インビンシブル
街のイルミネーションに比べたら、地味な部屋。飾りだって少ないし、チキンはもう骨だけ。みんなでつついたケーキはぐちゃぐちゃのまま放置されて、今テーブルの上にあるのは焼酎の瓶。クリスマスらしさはもうほとんど残っていない。
そんな部屋でも、サンタの帽子をかぶって笑う章大がいるだけで、十分満足していた。今日はみんなで泊りだし、一晩中章大と居られる。
『#name1#ー!飲んでるぅ?』
「飲んでるよー」
『テンション低いやんかぁー』
「章大が高すぎるんだよ、」
どことなく疲れた顔をしていたから、アルコールが回るのが早かったのかもしれない。普段より一層テンションの高い章大が、持っていたグラスのドリンクを煽り私が座る一人掛けのソファーに無理矢理腰を下ろす。お尻から腰に掛けて密着した状態でもニコニコと笑っている章大の方は向けずに前を向いていると、章大が私の肩に顎を乗せる。
「...なーに」
『今日、なんか可愛いな』
「...そう、?」
『いつもとちゃうやん。メイクかなぁ?』
些細な変化に気付いてくれたのが嬉しい。雑誌に載っていたクリスマスっぽいメイクとやらを、ちょっと意識してみた。いつもと少し、色使いも変えて。張り切っていると思われたら恥ずかしいから、大分控えめにしたつもりだったのに。
「...すごいね、章大、」
至近距離で見つめられて褒められて。とにかく照れくさくていつもより素っ気なく返したけれど、章大は顔を乗せたまま私の耳元でふふふ、と笑った。
乗っていた顎が離れたと思ったら今度は頭が乗せられて、章大が小さく呟いた。
『...あー、あかん...めぇっちゃ眠いー...』
「...ベッド借りなよ、」
『...少しだけ、』
少しだけってなんだろう。このまま寝させておけばいいんだろうか。
覗き込むように見れば、章大の瞼も睫毛もピクリとも動かないから、本当にもう夢の中なのかもしれない。
無駄に鼓動が早くなったことに自分で焦っている。酔っ払いにドキドキさせられるなんてなんか悔しい。でもやっぱり普段は出来ないから、今この状況を利用して暫く章大を独り占め出来ると思うと嬉しくてたまらなかった。
少ししたら章大の頭が前にズルズルと下がって来たから、慌てて頭を押さえ声を掛けた。
それでも何も言わないから深い眠りに就いているのかもしれない。このまま頭を押さえているわけにはいかないから、ぎゅうぎゅうに座っていたソファーから腰を上げて背もたれに章大をもたれさせる。幸せそうに眠る章大を見つめてからみんなのいるテーブルへ戻った。
『着替え貸すよー』
『毛布もう一枚あるー?』
『こっち余ってる!』
就寝に向けてみんなが動き出す中、あれから眠ったままの章大に毛布を掛ける。
ふかふかのラグの上に転がるみんなは、修学旅行みたいだとはしゃぎながら話している。
もうすでに寝息も聞こえている。
真っ暗になった部屋の中で起きているメンバーだけで話していたけれど、だんだんとその人数も減っていく。
暫くして、部屋が一気に静かになった。章大の寝顔を盗み見て、重くなってきた瞼に逆らわず目を閉じた。幸せな夢、見れそう。
ふと目を開けたら目の前に章大の寝顔があって驚いた。しかも、...両手を握られている。
状況を把握しようと、目だけをキョロキョロと動かす。部屋の端で壁側を向いている私と壁の間に入った章大は、私の毛布に一緒に入って寝ている。
なんで。どうして。
緊張で荒くなる息を押さえるように毛布に口元を埋めると、章大の瞼がぴくりと動いたから息を飲む。
そろりと開いた片目が私を伺うように見てから、すぐに両目をパチリと開けて章大が笑った。
『なんや、起きてるやん』
吐息で囁かれて鼓動が早くなる。こんな静かな部屋では、心臓の音が聞こえてもおかしくない。
「...なにしてるの、?」
『別に?』
別にってなんだろう。章大は握った私の手の指を弄んで笑っている。
『やって、寒いねんもん』
そんなことを言いながら摺り寄ってきた章大からは、結構なアルコールの香り。まだ完全に酔いは醒めていないみたいだ。
動揺する私を余所に、私の手から離れた章大の手が背中に回ったから、慌てて章大の肩に手を伸ばした。
「...ちょ、っ」
『何?』
「待って、」
『#name1#うるさい』
「でも」
言葉を遮るようにキスで塞がれた。私の頭を引き寄せる手にしっかりと押さえられて、唇を割り舌が侵入する。行動のわりに強引ではなく、優しく絡め取られて愛撫するように弄ばれる。
どうしよう、幸せ。
ドキドキして手が震えるから、章大のパーカーを握り締める。
唇が離れると、章大が余裕たっぷりに見える笑顔で笑った。緊張しているのは私だけかもしれない。心まで弄ばれているみたいで、章大から目を逸らした。
『...ドキドキするな』
そのまま毛布を頭の上まで被せられ、ますますきつく抱き締められた。くっついた胸から、言葉通りの章大の早すぎるくらいの鼓動を感じて胸が高鳴る。
『...#name1#、?』
「...なに、?」
毛布の暗闇の中で、囁くような小さな声が優しく私を呼ぶ。
『...#name1#、好き』
苦しいくらいに抱き締められたその耳元に掛かる震えるような吐息から、章大の想いが伝わった。
「...先に言ってよ、」
『...やって、#name1#騒ぐんやもん、』
「...だからって、」
真っ暗な中で温かい手に頬を包まれ、弧を描いた章大の唇へと導かれた。再び触れた唇は、甘く啄むように何度も重なる。
いきなり舌を捩じ込まれて始まった深く激しいキスに僅かに声が漏れた。
章大が私の上に来て開いた毛布の隙間から、差した灯りが章大の笑顔を照らした。
『何それ。完全に誘ってるやん』
「...ちがうよ、っ」
『...シたくなっちゃった』
「え!」
『...うるさい言うてるやん』
すぐにまた声さえも飲み込む程に深く口付けられて塞がれた。
逃がさないとでも言うように顔の横に付かれた肘と、体を這う章大の手。追い掛けては絡められる舌に翻弄されて、章大を求めてしまいそうなその心を必死に隠した。
End.