※attention※
某ドラマのパロディ、呪い呪われ関係なしの世界です。
このお話は3次元の方々のあくまでそっくりさんを取り扱っております。実際の団体や個人名とは一切関係ありません。完全に管理人の自己満足話ですので、読む方は注意して下さい。また、誹謗中傷は受け付けておりません。
某ドラマの機捜隊員や法医解剖医など出ます。

なんでもOK〜という方はスクロールして下さい。
















 じゃあ明日このカフェで待ち合わせね。そう言って私の貴重な休みを奪い取った男は、待ち合わせの10分前には既にテラス席に居た。この前夏油さんが彼はいつも数分の遅刻をすると言っていたので、腕時計を何度か確認したが予定よりも早い事に間違いはないみたいだ。
 近付いていくと彼の容姿が目立つ事に一層気付かされる。体の殆どを占める長い脚を組み、サングラスをかけた小顔の白髪男に周りの客は勿論、通り過ぎる人達までもが彼を見ていた。
 ーー嫌だなあそこに行くの。ナマエは自身も注目を浴びる容姿をしているにも関わらず、五条を見て足取りが重くなった。


「あ、ナマエさーん」

 こっちこっちと立ち上がった長身白髪サングラス男に周りの視線が一気にこちらに向くのを感じる。やめて、こっち見ないで手を振らないで。
 知らない人のふりをしたかったがどうやら無理なようで、視線を感じながらやっとの思いで五条の正面へと座った。
 直ぐにラミネートされたメニュー表を広げた彼は、うきうきという効果音がつきそうなくらい楽しそうに尋ねてきた。なんかもう、疲れたかもしれない。


「ナマエさん何にします?コーヒー?」
「うん、何でもいいです」
「ちゃんと決めてよ」
「アールグレイで」
「紅茶かよ」


 文句を言いながらも楽しそうな五条は軽く手をあげて店員を呼んだ。


 注文の後、先に運ばれてきたコーヒーに恐ろしい量の砂糖を入れる五条にドン引いているとそれに気付いたのか、ああ、と言いながら笑った。

「僕、甘いもの好きなんだ」
「ほら、仕事で頭使うでしょ、それで糖分を欲してたらいつの間にか好きになっちゃってたんだよねえ」
「ナマエさんは甘い物好き?僕のおすすめはね、仙台のーーー」


 へえ、この人自分のこと僕って言うんだ。少し意外。今まで気にも留めなかったどうでもいいような事が気になって、目の前で五条悟が身振り手振りを交えて話をしているのに全く耳に入っていなかった。

「ーーねえ、聞いてます?」

 何故か少しもかさついていない唇を尖らせた彼は私が一切話を聞いていないのが分かったのか、少し不機嫌そうにしていた。

「聞いてません」

 寧ろこちらが聞きたい、どうしてこんなにも付き纏ってくるのか。警察だって暇ではないだろうに、彼は休みの度に連絡をしてきてはこうやって会う予定を取り付けるのだ。しつこさに負けて、のこのこ会ってしまう私も如何なものか。


「前、ナマエさん言ってたでしょ」

 聞いていないと言う私の冷たい返答を気にすることなく(少しは気にして欲しい)、彼は飽きずにまた口を開いた。


「もう、特別な人を作る気はないって」


 紡がれた言葉に首を傾げる。そんな事この男に言ったつもりは…あるか。あるな、言ったな。
 どうしてそんな事覚えているんだ、と目の前の男を睨んだ私は、次の言葉にひゅっと息を飲んだ。


「僕、ナマエさんの特別になりたい」


「…は?」


 サングラスの奥に光る青色は柔らかく私を捉えていて、どこか甘さも含んでいるように見えてしまった。何か勘違いしてしまいそうなくらい。


「ダメ?」

 ダメ?ってなにそれ。何故30近い男が首を傾げても気持ち悪くならないのか。寧ろ女子たちが喜びそうなくらいの可愛さがあるのは何故なのか。


「お待たせしました」

 どう返答したらいいか分からず唇を結んでいると良いのか悪いのかーー少なくとも私にとっては最高のタイミングで店員がパンケーキを運んできた。たっぷりの生クリームとフルーツが乗ったそれは言わずもがな五条が頼んだ物だ。しかし店員は迷うことなく私の目の前にパンケーキを置いたので、無言で五条の方へと押しやった。





