ミニ小説・その他メモ

▽2018/06/29(Fri)
お世話係
リッキー君が怪我をしてしまったリキサラ小説です(^^)

了承頂いた方のみ追記よりどうぞ↓
−−−−−



「ほら、買ってきたわよ」

「わーい、ありがとうございます。いくらでしたっけ?」


サラが差し出したのは、毎月欠かさず購入している雑誌「月刊・俺の愛すべきぬこ特集」

彼はその本を受け取ると、立て替えてくれた彼女に代金を支払った。

ここは見慣れたリッキーの部屋だが、何故かここの主人は終始ベッドに寝ころんだままだ。

そして左足には厚いギブスが装着されている。







それは遡る事、3日前の出来事だった。









*****




ガシャァンッ!!



「…っ!?」


お互いの走りについて討論していたビッキーとサラ。

黙々と特訓をしていたジム。

バイクの改造に没頭していたボビーに、汗を拭きながら休憩をしていたナイジェル。

モトクロスのトレーニングレース場に突然激しい音が響き、全員の視線が一点に集中した。



「リッキー!?」

「おい、大丈夫か!?」


ジャンプの着地に失敗したリッキーが転倒したのだ。

舞い上がる砂煙の中、慌てて他のメンバーが駆けつける。

バイクは外壁まで飛ばされ、同時にリッキー本人も地面に投げ出されて倒れていた。


「リッキー!」

「リッキー、大丈夫!?」

「アイッテテテ…」


声を漏らした。

どうやら意識はあるようだ。


「大丈夫か!?」

「はい…ツッ!」


起き上がろうとすると、咄嗟に左の足首を抑えた彼。

「痛むのか?」

「ちょっと…」

「無理に動かすな。折れてるかもしれねぇ。ジム、救急車だ。あと社長にも連絡しろ」

「わかった」


ナイジェルの指示でジムがすぐに電話をかけ始めた。



「リッキー…大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


不安そうなビッキーに対し、彼は倒れたまま普段通りの笑顔を見せる。

心配させまいとしているのだろうか。




……………








病院での検査の結果、幸い骨は完全に折れていなかったものの、ヒビが入っていたらしい。

他、軽い打撲程度で大きな怪我は見られなかったようだ。

結果を聞いて大事には至らなかった事に胸を撫で下ろしたメンバーは、すぐに面会を許された。


「良かったね、リッキー」

「はい、すみません。ご迷惑をおかけして」

「何言ってんだよ!大した事なくて本当に良かったよ」


治療を終えてベッドに横たわっているリッキーの表情は、痛みを感じさせない柔らかな笑顔。

その顔を見るとジムは妙に安心してしまった。


「特に入院の必要もないでしょう。1ヶ月はベッドで安静にしてください。くれぐれもバイクには乗らないように」

「はぁい…」


この言葉にはさすがに元気のない返事が返ってくる。

レーサーにとってバイクに跨がる事は何より楽しいしストレス発散にもなる。

ましてやこの子は天才とも呼ばれ、毎日飽きもせずに乗っては実力を上げていた。

こんな顔になるのも仕方無いか。


若い男の先生は軽く説明を終えた後、再び口を開いた。


「あまり歩いたりしない方がいいので、少しの間だけ身の回りの世話をしてくれる方が傍にいれば安心ですね」

「大丈夫です。俺達同じ寮に住んでるのでそうするつもりでした」

「そうですか」


「ダラー先生!急患です!」


看護婦が慌てて部屋へ入ってきて、先生は白衣を着直した。

「話の途中ですがすみません。明日退院の手配をしますので、今日一日はこちらで休んでいてください」

「はい、わかりました。ありがとうございます」


部屋を出て行った先生に対し、先頭にいたジムは丁寧に頭を下げる。






……………




翌日、リッキーが練習中に負傷しレースを一時辞退するとマスコミから発表された。

ファンの女性達の残念がる声が、今にも聞こえてきそうだ。


リッキーはその日一日だけ病院に泊まり、次の日にはウィンディランへ戻ってくる事となった。

まさか自分でもこんなに早く帰って来られると思っていなかったらしい。


車を降りた後にジムとナイジェルに肩を貸してもらい、片足で前へ進んで自分の部屋に到着。

部屋に入ってすぐにベッドに寝かせられた。


「ジム、ナイジェル、ありがとうございます」

「いいって事よ」


世話焼きな性格のジムは、笑いながら後輩の肩を軽く叩く。

早速そこで口を開いたのはボビーだ。


「そういえば、身の回りの世話をしてくれる人がいると良いって言ってたよね?誰がリッキー君の飼育係になるんだい?」

「飼育係って…小学校のウサギじゃないんだから。お世話係でいいだろ」

「ハイハーイ!私がやる☆」


もちろん真っ先に名乗り出たのは、チョリ大好き乙女ビッキーちゃん。


「お前か…」

「だってリッキーと四六時中一緒にいられるんでしょ!?
料理を持ってきたり話相手になったり…抱きついて慰めたり、下のお世話、夜には動けないのを良い事に私の……キャァァァッ☆」

