ミニ小説・その他メモ

▽2018/05/30(Wed)
ココア
雪之原とエマのミニ小説(・∀・)


興味のある方は追記からどうぞ↓
……………


「うぐぐ…」


エマは首に巻いたグレーのマフラーに顔を押し付ける。

冷たい風が吹きつけて呼吸をする事さえ辛い。

1月の早朝だ。

当たり前だが寒いに決まっている。

むしろこの時期のこの時間帯が、1年のうちで一番寒いのではないだろうか。


「エマっち、大丈夫〜?」


言葉は心配してても表情はそうでもない雪之原が彼女の顔を覗き込んだ。


「雪之…原…くん……寒くない…っの?」

『僕寒いの好きだから平気』

「そ…そぅ…」


彼もコートにマフラーを身に付けているものの、特にポケットに手を突っ込んだりせず携帯をいじっている。

何故今このふたりが、まだ薄暗いこんな街路を歩いているのかというと…




【次曲の提案について大幅な変更がある!1時間後に事務所へ集まってくれ!】




理事長より朝っぱらから緊急召集の連絡が入った。

しかも今日は土曜日でお休み、時間はなんとビックリ朝の6時。

せっかくの休日を潰され、挙げ句こんなクソ寒い中で出てこいと言われたのだ。

美空なんか今頃きっと文句ブーブーだろう。

むしろ、もしかしたら来ないかもしれない。


エマは急いで支度を済ませて家を出てきた所、途中の道で同じように歩いてきた雪之原とバッタリ遭遇した。

どうせ目的地は同じなのだ。

こうやってふたりはこの寒い街中を仲良く並んで歩いていた。


「そう…いえば…日…ばり…君は?…同じ…マンションに…住んで…るんじゃ…」

「あぁ〜」


特に寒がる様子もなく雪之原は携帯を打ち込む。


『遅れるから先に行ってって』

「寝坊…したの?」

『すぐ連絡があったから多分してないよ。彼女でも来てたんじゃない?ムカつくよね〜怒』


そういえば、weather lifeでは日晴君だけ恋人がいるってクラウディ君が前に教えてくれたな。

やっぱり日晴君の彼女だから運動神経も抜群なのかな?

芸能人と付き合えるくらいだし、きっと可愛い子なんだろうなぁ。





ヒュゥゥッ


「ぐっ…」


北風が体に吹きつけて、エマはあまりの冷たさに体が縮こまってしまった。

冬は嫌いじゃないけど6時台ともなると眠いし寒いし、さすがに体に応える。


「うー、冷たいねぇ。エマっち大丈夫〜?」

「………。」

「あんまり大丈夫じゃなさそうだねぇ」


隣を歩いていた雪之原が立ち止まり、再び携帯を打ち込み始めた。


『ココアでも買ってくるよ。ここで待ってて』

「え…でも…」

『僕も温まりたいからね〜。まだ時間も余裕あるしすぐ戻ってくるから』


エマを道端にひとり残し、自販機まで歩き始めた雪之原。

普段、男のメンバーには飲み物どころか菓子ひとつ奢る事のない彼だが、さすがに女の子には気を利かせたようだ。



変に気を遣わせちゃったかな…

それにしても寒い。

息も白く蒸発していく。

雪が降ってきてもおかしくない寒さだ。

そんな事を考えながらエマはまだ薄暗い灰色に似た寒空を見上げた。






「ねぇねぇ、お嬢ちゃん〜」

「………。」

「お嬢ちゃんてばぁ〜」



ガッ



「…ッ!?�煤v


突然後ろから肩を掴まれ、エマは驚いて振り返る。

そこにはサラリーマンだろうか、スーツを着た見知らぬ男がふたり並んで立っていた。


「……ッ…ぁ…」

「あ、ビックリしちゃったぁ?こんな朝早くから女の子がひとりでいるなんて珍しいと思ってさぁ〜」

「そうそう。迷子かなぁと思ってぇ」


お、男の人だ…!

