ。なんでー?』

お腹に回った忠義の手が私の脇腹辺りを撫でたから、忠義を押し退けて立ち上がった。

「...洗い物、してなかった」

そんなんええし、と呟くように言った忠義の言葉は聞こえないふりをしてキッチンを目指した。

『あはは、忠義フラれたー』
「うるさいー!」

忠義をからかう友人たちに、少し感謝。忠義の誕生日なのに、何をしてるんだろう。嫌な気持ちにさせたかったわけではないけれど、無神経な態度がどうしても嫌だった。
...勝手に勘違いしたのは、私の方なのに。

スポンジを握っていた手が震えた。あっちで私を見ていた忠義が、こっちに来る。
何でもないふりをして洗い物をしていると、忠義が私の横に並んだ。

『...ありがとう』
「...うん」
『...どうしたん』
「...何が」
『...怒ってるんちゃう?』
「怒ってないよ。主役はあっちで飲んでたら?」
『...怒ってるやん。いつもそんなん言わんくせに』

口を噤んで手元のグラスにスポンジを滑らせていると、忠義がさっと動いて後ろからまた抱き締められた。腕はお腹に回り、首筋に顔を埋める。
私がこんなことをされていても、もう誰も驚かない。それくらい当たり前になってしまったこの行為を、ただ一人気にしているのは、私だけ。

「...離して」
『嫌や』
「グラス割れるよ」
『ええよ』
「...ほんとに、やめてってば」
『なんで?』
「...........。」
『なんで急にそんなん言うん?』
「......嫌になったから」

手を洗って、黙ったままの忠義の手を振り解くと、またすぐに腕が回る。その手を掴んで離そうとするけれど、より強く締め付けられる。

「...ちょっと、」
『...好きや、』
「..............。」
『好きやねん。...好き、ほんまに好き、』

思わず掴んでいた手を離した。縋りつくように抱き締める忠義の震えるような吐息が首筋に掛かって、どんどん鼓動が早くなる。胸が締め付けられるうに熱く苦しくなって、歯を食いしばった。

『...もう、嫌なん?...俺のこと、』

忠義の腕が離れて振り向くと、いきなりしゃがみ込んだ忠義に腕を引かれ、バランスを崩して床に尻餅をついた。
片手と膝を床に付いた忠義の唇が優しくキスを落として、キッチンカウンターに背中と頭を預けた。そのまま押し付けられるように唇を塞がれ角度を変えて何度も触れる。

周りにはみんながいるのに聞こえるのは自分の心臓の音だけで、目に入るのは、切なげに私を見つめる忠義だけ。
キスをしながらぼーっとさっきの言葉を思い出して、目頭が熱くなる。

『...好きや、』
「......遅い、」
『...そんなん言うたって、#name1#の気持ちが、...』
「言い訳とかいらない」

忠義の言葉を遮って自分から押し付けた唇に応えるように、忠義が唇を割って舌を絡める。
骨が軋む程に抱き締められて、締め付けられていた胸が甘く痺れた。


Happy birthday!!  2014.5.16