※attention※
某ドラマのパロディ、呪い呪われ関係なしの世界です。
このお話は3次元の方々のあくまでそっくりさんを取り扱っております。実際の団体や個人名とは一切関係ありません。完全に管理人の自己満足話ですので、読む方は注意して下さい。また、誹謗中傷は受け付けておりません。
某ドラマの機捜隊員や法医解剖医など出ます。

なんでもOK〜という方はスクロールして下さい。





















 最近、いやに視線を感じる。ラボから出る時、最寄りの駅の改札を出る時、住んでいるマンションまでの帰り道。初めは気の所為だと思っていたが、2週間以上この状態が続くとどうも私の勘違いではないらしいと不安を覚える。警察に言ったほうがいいのか、いやしかし聞くところによるとなかなか動いてくれないとも言うし…。どうしたものかと悩んでいると、ここのところ何かと会う約束を取り付けてきていたチンピラ刑事の顔が頭に浮かんだ。そういえば、この間カフェに行ったあとから直接会っていない。というより、連絡すら来ていない事に気がついた。携帯のロックを解除し、SNSを開く。最後に会話したのは1週間ほど前だった。画面に映る"五条悟"という文字を見つめていると、沸々と怒りが湧いてきた。

 なんなんだ、あの男は。私の特別になりたいだとか、随分な事を言った割にそれから連絡のれの字も寄越さないではないか。いや別に、して欲しいわけじゃないけれど、決して。
 行き場のない怒りを溜め息と共に吐き出す。何か大きな事件でも入っているのだろう、そもそも今までが頻繁に会いすぎだったように思う。別に付き合っている訳でもないのに。
 なんとなく、五条に言うのは癪にさわってロックを解除した携帯を再びポケットへと仕舞った。

 まあ、こちらから刺激を与えなければ何もしてこないだろう。そんな、甘い考えでいた。






「え、それやばくない?」

 無事に業務が終わり、ロッカーで化粧ポーチを手にした東海林が言った。今日も異性間交流会という名の合コンに行くみたいだ。

「でも気の所為かもしれないし。何もしてこないし」
 よくあるじゃん、ポストに自分の写真が入ってるとか、いつも君を見てるよーっていう手紙が入ってるとか。そういう類のものは一切ないのだ。

「いやいや、今のところ、でしょ。何してくるか分かんないよ」
「警察に言った方がいいんじゃない?直ぐには動いてくれなそうだけど」
「あ、ていうか五条さんに言えばいいじゃん。ナマエの事大好きだし」
「確かに。早めに相談した方がいいよ」

 今日一緒に帰ろうか?とミコトが提案してくれたが断り、ラボを出る。女2人だからといって安心できる訳じゃないし、ターゲットをミコトに変えられてしまったら厄介だ。そんなことになったら申し訳なさで死んでしまう。

 私が大好きということは置いておいて、やはり連絡した方がいいのだろうか。あんな見た目と性格をしているが、曲がりなりにも刑事だ。何かしらの対策をとってくれるかもしれない。

 …でもなあ。何となく自分から五条とコンタクトを取るのは気が引けてしまい、最寄りの駅へと向かった。



 改札を抜けて、駅の通りから一本入った暗い道を歩く。駅の賑わいとは打って変わって住宅が並ぶこの辺りは静かだ。ミコトの物とよく似た黒のショートブーツが立てる音が響く。

 私のブーツの音だけがしているはずだった。しかしコツコツと鳴る音に加えてスニーカーが擦れるような音が聞こえてくる。目視していないから分からないけど、多分近い。

「(…嘘でしょ)」

 まさかね、まさか。そんな筈ない。頭の中で浮かんだひとつの可能性を直ぐに否定する。だって、今までそんな、こんなに近くで追いかけてくるような事はしてこなかったじゃない。

 焦る気持ちが足へと移って、歩くスピードが少しずつ上がっていく。それに合わせるように、後ろの足音も速くなる。どうしようか、走るか?何で私、ヒールのある靴なんて履いてきちゃったんだろ。

 よし、と息を吸ってから走り出した。後ろの音は勿論付いてきた。息が上がっていくのと同時に段々と恐怖で体が震えてきて、うまく足が回らなくなってくる。

 やばいやばい、どうしよう。それしか考えられなくなって、夢中で走った。どこかで隠れられないか、そう思いながら足を動かす。曲がり角を過ぎて、丁度死角になりそうな陰に隠れた。息が上がっているのと、恐怖とで心臓が飛び出てきそうなくらい脈打っている。