リッキー「チェンジで」


こんな危ない女に飼育係なんてさせたら、ますますリッキーは重症化してしまう恐れがある。

鼓膜が破けたり、全身を複雑骨折したり。

最悪の場合、精神病も併発する可能性も。

回復する未来なんて見えるはずがない。


仕方なくジムは他の連中を見回した。


「よく考えると俺は明日から仕事でいない日が多いしな。ナイジェルは…お前は完全に放置プレイに走りそうだし」


ボビー「僕がしようか?」

リッキー「絶対に嫌です。貴方に看病をされると100%ロクな事がありません」

ビッキー「どうしたの?前に何かあったの?」


ジム「そっか。じゃぁサラ、お前がやってやれよ」

「私?」

「お前隣の部屋だし、近いからいいだろ」


自分を除いて「お世話」というスキルがある人間なんて、考えてみればひとりしかいなかった。

まぁ若干心配はあるが、他の連中に比べたらまだ全然マシ。

指名されたサラに対し、ジムは語尾に「それに」と付け足した後にこっそり耳打ちをした。


「憧れの女性に付きっきりで面倒をみてもらえるなんて、男にとってはこの上ない幸せだろ。
リッキーにもたまには夢見せてやれ」

「また調子のいい事を…」

「コイツだって毎日頑張ってんだ。可愛い後輩のためにも一肌脱いでやれ」

「大丈夫よ。最初から断るつもりないから」

「じゃぁ決まりな」


ひそひそ話が終わり、ジムは再びベッドで横たわるリッキーの方向を向いた。


「…というわけで、お前の足が治るまでサラちゃんが面倒をみてくれる事になったぞ!良かったな、リッキー!」

「本当ですか?それは…あの…///」

「なんだ、嫌なのか?」

「そうじゃなくて…女性に下のお願いをするのはちょっと…///」

「いや…トイレくらいなら自力で行けるだろ」


サラ「大丈夫よ、リッキー。貴方のおトイレはちゃんとベッドの隣に置いとくから♪(おまる)」








*****




こうしてリッキーの治療に専念する日々が始まった。

その間、仕事は全て休みとなり、生活する上での身の回りの手伝いは、ジムの下世話な提案によりサラが行う事となった。





「…面白い?それ」

「面白いですよ。ほら、猫ちゃん達がいっぱい載ってるんです。可愛いでしょ」

「うん、可愛いわね。私は犬派だけど」

「あー猫可愛いなぁ。天使…いや、『てんち』ですねぇ」



リッキー…

普段からこういう雑誌を読んで、独り言を呟きながらデレデレしてるんだろうか。

汗だくでバイクに乗っている時とのギャップが大きい。


それに押し入れからガサガサ音がするのは何だろう。


…まぁ、これはリッキーだから可愛いのかな。

ナイジェルが「てんち」なんて言ったら、衝動的に足を折ってしまうと思う。


雑誌を一緒に読んだり他愛のない話をしているうちに、すぐに窓の外の陽は落ちた。




「はい、リッキー。エサを持ってきたわよ」

「ありがとうございます」

「『ありがとうございます』じゃないわよ。『エサ』に否定しなさい」

「あ、そうですね」






彼はまさに絵に描いたような「天然」

作っているのではなく、これが素なんだと私達メンバーは全員知っている。

からかってクスクス笑った後、夕食の乗ったおぼんを差し出した。


今日の晩御飯はサラが作ったパエリアとフライドチキン、野菜スープ。

それからデザートのオレンジだ。


「美味しそうですね!」

「あったかいうちに食べなさい」

「みかん温めたんですか?」

「パエリアの事よ、考えればわかるでしょ!」


これは天然を通り過ぎて軽く馬鹿。

まぁ、そんな事は遥か昔から知ってたけど。

