※少し前、かなり捏造

「やっほ〜お菓子持ってきたよ」

 少し前に突然現れた白髪の長身男は、その頭とは真逆の黒い服に身を包んでいる。こうせん、という所にいるらしい。この五条悟という男は、気まぐれに俺たちのアパートに来ては高そうなお菓子を一緒に食べていく。津美紀は喜んで食べているが、俺は甘いものが余り好きじゃない。正直、五条が持ってくるお菓子よりも、もう一人、何度も足を運んで作り置きまでしてくれる人の料理の方が好きだった。






「恵〜津美紀〜、いる??」
「あれ、ナマエも来たの」
「げ、悟も居るじゃん」
「げ、って何だよ彼氏様に向かって」
「悟もご飯食べるなら買ってきた食材足りないな、って思ったの」

 ガチャリとアパートのドアをピンポンも押さずに開けた人は、五条と同じく真っ黒な服を着ている。五条と違うのは、手にしているのがお菓子の箱ではなくスーパーのレジ袋という点だ。入ってくるなりテンポよく会話が飛び交う。ここで二人が偶に一緒になる時のいつもの光景だ。

「ナマエさん」
「恵、久しぶり。この前冷蔵庫入れといたやつ食べた?」
「うん、美味しかった」
「良かった」

 そう言って頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でたナマエさんは、五条悟と同じ呪術師だ。すらりとした身長に整った顔立ち、見た目は五条とお似合いと言えるかもしれないが、常識人である彼女と破天荒な型破りサングラス男はとても釣り合っているとは思えなかった。まだ小さな恵ですら、この二人が何故付き合っているのか理解できないままでいる。


「ナマエさん今日も作ってくれるの?」
「うん、この前津美紀が食べたいって言ってたやつ、作るよ」
「ほんと?やったあ、私も手伝う」
「お、じゃあこれ洗ってくれる?」


 きっと俺と同じくらい懐いているであろう津美紀がナマエさんの周りをちょこまか動いている。ナマエさんとは髪の色が全く違うので似ていないが、並んで台所に立つ後ろ姿を見ていると親子みたいだと感じた。
 隣からふふ、という鼻から抜けるような笑い声が聞こえたので視線を向けると、机に手をついて顎をそこに乗せている五条が二人を見て、その、今まで見た事もないような、優しい顔で笑っていた。この人、こんな顔するのか。少し驚いた表情で見ていると、それに気付いた五条が首を傾げた。

「…何か顔に付いてる?」
「え?いや、なんか…優しい顔してたから」
「ああ、」

 そう言ってまた二人に視線を向けた五条は、「親子みたいだなあって思ったの」と今度はふにゃりと破顔させた。同じ事を思った、とは口にはしなかった。その代わり、小さく頷いた。母親がいたら、こんな感じなんだろうか。…となると父親はこいつか?それは何というか物凄く…嫌だな。感謝はしてるけど、家族にはなりたくないな。ふるふる、と首を振った恵に疑問符を浮かべながら、五条はまた一口、自分が持ってきたロールケーキに手をつけた。


「ていうかナマエと僕の子供、絶対可愛いと思わない???ね?そう思うよね恵??」
「知らない」
「えーー冷たいなァ、絶対天使が産まれてくるよ」

 顔は天使でも性格がこんなんだったら最悪だ。言葉にはせず腹の中で考えた後、机の上を綺麗にしていつ料理が出来上がっても食べれるようにと片付け始めた。

「ほら、馬鹿言ってないで悟も恵の事手伝って」
「ええ…ナマエまでそんなこと言う?自分の事だよ?」
「はいはい天使だね天使が産まれてくるね」
「雑」


 適当にあしらわれる五条にお皿を出してもらいながら、並んだ二人の姿を見る。夫婦らしい夫婦や恋人らしい人達を恵は知らないので比べる対象が分からないが、悔しい事にやはりお似合いだと感じる。性格は不一致してそうなのに。


「あっ、ちょっとつまみ食いがでかい!」
「うわァうま〜〜何これ天才?」
「コラ、褒めながらまた食べようとするな」
「僕の為に毎日お味噌汁作って」
「ごめんね恵達の分で手一杯だわ」
「えープロポーズ断られたー」
「つまんないプロポーズすんな」