「はあ、っ…は、」


 息を潜めて、ポケットから携帯を取り出した。震える手でタップして連絡先のページから迷わずにボタンを押し、祈るような気持ちで耳を澄ませる。


 3コール。無機質な音が響いたあと場違いに明るい声とともに、ある男が私の名前を呼んだ。ああ良かった、出てくれた。


「た、助けて…っ、」



△▼△


 19時を過ぎた西武蔵野市の中を機捜車が走る。今日の402は3機捜のヘルプで西武蔵野署管内を重点密行中である。これといって何かが起こるわけでもなく、ただ只管に管内を巡回していく。休憩を終えて再び車に乗り込んだ夏油と五条だが、ハンドルを握ったのは夏油だった。
 仕事を終えた人々が帰路に着く市内は若干人通りが多い。隣の五条は西武蔵野署管内ということもあり、行く人来る人に目を凝らしていた。十中八九、ミョウジナマエを探しているんだろう。しかしそんなタイミング良く彼女が現れる筈もなく、五条はサングラスを外し目頭をグッと抑える仕草をした。

「あーー。早く終わらないかな」
「まだ半分だよ」
「最近の忙しさは何?全然ナマエさんに会えてないんだけど」
「連絡すればいいだろう。会えなくても電話くらいできる」
「んーそうなんだけど」

 五条にしては珍しく歯切れの悪い返答だった。ナマエとの間に何かあったのかは知らないが、この男にも遠慮することがあるのかと夏油は密かに驚いた。

 携帯を取り出しうんうん唸り始めた五条のそれが大きな音をたてた。着信の音だ。ぴくりと肩を揺らした五条が、あ!と嬉しさを含んだ声を上げる。

「見て傑!ナマエさん!」

 サングラスをしていても分かるくらい目を輝かせた男が手に持つ携帯の画面には確かに「ミョウジナマエ」の文字が並んでいた。テレパシー?と浮き足立つ親友に「良かったな早く出てやれ」と冷たい視線を送る。

「もしもし、ナマエさん?」

 弾むのを抑えきれない声を聞きながら、時計を見る。大体の人間は仕事が終わった時間帯だ。仕事終わりに電話をかけてくるなんて、何だかんだであの法医解剖医も悟の事が好きなのでは?と思った時だった。


「ナマエさん?どうしたの、」

 一転して声のトーンが下がった五条に首を傾げる。何やら様子がおかしい。運転しながらチラリと横を見ると、五条は携帯を耳に当てたまま固まっていた。

「悟?どうかーーー」
「傑!!次の信号、左!」



△▼△

 ズキズキと響く頭の痛みで意識が浮上した。目を開けて周りを見ると暗い倉庫のようだった。埃っぽさに混じってガソリンの臭いが鼻につく。車の修理工場か何かだろうか。私を襲ってきた男の姿は見当たらなかった。

 ーーあのクソ男、思い切り殴りやがった。
 額に流れる血らしきものを拭おうとした時、両手が拘束されている事に今更気がつく。
 やばいなあ。やっぱり早めに相談するべきだったか、まさかこんな大胆な事をしてくるとは思わなかったな。縛られたままの手で辺りを探るが、目当てのものは無い。落としてきたな、携帯。

 はあ、と息をついて目を閉じた。浮かんでくるのは直前に助けをよんだ男の事だった。

 来れるわけないよな…場所言ってないし、そもそもここが何処か私が分からない。やはり自分でなんとかするしかない。想像よりも落ち着いている頭で逃げ出すための何か手掛かりを探そうと、周りをもう一度見渡すが、目に付くのは車から外されたタイヤやジャッキ、ドライバーなど修理で使うものばかりだった。


 はあ、と溜息をついた時、ガシャン、と目の前のシャッターが開く音がしたので視線をそちらに向ける。暗がりでうまく確認できないが、男がひとり、立っている。私を追い回した奴だろう。


「起きたんだね。おはよう、気分はどうかな」

 …頭思いっきりぶん殴っておいて、気分はどうかなじゃないかだろう。ダメだこいつ。
 ナイロンの袋を下げた細身の男が入ってくる。先程と違ってマスクを口元まで下ろしているが、やはり見覚えの無い顔だった。

