ミニ小説・その他メモ

▽2018/07/30(Mon)
ATTENTION
「壁ドン」の続編小説。
雨エマです。

了承頂いた方のみどうぞ↓
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weather life事務所内。

次回曲の打ち合わせが終了したのは、夜の9時を回った所だった。

「よし。とりあえず今日はここまでとしよう。続きはまた後日だ」

「あー眠い」

「お疲れぇ」


遅い時間まで座りっぱなしだったためか、全員かなりお疲れ気味。

各々が席を立ち、鞄や傘などロッカーから自分の荷物を取り出す。

「…っ…お疲れ…さま…」

「あ!エマちゃ〜ん♪お疲れ〜」


そこで部屋に入ってきたのは、別室で資料作成を行っていたエマだ。

そろそろ終わる時間だろうと覗きに来たらタイミングが良かったよう。


『僕達の事待っててくれたの?』

「…う…ん」

「優しいー!じゃ、お礼のハグンッ!」


美空が抱きつこうとした瞬間に、クラウディから後ろに引っ張られて阻止される。

ぷんすか怒る美空にペチッと彼がデコピン攻撃を。



「最近の美空さん、増してエマさんにちょっかい出すようになったっすね」

「クラウディも付いている。単細胞は放っておけ」


荷物の整理をしたりブレザーを羽織る中、日晴が雨宮にコッソリ話しかけるも「いつもの事だ」と彼は手を止めないが


「なんかこの間、またふたりでカラオケに行ったらしいっすよ?」

「…ッ」


ようやくその手が止まる。


「またか」

「エマさんも優しいっすよね。耳が聞こえないのにカラオケなんて付いて行って。
美空さんもデートに誘うなら、もっと彼女が楽しめそうな場所を選んでやったらいいのに」

「…………。」

「…雨宮さん?」

「帰るぞ」


彼はまとめた鞄を手に持ち、日晴を置いてさっさと歩き出してしまった。






……………



「暗いねぇ〜」

「もう9時過ぎてるっすもんね」


ビルを出て日晴と雪之原は暗い空を見上げる。

他の4人も階段を降りてきて、これで全員が揃った。


「さて、そんじゃ帰るとしますか?」

「エマっちはどうする〜?ひとりじゃ危ないよぉ」

「ハーイ、この僕!レディファースト紳士な美空先輩が彼女を華麗に送っ…」

「お前は明日の早朝、テストの補習だろ」

「あ…」

「はぁ…。彼女は僕が送る。お前は家に帰って計算ドリルでも解いてろ」


話し合いの結果、雨宮がエマを自宅まで送る事に。


雪之原「さっすがリツ君イケメ〜ン」

「うるさい。エマ、帰るぞ」

美空「変な所に連れ込んじゃダメだからね!」

「お前じゃあるまいし、そんな事せん」


暗い夜空が広がる中。

日晴と雪之原は並んで一緒に、あとはばらけて自宅の方向へ歩き出した。













雨宮君と帰り、電車を降りて5分。

未だに会話はないが、あまり彼は口をペラペラと動かすタイプではないのでこれが普通だ。

等間隔に並ぶ電灯をいくつも通り過ぎ、ふたりの足音だけが夜道に響く。


…たまには私から話しかけた方がいいのかな。

いつも向こうから話題を振ってもらってるし。

何を話そう。

勉強の事、学校の事、お家の事…




「……………………………。」




…どうしよう。

私には大して面白いエピソードがない。

最近あった面白い話面白い話…


あ、そういえばこの間カラオケで七音君が変な事を言ってたんだった。

他に何もないし、その話題を





『また七音とカラオケに行ったらしいな?』

「…ッ!?」




目の前に出されていた携帯の画面に驚いて、肩がビクンと反応してしまう。

なんで…私が話そうとした事がわかったの?