慌てて振り払っても、彼らはヘラヘラ笑っている。

それになんだか…お酒臭い。

朝まで呑んだ帰りなのか、なんとなく目も据わって見える。

怖い。


「…で?お嬢ちゃん、こんな所でひとりで何してるのさぁ?」

「もしかして家を追い出されちゃったの〜?」

「…ッ……」


もちろん耳の聞こえないエマには、そんな言葉聞こえない。

何も言い返せない事につけ込まれて、男達は図々しく体を近づけてくる。


「やっぱりそうなのぉ?可哀想に…こんな所にひとりでいると変な人に誘拐されちゃうよ〜」

「お兄さん達が助けてあげるから。ほら、おいでよっ」


手が伸びてきて、エマは咄嗟に後退りしてそれをかわす。


「何を怖がってるのさぁ?俺達が君を保護してあげるって言ってるの!」

「大丈夫〜、変な事はなんにもしないからぁ」








「エマっち〜、買ってき……ん?誰ぇその人達〜?」

「雪っ…く…!」


ココアのカップを両手に握って戻ってきた雪之原。

そこでようやく、スーツの男達がエマを囲んでいる事に気づいた。


「チッ。んだよ、彼氏待ちかよ」


突然声色を変え、舌打ちをした背の高い男。

どうやら雪之原を彼女の恋人だと勘違いしたようだ。

しかしもうひとりの男は耳打ちをするように、その男にひっそり話しかける。


「でもこの彼氏、なんか弱そうじゃね?」

「そう言われれば…細っこいしナヨナヨしてんな」

「イケるって。このまま押し通しちまおうぜ」






『エマっち、この人達知り合い?』

「…ッ」


雪之原の質問に、彼女はハッキリ首を横に振って答える。

表情も怯えてるみたいだし、だとすると…




ガッ!


「きゃっ!」

「なぁお嬢ちゃん、さっき俺達と遊ぶって約束したよなぁ?」

「は…離し…てっ…!」


エマの腕を掴んで無理やり引っ張ろうとする男に、雪之原は眉間にシワを寄せる。


「ちょっと何してんのぉ?」

「うっせーな、ガキがッ!!女ほったらかしにしてた分際でテメーがどうこう言える立場かよ!」

「この子が俺達と遊びたいっつったんだよ!怪我したくなかったらひとりでお家に帰れや!!�煤v


自らの持てる最大限の恐ろしい顔と声で雪之原に脅しをかける。


「………。」


ほら、ビビッて何も言い返せねぇ。

このまま強引に女だけを引っ張り出しちまえ。


「ほら、お嬢ちゃん!こんな出来の悪い彼氏なんかほっといて行こうぜ!」

「やっ!痛っ…」

「さっき君から俺達を誘ったんだもんな!ひとりで寂しいからって……」




バシャッ!




液体の飛び散る音。



怪しい音と同時に、突然男達の顔に高熱が走った。



「熱ッ!!!!」



熱湯のようなものを顔にかけられたようで、思わず彼らはエマの腕を離した。

ただのお湯ではない。

やけに甘ったるいチョコレートのような匂い。

液体は目にも入ったらしく慌てて手で顔を擦る。



「何しやがんだテメー!�煤v

「ごめーん。こぼしちゃったぁ」

「ふっざけんな!絶対ぇわざとだろうが!」


彼の手には空になったホットココアのカップ。

どうやら顔にこの中身をかけられたらしい。

顔から流れ落ちて、自慢のスーツも茶色に汚れてしまっている。



「チックショ、このガキが…」

「最初にふっかけてきたのはそっちでしょぉ?」

「アァッ!?」


雪之原の言葉に怒り心頭に発し、囲むように近づく男達。

エマはただ怖くて、彼の後ろに隠れてしまうと…

つんつんとつつかれて下を見た。

後ろに手を回して携帯の画面をこちらに向けている?







