up to me


昨日の帰りに忠義を見掛けた。
今廊下で一緒に居るあの子と、デートしてた。
もうそんなのは慣れっこ。そんなことでいちいち胸を痛めてたら潰れてしまうから、考えない。どうせ私は幼馴染みでしかないのだから。だったら、このポジションを守ることだけ考えよう。いつまでも傍に居られるように。

『#name1#ー!ちょっ、待ってぇ』

校舎を出たところで後ろから呼び止められたから驚いた。振り返るとふらつきながら靴を履いている忠義が、こちらに手を伸ばして静止を促している。

当たり前のように私の隣に並んだ忠義が一緒に歩き出した。
一緒に帰ろう、なんて言葉はない。そのくらい普通になっている。
けれど、他の女の子と帰る時だって、私には何も言わない。
だから毎日、気にしなければいけない。忠義が誰と帰るのかを、知りたくないことまで知らなくてはいけない。
...なんて、私が気にしているだけなんだけれど。

『なぁなぁ、昨日な、出たばっかのアレ!買うてん!』
「...全くわからない」
『アレやん!#name1#が見たい言うてたやつ!』
「...なんだろ」
『ほら!...なんやったっけ?んは、忘れてもうたー』
「.............。」

女の子とデートしながら私のことを考えて、その何かを買って来てくれたんだ。...複雑。だけど、嬉しい。少しでも忠義の頭の中に浮かぶ瞬間があるということだから、嬉しくないわけがない。

「...で、それって、なんなの?」
『DVDやで』
「...最初からそう言えばいいのに...。タイトルなんて後でいいじゃん、」

その話なら映画が公開されていた何ヶ月も前にした話で、覚えていてくれたのが嬉しくて、何だか恥ずかしくて、可愛くない言い方をしてしまった。

『あっはっは、ほんまやな!まぁええやん。今日見よ!俺ん家で』

こんな風に誘われるのは久し振りな気がする。最近はほとんど家を行き来することなんてなくなっていたから。
けれど、一つ気になっていることがある。

「...昨日デートしてたのって、彼女、?」
『えー?違うで。...その前にデートちゃうし』
「...それ、あの子の前で言える?」
『言えるやろー』
「...デートだと思ってると思うなぁ、」
『デートかそうやないかは俺が決めるから!』

そんな言い方、と思ったけれど、彼女じゃなかったことに安堵しているのは確かだ。

意識しているのが自分だけだと思うと恥ずかしい。一緒に居たいけれど、二人で居たいけれど、忠義にドキドキするのが嫌で、あまり部屋には行かないようにしていた。
私の気持ちに気付かれてしまいそうだから。

忠義の部屋で、定位置でもあるベッドの下でベッドにもたれて座った。すぐにDVDを再生した忠義が、着替えもしないまま私の横に腰を下ろす。

...近い。というか、ベッドの上に乗せられた忠義の手が、私の肩の後ろの方に置かれているから緊張してしょうがない。
画面に映る二人の男女が手を繋いだ瞬間、髪に違和感を感じて更に心臓が忙しなくビートを刻む。

『#name1#の髪むっちゃツルツル!ええ匂いすんねんけどー』

忠義の方へゆっくり顔を向ければ、私の髪をくるくると指に巻き付け笑っている。

「...変態 」
『変態て!めっちゃひどい!』

照れ隠しの言葉にしては言い過ぎたかな、と少し後悔が過ぎったところに忠義の携帯が鳴った。
ちょっとごめん、と言って通話ボタンを押すと、錦戸くんらしき人の声が漏れている。

 “出て来れへんのー?”
『 えー、今?今な、#name1#とおうちデートやから行かれへん』
 “は?いつの間にそんな関係なったん!”
『亮ちゃんうるさいー。邪魔せんといて』
 “ちょ、”
『ばいばーい』

呆気に取られて口を開けたまま忠義を見つめていた。ゆっくり理解し始めると、次第に顔に熱が集まってきた。
目が合うと忠義が笑ってテレビの画面に目を向ける。

「...デート?」
『立派なデートやろ』
「...いつもと同じじゃない、」
『俺がデート言うたらデート!』
「...昨日のは違うのに、...これはデートなの、?」

さっきまで笑っていた忠義がもう一度私を見た時には笑顔はもうなくて、少しだけ眉を下げて言った。

『...やって#name1#、こんだけ言わんと、俺の事意識してくれへんもん』

あまりにも信じ難いことを口にするから、忠義から目が離せない。その間に肩に回った忠義の手が少し私を引き寄せて顔が近付いたから、驚いてびくっと揺れた。

『...少しは意識、した?』

慌てて一度頷くと、忠義が笑って私から離れる。

『ほんなら今日は許したろ』

すぐにいつもみたいな明るい声に戻って『続き、見よ』と言った忠義は、あまりにも普通で少し苛立った。

「...いつも、意識してるのに、...」

すぐに忠義が無表情のまま私を見た。恥ずかしいから目は合わせないまま、忠義と同じように「さ、続き...」と何でもない振りでテレビに向き直った。バクバクする心臓のせいで、少し呼吸が荒いけれど。

『...マジでか...』

小さく呟かれた声に反応して横目で忠義を見た瞬間、忠義の手が私の腕を掴んだ。

『...やっぱり許さへん』

肩を抱かれてさっきよりも強く引き寄せられ始まった性急なキスに、胸が高鳴り想いが溢れて息をするのも忘れるほど長いキスに溺れた。


End.