ぐ、偶然だよね…



「う…うん」

『退屈じゃないのか?聞こえないし、歌う事も出来んだろ』

「そんな…事…ないよ。…楽し…い。…普だ、ん、いられないような…場所に……来られて」

「……。」


何故か雨宮君の顔がムスッとしている。

そういえば前も、七音君にカラオケに誘われる度に彼と何かを言い合いしている姿を見た事がある。

やっぱり退屈している私を無理やり連れて行っていると思ってるのかな。


訂正しなければと思ったのか、不安そうにエマは口を開いた。


「あの…ほんとに…全然退屈…じゃな…いよ。だから…七音君、を…怒ら…ないであげて」

『七音には怒っていない』



あっ…

なんだ、そうなんだ。良かっ






『むしろ君に怒っている』

「…へ?」




…な、なんで?と、携帯の画面を見てぽかんとしている彼女。

雨宮君に怒られたのは初めてなのだが…

その理由が全くわからなくて、怒られている実感が湧かない。


「ご…ごめん…なさい…」

『理由もわからないのに謝るのか?律儀だな』

「……そっ…れ…は…」

『別に悪い事をした訳ではないから謝る必要はない。
怒っているというのは語弊があるな。すまない。
正しくは、君に注意をしておきたいだ』

「ちゅ…うい?」


隣は線路が続く人通りのない静かな夜道。

彼はこちらを見て足を止め、エマもそれに合わせて自然と足が止まった。



『カラオケボックスという狭い空間で男とふたりきりになるという事が、どういう意味かわかるか?』

「…?」

『部屋は密室だ。何が起こっても助けは来ない。君はそのような状況で、自分の身を確実に守れると言い切れるのか?』

「………。」



雨宮の言いたい事がようやくわかったのだが、もちろんそれに「うん」などと軽々しく返事は出来ない。

何も返せず黙ってしまっているエマに対し、雨宮は再び携帯を打ち込んだ。


『相手が身内だからまだ許せるが、七音もいつ、どういう気を起こすかわからない』

「七音君はそんな……ッ…」









ふと先日ふたりでカラオケに行った時の場面を思い出す。










ーもうちょっとで、さっきみたいなちゅーが出来る所だったのにねー………







『どうした?』

「…な…んでもない」


不審な表情を浮かべつつも深く追及する事なく、雨宮は携帯を打つ。


『更に怖いのが、君がそのような状況に慣れてしまい、他の男に誘われるがままそのような場所へ行ってしまう事だ。
正直、そこを一番心配している』

「……っ……わ…たしみたい…なのを…そんな…しようと思う人なんて…」

『それは君の考えであり、相手が何を考えているかなんて誰にもわからないだろ』

「…………。」



何も言い返せなくなり、視線を下へ落としてしまうエマ。

厳しい言い方だが仕方がない。

僕でさえ、そのような状況に置かれればどういう気を起こすかわからないんだ。

君は自分など魅力的ではないから大丈夫だと思っているかもしれないが、少なくとも僕はそうは思わない。

彼女は異性に対しての知識がほぼないから、誰かが教えてやらないとわからないのだ。


ドロップスの件から、僕はこの子を守りたいと強く思った。

その気持ちは今でも変わらない。

だからこそ今君にこんな話をしているんだ。

もう君が傷ついて泣いている姿など見たくない。

雨宮は再び携帯を打ち込む。


『我々のメンバーは許容範囲とするが、好意を持っている男なら別として、そうではない男とふたりきりでカラオケや密室になる場所には行かないで欲しい。

厳しいようだが君を危険な目に遭わせたくないんだ。理解してくれ』

「…………。」



雨宮君…私の事をそこまで心配してくれてたんだ。

怒ってると聞いて最初は驚いたけど、本当に優しい人。

その言葉に不思議と怖いとは思わず、純粋にその気持ちが嬉しくて顔を上げた。


「わかっ…た。…ありがとう。心配…し、てくれて…」

『すまない、口うるさくて』

「ううん…嬉し…かった」


彼女の髪が夜風に揺れ、ふわりと感じた女性の香りになんとなく目を逸らしてしまう。

本当の所、七音ともなるべくふたりきりでは行って欲しくないのだが…。

あまり口を出すと嫌がられてしまいそうなので、そこは百歩譲って我慢する。



ふたりは再び歩き出し、ようやくエマの家が見えてきた。

二階建ての可愛らしいクリーム色の外壁の家。



「ありがとう…いつ…も、送ってくれて」

「あぁ…気にするな」


胸元辺りの高さのフェンスゲートを開け、家の敷地内へ入ったエマ。

そのゲートを閉めた所で、目の前の彼が携帯の画面を見せてきた。



『今日は怒ってすまなかった』

「…わ…たし、怒られて…ないよ?」


小さな笑顔を見せる彼女に対し、雨宮も優しく笑う。


「大丈…夫…。私…変な…男の人とは…仲良くならない…から」

「そうか」



やはり全くわかってない…。

男なんていつどのようなタイミングで理性が崩れるかわからない。

外見が普通の男でも、そのような人間は山のようにいる。

僕も…恐らくその中の一人なんだからな。

そんな自分が言うのもおかしな話だが、やはり彼女は我々で守ってやらなければならない。

改めてそう思った。



「おや…すみなさい」

『あぁ、おやすみ』



長いロングスカートが風に揺れ

エマは家の中に入り、ようやく姿が見えなくなった。



「はぁ…」


ため息をつき、また癖で眼鏡を押し上げてしまう。

全く。いつもこの場所へ来る時には疲労困憊しているな。

そんな事を考えながら、彼女に見せていた携帯のメッセージ画面を消す。


…ん?

なんだ?

メールが入っている。









From:雪之原 奏
件名:無し
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嫉妬しちゃうくらいなら、いっそリツ君が先に毎日誘えばぁ?笑
あはははははは
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前言撤回。



『我々のメンバー(雪之原は除く)』にするべきだった。







「…なんなんだコイツ、どこからか見ているのか?」







夏なのに寒気で体がブルッと震え、雨宮はひとり夜道を歩き出した。






fin



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