サラはおぼんを渡して席を立った。


「全く。それじゃ、私テレビ観てるからおとなしく食べてなさい」


患者をひとり残し、テレビをつけようとチャンネルへ向かう。

確かテーブルの上に置いて…



「サラ?」

「何?」


呼び止められて何気なく振り返ると、彼は思わぬ事を口にした。


「あーんして」

「……は?」

「あーんてしてください♪」


ぽかんとしてる彼女に対して、リッキーは目をアーチ状にした笑顔のまま。

数秒は何も会話のない時間が続いた。


「な…何言ってんの////?手は怪我してないでしょ」

「いいじゃないですか、こんな時くらい」

「嫌よ、恥ずかし…」




ふとそこでジムの言葉が蘇ってくる。








ーコイツだって毎日頑張ってんだ。可愛い後輩のためにも一肌脱いでやれーー…








アイツ…


なんでこんな時まで私の脳内に入り込んで、下世話な説教してくるのよ。



「………。」

「サラ?」

「はぁ…」


盛大にため息をついたサラは髪をかき上げ、テレビをつける事なくリッキーの元へ戻った。


「一口だけよ?」

「わーい、ありがとうございます」

「貸して」


子どものように喜ぶリッキーからスプーンを受け取り、パエリアを一口分掬う。


「はい、口開けて」

「あーん♪」


なんなの、これ////

付き合いたての中学生じゃないんだから…


スプーンから美味しそうに食べる彼を見て、なんだかサラの頬が赤く染まる。


「美味しいです」

「そ…そう。ありがとう」


じゃ、あとは自分で食べなさいと荒くスプーンを手渡す。


「………。」

「何よ?」

「いえ、別に」


何を考えているのかわからない彼だけど、こちらを軽く見た後、自分の手でスプーンを握り食事を始めた。

ようやくサラはチャンネルを取ってテレビをつける。

始まったのはコメディドラマだ。


「あーあ…ずっと足治らなきゃいいのに」


テレビを観ている最中、食べているリッキーが水を口に含んでこんな言葉を呟いた。


「何言ってんの?貴方だってずっとこのままじゃ不便でしょ」

「それはそうですけど、サラがこうやってずっと一緒にいてくれるんですよね」

「………ッ/////」


思ってもない台詞に返事も出来ずに固まる。


ったくこの子は…


ここまでくると、今の発言が単純に天然なのか確信犯なのかハッキリわからない。

柄にもなくクールな先輩は、頬を染めて視線を逸らした。


「馬鹿じゃないの。右足も折るわよ」

「はは。それはさすがに困ります」


猫みたいな可愛い後輩はヘラッと笑って再び野菜スープを口に含む。

反省していないのか、はたまた私をからかってるのかわからない故、なんと言って叱ればいいのかさえわからない。

…というか、普段の仕返しをされているのだろうか。私は。


サラは再び深いため息を吐いて彼の傍に座った。


「冗談よ。私達も社長だって、何よりファンが貴方の帰りを待ってるの」

「っ…」

「だから、こんな怪我早く治してレースに復帰しなさい。それまでは私がこうやって付きっきりで看病してあげるから」


サラの顔をポーっと見る。

凄く…優しくて綺麗だ。

本当にこんな生活がずっと続くのなら、治りたくないというのも本心なんですけどね。

今はとりあえず貴方の望む通り、怪我を治す事に専念します。


「はい。よろしくお願いします」

「何笑ってんのよ」

「笑ってませんよ(笑)」



ごちそうさまでした。



fin



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