「食べます?」
「ううん、いいです」

 ーーもしかしなくてもこの男、スイーツ男子か。ぱくぱくと薄い唇が開いて閉じて、何枚もあるパンケーキを咀嚼していた。みているこっちがお腹いっぱいになる量だった。
 食べてる時は無言になるんだな。サングラスの下に見える白く縁取られた青い瞳、筋の通った小さい鼻と形のいい薄い唇。どこをとっても嫌味なくらい良いパーツを持った顔だ。無言で食べる彼を観察しながら、ティーカップを口につけた。私も何か、頼めば良かったかもしれない。


「ほんとに要らない?」

 最後の一口をフォークに刺して尋ねた彼に首を振った。食べるのが早い。警察の人は早食いだって聞いた事があるけど、本当にその通りなのかもしれないと思った。


△▼△


「これ、なんだか分かりますか」

 突然そう言ってパンケーキを食べ終えた僕の前にナマエさんは右手を広げて出した。細長い指が5本。首を傾げた僕にナマエさんは表情を崩す事なく続けた。

「今まで付き合った人の数です」

 5人。多いのか少ないのか自分には分からなかったし、どうしてこんな話を突然するのかも分からなかった。ただナマエさんが自分からこういった類の話題を出す事は今まで無かったので、黙って聞く事にした。

「じゃあ今度はこれ」

 次は左手を広げて出した。分かりますかと聞かれて悩むフリをする。多分彼女は僕の返事を待つより先に口を開くだろう、そんな気がした。


「私がフラれた人の数です」
「5人中5人。皆同じような事言うんです。なんだか分かる?」

 そう言って彼女はティーカップに入った紅茶をこくりと飲んだ。
 正直ナマエさんはフラれるより振る方の人間だと思っていたので驚いたが、直後なぜこの女がフラれるんだと男たちの見る目のなさにも驚いた。「うーん、僕はナマエさんを振る理由が見つからないからなあ」そう答えると、彼女はカップに付けていた唇を離してから投げやりに言葉を吐いた。


「君は僕がいなくても生きていけるでしょ?って。男よりも学業優先仕事優先。セックスするより解剖する方が好きなんだろと言われたこともあります」

「そうなの?」
「そんなわけないでしょ」
「よかった」

 「面倒なんです」と彼女は続けた。そうなんだろうなと思った。だからこうして、好意を向ける僕に対して牽制している。ただ、遠回しに私は恋愛に向いてません、あなたの気持ちに応えることはできません、とそんな風に言われても、自他共に認める性格の悪さを持った僕は「はいそうですか」と引き下がるのなんて有り得ないし、ましてや今まで彼女が付き合ってきた男と一緒にされるのも有り得なかった。どうしてこの人は、ひとりで居ようとするんだろうか。


「僕は、ナマエさんが疲れた時に会いたいなーって思われたいし、美味しいもの食べてる時にコレ一緒に食べたいなーって思われたいし、何かあった時に1番に僕の顔が浮かんでくるような存在になりたい」

「…なに、突然、」

「1人で生きていけそうって思われる人ほど、1人で生きていかなきゃって呪いがかけられてるから、色んなものを自分だけで背負いすぎて歩けないくらいになってると思うんだよね。だから、背負ってる物を分けてもらえる存在になりたいって話」

「そんな話をしてるんじゃ、」

「そんな話をして牽制したって無駄だよ。僕はナマエさんを諦めないし、ナマエさんを1人にさせたくない」

 そう言うと彼女はどうしてそこまで、と呟き困ったように眉を下げた。初めて見る表情だった。


「今日はもう、帰りましょうか」

 これ以上話すと彼女にまるごと拒絶されそうで、それだけは避けたかったので席を立つ。ナマエさんは少し遅れて反応してから立ち上がった。珍しく余裕が無さそうに視線を彷徨わせ、唇を固く結んでいた。
 困らせてしまったと思うが、むしろそれでいいと思っていた。扉を閉ざしてしまっている彼女が僕を見てくれるなら。




title by alkalism
Oyasumi
eyes