お疲れ様、と言ってお互い手に持った水色の瓶をカチンと合わせる。少し暑くなってきた今の時期に、喉を刺激する冷たいサイダーは最高だった。
 棘くんと一緒に任務を終え、諸々の後片付けをしてくれている伊地知さんを待っている間に、近くにあった古めかしい駄菓子屋さんで二人並んでサイダーを買った。勿論、伊地知さんの分も購入した。

 二人でベンチに腰掛け、揃って瓶を煽る。シュワシュワのサイダーは水分を欲していた喉に、勢いよく染み込んでいった。








「はー、おいしいね棘くん」
「しゃけ〜」

 隣の棘くんも同じなのか、少しだけ上気した頬を幸せそうに緩めている。
 ごくり、もう一口飲んでから瓶を上へと持ち上げた。陽の光にかざすと、水色の瓶に入ったサイダーはキラキラと反射していた。

「綺麗だね、棘くん」
「しゃけしゃけ」

 サイダーと同じくらい眼をキラキラ輝かせて頷く棘くんは、男の子とは思えない程の可愛さだ。思わず見とれていると、視線に気づいた棘くんが此方を向いた。

「こんぶ?」
「あ、いや。何でもないよ」

 棘くんの眼がサイダーみたいにキラキラで見惚れてました、なんて言える筈もなく、慌てて首を横に振った。

「・・・?」

 疑問符を頭に浮かべて首を傾けた棘くんに再び視線を奪われてしまう。だからどうして、そんなに可愛いの。
 真っ赤になってしまったであろう私の顔を見てピンと来たのか、いつも真希やパンダくん、憂太くん(否、憂太くんは私と同じで悪ノリされる方だった)と一緒になって悪ノリしている時の表情になる。ニヤリ、という効果音が聞こえそうだ。

「ツナ、明太子」
「い、いやだ」

 こっちを向け、と言われている気がする。絶対にいや。ツナ、こんぶ、明太子、ツナマヨ。いやったらいや。高菜〜。意味を持たない攻防戦は暫く続いた。しつこいなあ、棘くん。此処まで来たら負けられないという謎の使命感に駆られた私の頑なな態度にとうとう痺れを切らした棘くんは、ん゛ーと低い声を喉から出した。なに、そんな声も出せるの。

 ジジ、とジッパーが下がる音がして、何をする気だと思わず棘くんの方を見た。見てしまった。
 棘くんの方を向いた瞬間、唇に柔らかいものが触れてすぐ離れる。何が起きたのか、事態を必死で把握しようとして固まる私を見て、してやったりの顔をした棘くんは「こんぶ」と言ってジッパーをゆっくり上げた。ネックウォーマーでも隠し切れない程、悪い顔をしている。くそう、やられた。

「とっ、とげ、くん」

 いきなりはやめてっていつも言ってるでしょう。やっと出てきた抗議の言葉は「おかか〜」と言ってさっと立ち上がった棘くんには全く響いていないようだった。

「明太子?」

 行かないの?と尋ねた棘くんが振り返った時に、私の視界に飛び込んできた眼は陽の光に当たらずともキラキラ輝いていた。ああ、好きだなあ。

 立ち上がった私を確認し、前を向こうとしていた棘くんがぎょっとしたように固まって、それから耳が真っ赤に染まった。あれ、もしかして声に出ていたのかもしれない。面白いくらいに赤く染まった耳を笑いながら、棘くんの手を取る。隣に立って顔を覗き込むと、やはり棘くんの眼はキラキラしていた。五条先生のそれとは違う。もっと、綺麗だと感じる。でもそれを真希やパンダくんに言うと、馬鹿じゃないのかと呆れられるんだろうなあ。私の眼には、何かおかしなフィルターでもかかっているのかもしれない。

「棘くん、好きだよ」

 今度は意図して声に出した。棘くんは耳を更に赤くしたけれど、繋がれた私の手をぐっと自分の方へと引き寄せた。

「ツナ」

 今のはきっと、好きって言ったのかな。自分の都合のいいように解釈し、棘くんのキラキラな眼を見つめた。棘くんも真っ直ぐ私を見ていたので、なんだか恥ずかしくなってふたりで笑い合った。









自分から仕掛けるのは平気なのに、好きな子からジャブをくらうとしどろもどろになる棘くん。無意識ジャブを放つ女の子。
Oyasumi
eyes