 あーでもないと話しながら戯れている五条とナマエを見て、この前二人揃って参観日に来た事を思い出した。それはもう、大騒ぎだった。周りの保護者達が。クラスの奴らにも「あのイケメンとビジョはだれ?」と聞かれまくったけど。津美紀は「二人とも来てくれたね」と喜んでいたが俺は頭を抱えた。別に二人が嫌いなわけではない、ただ目立つから辞めて欲しい。そう言っても二人とも「「えー?」」と口を揃えて不満そうだったので、次も絶対来ると思う。絶対。

「もー、悟の為に作ってるんじゃないんだからね」
「けち〜、愛する彼氏の為にも作ってよ」
「だから任務のない日とかは必ず悟の家行ってるじゃ、…ん、」

 やべ、という顔をして固まったナマエさんを見てニヤリと口元を歪ませた五条の顔はそれはもう楽しそうだった。「まあね〜、任務あって疲れてても来てくれるもんねえ〜?愛されてるな〜」ナマエさんの肩に腕を乗せて、目線を態とナマエさんに合わせるように腰を折って屈んでいる五条に「近い!ここどこだと思ってんの!」と遠ざけようとするナマエさんの顔はかなり赤い。

 いちゃついているとしか思えない二人を白い目で見つめた。性格において二人はお似合いじゃないとか言ったけど、存外似たもの同士なのかもしれない。なんでも良いが、この家で二人の世界に入るのは辞めて欲しい。五条はともかく、ナマエさんにはそんなつもり無さそうで可哀想だが。








 出来上がった料理を机に並べ、四人で向かい合って食べ始める。ナマエさんの料理はどれも美味しかった。


「あッ!ちょっと悟食べすぎだよ恵と津美紀の分も残して!」
「食事は戦争だよ恵、津美紀。早く食べないと全部僕の腹の中に収まるからね」
「変なこと言ってないで箸を止めろ馬鹿、ほら恵ぼーっとしてないでこれ」
「ありがとナマエさん」
「津美紀もどうぞ」
「ありがとう」
「ナマエ僕には?あーんしてよあーーん」
「…」
「え無視?」


 どれが、どういったものが家族なのかは分からないが、今いるこの空間が家族のそれなのだとしたら、割と幸せなのかもしれない、と恵は思った。

 突然現れた二人の呪術師。一人は気まぐれに現れて、自分が食べたいお菓子を持ってくる。もう一人は小まめに顔を出して、料理を作ってくれる。
 そしてひとつ歳上の姉。みんな血は繋がっていないけれど、これから先もずっと、こうやって皆んなで膝を突き合わせて、くだらないやりとりをしながらご飯を食べられたら、そう思った。


「…恵が笑ってる」
「ほんとだ、ニヤニヤしてる」
「どうしたの?」
「べつに」

 「なんだよ言えよ〜!」と俺の頭を乱暴に撫でた大男が肘で味噌汁の器を盛大にひっくり返し、ナマエさんに頭を引っ叩かれている。津美紀はその光景を楽しそうに笑って見ていた。


△▼△


「じゃあ帰るね〜腹出して寝るなよ〜」
「鍵ちゃんとしてね、何かあったらすぐ連絡してね」

 そう言って並んで帰る二人の姿を見ながら、やはりお似合いだと感じた。

「行っちゃったね」

 途端に静かになった部屋に少し寂しさを覚えるが、どうせすぐに顔を出しに来てくれるだろう。

「また来るだろ」

 俺が中学にあがる頃、同じ式神使いのナマエさんに体術を教えてもらうのはまだ先の話だ。



ーーー
恵たちの世話を一緒に、と誘った五条と五条が思っていた以上に恵たちの家に通い詰める面倒見の良い子。少しでも家事の負担を減らして学業に専念できるように、と食材を買い込んで作り置きをしてくれる。宿題も見てくれるし休日は空いてれば遊びに連れて行ってくれるので五条よりも懐いてる伏黒姉弟。
Oyasumi
eyes