Game of love


『おん、気をつけてな』

玄関でするみんなの声を聞きながら目を閉じている。
本当に体が浮いているんじゃないかと思うくらいふわふわした感覚が心地良い。

『...お前アホなんちゃう』

目を開けてソファに座ったまま黙って亮ちゃんを見上げたら、唇を尖らせて怒っているから可愛くて笑った。
すると私の頭をぺし、と叩いて、亮ちゃんがテーブルの上の空き缶を片付け始めた。

『...何笑ろとんねん』
「...んーん」
『帰れなくなるまで飲むなや。学生やあるまいし』

亮ちゃんの家で皆で飲んでいた。
数時間前に、このまま帰れなくなったらどうなるんだろう、...と思ったのは事実だけれど、こんなに酔うつもりは本当になかった。ごもっともな言葉だけど、何回も『飲んでる?』と聞いてきて飲ませたのは亮ちゃんなのに。

けど今は上手く喋れる気がしないし、さっきの亮ちゃんみたいに唇を尖らせて抗議するような視線だけを送った。

『なんやその目』

呆れたような視線を私に向けて、亮ちゃんがキッチンへグラスを運ぶ。
その後姿を見つめてソファに頭を預けたまま再び目を閉じる。

アルコールってすごい。亮ちゃんと二人きりなのに緊張せずに居られるなんて。
けど、せっかく二人なのに瞼が重い。勿体無い。まだ寝たくないのに。

頬に冷たい感触があって目を開けると、目の前に水の入ったグラスが差し出されていた。

『飲んどかんと後でしんどいんちゃう』

ありがとうの代わりに笑顔を向ければ、亮ちゃんが溜息を一つ零して横目で私を見た。
少し起き上がって水を一口含む。

『...帰った方がよかったんちゃう』
「......追い出す気だ」
『...普通男の家に泊まらんやろ』
「...なんかする気なの?」

さらっと言ってしまった。今の自分に怖いものはない。今なら少し、探りを入れるくらいは出来るはず。

『...して欲しいん?』
「...そういうわけじゃないけど」
『けど?』

冗談みたいに言って探るつもりだったけれど、逆に探られるみたいに亮ちゃんがふざけて笑いながら聞くからペースを乱される。
...まさか、私の気持ちに気付いてるなんてこと、ないよね。
落ち着かなくてグラスに口をつけてチビチビと水を啜る。

「...なに」
『ああ、...襲われたいんや?』
「...襲いたいんだ?」
『......お前さぁ、それ』
「...別に、...いいよ。襲っても」

上手く演技は出来たはずだ。笑ったまま冗談みたいに、何でもないみたいに、凄いことを言った。

亮ちゃんがこっちを見たと思ったら軽く頭を叩かれ、くわえていたグラスの端から水が滴り落ちた。

『零すなや』
「亮ちゃんが叩いたからでしょ!」
『人のせいにすんなや!』
「...ティッシュください、」

グラスをテーブルに置こうと手を伸ばすと亮ちゃんにグラスを奪われ、ゴト、と少し乱暴に音を立ててグラスが置かれた。ティッシュを数枚取って振り向いた亮ちゃんの膝がソファに乗り上げ、私の顔の横に手が付かれたからドキリとする。私が受け取るはずのティッシュは、視界の端でひらりとソファーに落ちた。

『本気にすんで』
「...え、」
『...勢いやった、とか、やめてや?』

ティッシュに気を取られていたら、いきなり顔が近づいて濡れた口元に舌が這わされ、そのまま噛み付くように唇が合わさった。ソファーに付かれていた亮ちゃんの片手が私の首元へ落ちて、手が這わされる。
自分で望んだことだけれど、心臓が破裂しそうなほど大きく脈打って唇が震えた。

『...ああいうことはな、覚悟決めてから言わなあかんねんで。...もう、遅いけどな』

すぐに息も出来ない程のキスで塞がれた。夢なんじゃないかと思う程ふわふわしている。けれど、私を抱き締める腕が強くて、頭の片隅の冷静な部分が徐々に広がり覚醒し始めた。

「...最初から、してたよ。...覚悟」

絞り出した声が震えた。亮ちゃんの手にますます力が込められて真っ直ぐに見つめられる。亮ちゃんが目の前で安堵のような溜息を落とし、愛の言葉と共にキスが降って来た。


End.