 埃っぽいコンクリートの地面にスニーカーの擦れる音が鈍く響く。

「ごめんね、殴るつもりは無かったんだ」
「でも、君が」
「君が逃げるから」


 近づく男は正直何を言っているか意味が分からなかった。ただ薄暗い倉庫の中で黒く濁った瞳だけは嫌に光って見えた。その光と、いつかのカフェで見た青く透き通った光を比べてしまう。私を真っ直ぐに見つめる綺麗な空が、今になって胸を締め付けるように輝いて、脳裏から離れなくなった。


「ご、じょうさん」


 無意識に溢れ出た名前を男が拾った瞬間、彼の顔は真っ赤に染まった。怒りか、それとも他の何か。


「それ、最近一緒に出掛けてる男?」

 男がまた一歩、距離を詰めて私の目の前へ顔を寄せ、頭をねっとりと撫でたと思った途端、そのまま髪を思い切り掴んで私の頭を地面へと押さえつけた。

「…ひっ、」

 ごちん、と固い床に頭がぶつかる。すぐに身体ごと上を向かされて男の手が身体中を這う。服は破られて、ボタンもどこかへ飛んでいく音がした。嫌だ、こんな奴に。必死で抵抗するが、今度はそれが暴力へと変わった。殴られ、思い切り脚で蹴られ、段々と上手く力が入らなくなってくる。身体の芯から一気に冷えていくような感覚がした。その間ずっと馬乗りになっている男からは「なんで、」「どうして」「僕が1番だろう」と訳のわからないことをぼそぼそと呟く声が降り注いでいた。


「う、」


 冷たくて埃っぽい床に頬を付けて、脳裏に浮かんだのは私が今まで見てきたご遺体だった。何度も殴られた痕、治る前に付けられる新しい傷、歪んだままの表情。このまま死んだら私がそうなるんだな、とうまく酸素の回らない頭でぼんやり思った。

 ーー電話なんて、かけるんじゃなかった。きっとあの男は助けられなかった事を自分の所為にしてしまいそうだ。
 嗚呼でも、認めたくないけど、あの嬉しそうな声が聞けて良かったかもしれない。

 もう一度伸びてきた男の手に思い切り噛みついた。私の口内にこいつの血でも皮膚でも、何でもいい。DNAが付けばいい。もしこの男に前科があればそこから犯人が割り出せる。あとはラボの皆に任せればいい。ざまあみろ、今の解剖の精度を舐めるなよ。
 私の突然の行動に更にヒートアップした男が、近くにあったスパナを手に持ち振り上げた時、ガシャンと大きな音がしてシャッターが勢いよく上がった。

「…オイ、てめェ…ふざけんなよ」


 地を這うような低く温度の無い声が響く。私の聞き覚えのある声はもう少し明るく軽薄さを含んでいたが、間違いなく私が電話をした相手だった。

 五条が来た安心感でそこからは殆ど覚えていない。ただ、今度は五条が男に馬乗りになりボコボコにぶん殴っている音や「ごめんなさい」と泣き叫ぶような声はぼんやりと聞こえていた。




「遅くなってすみません」

 力尽きて横たわっている私の拘束を取ってくれた夏油が、未だに殴り続ける五条に駆け寄りその手を押さえつけた。

「悟、…悟!もうやめろ、本当に殺してどうする」
「離せよ馬鹿、コイツ…殺さないと気が済まねェ」


 とても警察官とは思えない発言と行動をする五条に夏油は押さえた手を離さないまま、こちらを見た。

「まず彼女の所に行くべきだろう」

 彼の言葉を耳にして、殴りかかろうとしていた拳をぴたりと止め弾かれたように立ち上がった五条は、上体を起こした私の元へ走り、今まで人を殺しかけた警官とは思えない程ぐしゃりと情けなく顔を歪めた。


「ごめん…」

 ふわりと頭を撫でた後、ボロボロの身体が痛まないようにと優しく抱きしめた五条は泣きそうな声をしていた。

「あ、りがとう」

 どうして貴方が謝るの、とかあれは殴り過ぎだ、とか言いたい事は沢山あったけれど、まず私を見つけてくれたことに精一杯の気持ちを込めて声に出す。
 想像よりも遥かに温かくて優しい腕に包まれて、遅れてやってきた恐怖と安堵に視界が歪んでいった。溢れて止まらなくなってしまった涙を五条の肩に押し付ける。しゃくり上げるように涙を流す私に五条はゆっくりと背中を摩ってくれた。

「もっと俺を頼ってよ…」

 いつもの余裕が何処かへ行ったらしく、縋るように出された声に、また視界がじわりと滲んだ。






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