『タクシーが来たら僕の手を握って』





「テメー、やるってのか!?」

「そんな無理に決まってるじゃないですかぁ。僕、ひょろひょろだしガチでケンカなんてすればすぐに負けちゃいますよぉ」

「じゃぁ今すぐクリーニング代を払ってここで土下座しろ!」


ヒートアップする男達はさらに酷く怒鳴り声を浴びせるが

雪之原の表情は最初と全く変わらない。



「早くやれっつってんだよ!」

「地面に頭こすり付けろ!」

「金は!?ほら金出せよ!�煤v

「いーから早くしろっつってん…」



雪之原君…凄い怒られてる。

何にも聞こえなくても、そんなの一目でわかる…

こ、怖いっ…

早くこの場から逃げだしたい。

タクシーといったって、今は普通の車の通りすらほとんどないのにっ…


あっ…。


「何黙ってんだ、ビビるくらいなら謝れや!」

「クソチビが!調子に乗ってんじゃ…」



「なんで僕が謝んなきゃいけないの?」


「………ッ…」


スーツの男達はその一瞬で言葉が詰まる。

先程までの柔らかい口調とは打って変わって、低音で氷のように冷たい、同じ人間とは思えない声だったのだ。

見上げる赤い瞳が不気味。

背中がゾッと震えるふたりに、雪之原はまたすぐ笑顔を見せた。


「あはは。まぁこの子をナンパするのは別に自由なんだけどさぁ







僕、怒ったらめちゃくちゃ怖いよ…?

覚悟出来てる?」






「…ッ」


笑顔のままで言い放った恐ろしい声の忠告。

不気味さと恐怖のあまり、男達はリアクションを忘れた。



「覚悟が出来てないなら彼女には今後一切近づかないで。
それにオジサン達お酒臭いよ、匂い移るからあっち行ってくれない?」

「ハァッ!?」





バシャッ!!





「熱ッ!!�煤v


不意に二杯目のココアを再び顔面にかけられ、咄嗟に手で抑える男達。



「雪ッ…」

「ほら、早く」


掴まれていた手を強く握り返し、走ってきたタクシーを止める。


「クッソ、アイツまたっ…」


男達がようやく目を開けられた瞬間には、ふたりは既にタクシーに乗り込んでいて。

そのままあっという間に走り去ってしまった。





・
・
・
・




「はぁ、ビックリしたぁ」

「雪之…原…くっ……大丈…夫?」


無事タクシーに乗り込み、男達から逃げる事に成功したエマと雪之原。

隣から心配そうな声で話しかけてきた彼女に対し、「平気」と文字で一言だけ返す。

汗ひとつかいてないみたいだし、唾が飛んでくる迫力で言葉を浴びせられていたにもかかわらず、まるで何事もなかったかのよう。

とにかくあの場を上手く回避出来て本当によかった…。


「…あ…りがと…う。私…なにも…でき…なくて」

「………。」

「…ごめん…なさい」


悲しそうに頭を下げるエマを見つめる。

この言葉は、何も聞こえず抵抗も出来なかった自分が迷惑をかけたと思っている謝罪の意味。

彼はその返事を携帯に打ち込んだ。



『僕がひとりにしたせいだよ。ごめんね』



「…っ」


いつもの彼なら「あはは、物騒な世の中だねぇ」なんて間の抜けた言葉が返ってくるはずなのに。

読み慣れない予想外の返事にエマも驚いている。


「…えっ……ち、違っ……悪…いのはわ…」

『ココア無くなっちゃったね。事務所に着いたらまた買ってあげるから』

「へっ…!そんな…いいっ…よ…」


変に真面目な彼に調子が狂ってしまう。

普段みたいに他人事って態度で笑って欲しいのに、今の雪之原君は怖いくらいに優しい。

助けられたにもかかわらず「何か企んでいるのではないか?」と無駄に勘ぐってしまう。


『その代わり、さっきの事は皆に内緒にしといて。バレたらリツ君に怒られちゃうからさ』

「……っ…」


やっとあははと笑って前を向いた雪之原。

エマは彼の横顔を見てぽかんとしたままだ。



…やっぱりこの人はよくわからない人。

普段、何を考えてるかわかんなかったり、自分が面倒になる事はやらないってイメージだったけど、

今日は意外な一面が見られて少しだけ印象が変わった。

本当は良い人…なのかな?



「………。」

『なぁに、エマっち?その顔は何かご褒美をくれるの〜?』

「……い…いや…それ…は…」

『あはは。じゃぁいつになったら僕のお部屋に来てくれるのさ〜?』

「ヘ!?///…や…あ…の…;」

『冗談だよぉ(笑)』


またからかわれてしまった…。

やっぱりいつもの雪之原君だ。

ちょっと変で意地悪で、掴み所のない不思議な人。

あ。さっきから突然雪が降ってきていたのに

何故か今はもうやんでいる。

通り雨ならぬ通り雪だったのかな。

変な天気。


fin



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