ミニ小説・その他メモ
▽2018/03/04(Sun)
星空のハンカチ
小説『3月31日』の裏話。
出来ればこの小説を読んだ後にコッチを読んで頂きたいです。
追記よりどうぞ。
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あの馬鹿(リッキー)に無理やりタイムセールを任せたバレルは、こっそりと激安店を抜け出した。
その足で向かった先は
【星の砂】
すぐ隣にある小さな雑貨屋だ。
普段からこの激安店へ足を運ぶため、この店の存在は知っていた。
知っていたが、一度も足を踏み入れた事はない。
こんな女性が好みそうな店、とてもじゃないが自分のような男が入る場所じゃない。
そう思っていた。
「…………。」
星柄やラメなどが散りばめられた手作りの可愛い看板を、まるで敵を睨み付けるような強面の顔のままじっと見つめる。
目を細め、そして小さく舌打ちをした。
「いらっしゃいませ」
店内に柄の悪い男が入ってきて、店員の女性も咄嗟に彼の顔を見る。
小物や可愛いアクセサリーなど、雑貨が主に売られているお店。
この店にこんな男の人が入ってくる事は珍しい。
マジマジと見るなと店員を睨み付けようとしたが、彼女はもうこちらを見てはいなかった。
少し珍しいとは感じたらしいが、ただそれだけだったようだ。
特に険悪そうな顔はしていない。
「…………。」
何を思ったのか、バレルは再び眉間にシワを寄せる。
とにかく今はチンタラ物を選んでいる時間はない。
タイムセールは早くて5分程で終わる。
それまでにあの場所まで戻らなければならない。
背の高さを生かして高い位置から全体の商品を見渡し、バレルは歩き始めた。
彼が前に立ったのはハンカチのコーナーだ。
女性へのプレゼントは具体的に何をあげれば喜ぶのか。
その答えをこの男が知っているはずもない。
誰でも使用する無難なプレゼント。
そう考えて出てきたのが「ハンカチ」だったようだ。
目の前に並べられた種類は5種類。
花柄。
散りばめられたハート。
動物。
ストライプ柄。
そして星空。
「……………。」
もちろん何度も言うが、どの柄をプレゼントされれば女性が喜ぶのかなど、
この男が知っていたら大事件だ。
女性らしいハートか。動物が好きな女性も多いから動物柄か。
黙ったままで少しの声さえ漏らさない彼だが、もしかしたら頭の中でそんな事を考えているのかもしれない。
スッと手を伸ばし、彼はひとつのハンカチを手に取った。
星空のハンカチだ。
青と黄色のグラデーションが美しく、それが何度も目に留まって。
ローラに一番似合う柄がこれだと考えたらしい。
その商品を片手に、若干視線を右に左に動かしながらバレルはレジへと向かう。
「………。」
「はい、お預かり致します」
無言でそれを渡すが、店員は嫌な顔ひとつせずにハンカチに付いていたシールのバーコードに光をかざす。
「1,900円です」
「…………。」
高けぇ…。
布一枚で、んな高けぇのか…。
再び眉間にシワを寄せるも、それを返品するわけにもいかずバレルは腰ポケットから財布を取り出す。
料金を支払って店員が精算をしている間に、店内の時計を確認した。
この店に入ってもう3分は経っている。
物を貰ってすぐに出れば、まだ余裕があ…
「プレゼント用にされますか?」
「……は?」
店員からの質問に、思わず返事をしてしまった。
彼の反応を見てクスッと笑う彼女。
「いえ。随分真剣に選んでいらっしゃったので、どなたかへのプレゼントかと思いまして」
「…………。」
なんだ、この店員。
確かに俺が…こんなチャラついたモン使うわけねぇけど。
バレルの顔は少しも笑顔にならないが、店員はそんな彼にも怯えていない様子。
こんな柄の悪い男がこんな可愛らしいハンカチを買っている時点で「この人は悪い人ではない」と感じたのか。
「どうされますか?」
「…………。」
バツが悪そうにバレルは視線を逸らし、そして…
「…時間ねぇから1分で」
「かしこまりました」
ニコッと笑い、店員は器用な手つきで透明な小さめの袋に入れ、
そしてさらにそのハンカチと同じような美しい柄の紙袋に入れた。
「お待たせしました」
本当に1分でその作業を済ませ、バレルはそれを受け取る。
「ありがとうございました。またお越しください」
「…………。」
後ろから聞こえる店員の声に返事もせず、彼はその店を出る。
生まれて初めて買った、女性へのプレゼント。
看板の前で立ち止まり、彼は小さくため息をついたようにも見えた。
残り時間1分。
バレルは行き慣れた隣の激安スーパーの方へ、何事もなかったかのように戻り始めた。
fin
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