ミニ小説・その他メモ
▽2018/07/18(Wed)
新型バイク
小説「アンサー」の数日後。
リッキー視点の物語です。
了承頂いた方のみ追記からどうぞ↓
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早い事で、あの出張の日から2週間が経過した。
気を遣ってくれているのか普段よりも優しい気もするが、サラもナイジェルも今までと変わらない態度で俺に接してくれている。
俺にとっても何も変わらない。
ただ、ひとつの恋が終わっただけの話だ。
次にまたこんな気持ちになれる女性が現れるのはいつになるのだろうか。
なんだかんだ言いながら、結局自分の中でいつまでも引きずってしまいそうだな。
はは。
あんな格好つけた台詞を並べたのに情けない。
我ながら女々しいや…。
まぁいい。
リッキーは白に黒い炎を連想させる柄の入ったヘルメットを被り、バイクのエンジンをかける。
『さぁ今日も始まりました、ウィンディランモトクロスバイクレース!』
頭上で響くアナウンス。
横一列に並ぶ6人のバイクレーサー。
集中しないと上位など到底狙えない。
余計な事を考えなくていいから好都合だ。
この瞬間だけは悩みを全てを忘れ、このモヤモヤした気持ちも走りにぶつけられる。
やっぱり、俺にはバイクしかない。
応援する観客の声に包まれ…
『3、2、1…GO!』
6台のバイクがスタートラインから一斉に飛び出した。
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「やっぱ、お前は強いな。リッキー」
「いえ、まぐれですよ」
「まぐれで4試合も続けてトップが取れるかよ。お前の実力だ」
「はは。ありがとうございます」
4位だったジムが背中を叩いて称賛してくれた。
本日のレースの結果。
リッキーは先週に引き続き1位を独占していた。
2位がボビー。3位がナイジェルだ。
カーブや段差が少なく、直線が多いこのコース。
ターボ能力に秀でたふたりを抑えられたのは、自分でも正直驚いた。
ちょっと力みすぎて転びそうになった場面もあったが、なんとか食い止めたし…まぁいいか。
リッキーは自分のパートナーであるバイクを倉庫へ仕舞うために歩き出した。
丁寧に扱っているつもりだが、長年使っているから見た目の傷も増えてきたな。
さて、これが終われば夕食の時間だ。
今日の晩御飯の当番は………ナイジェルか。
あまり期待出来ないな。
……………
本日のディナーはナイジェルおじさん手作り!
インスタントラーメンだ。
「おい、またインスタントラーメンかよ。先週もだったろ…」
「文句があんなら食うな。テメーでコンビニ弁当でも買ってこい」
「はいはい、どうもすみませんでした」
わざとらしく心のこもっていない謝罪をしてラーメンに手を付けるジム。
そしてテーブルに並んだ他のメンバー。
確かに同じ食事だと飽きてしまう人もいるかもしれないが、実際インスタントラーメンは美味しいし、下手に失敗されるよりかはこちらの方が全然良いと思う。
作る人が人だし、面倒臭がりな彼が作ってくれるだけまだありがたいのだろうか。
「ねぇリッキー!明日の理事長の会議、確か出るのリッキーだったよね?」
食事中、突然ビッキーが問いかけてきて彼は頷いた。
「あぁ、そうです」
「やっぱりかぁー。明日お休みだからせっかくふたりきりで遊ぼうと思ったのに!」
ジム「だから彼氏が隣にいるのにお前は堂々と…」
リッキー「はは。すみません。遊ぶのはまた今度ですね」
ジム「だから!お前も困るか断れよ!」
そうだ。
明日は月に一度開催される会議があるんだった。
危ない、すっかり忘れていた。
資料のまとめ…やっておかなくちゃ怒られちゃうな。
ナイジェル「可哀想に…。あんなジジィの長話を聞かされるなんて」
リッキー「貴方は最初から話なんて聞いてた事ないでしょう」
……………
午後の3時。
予定通り会議は始まっており、会場はウィンディラン本部から車で20分のビル。
本日は車がなかったので電車での移動となったが、遅刻する事なくリッキーは会議に参加していた。
周りは二回りも三回りも年上のお偉いさんばかり。
他事務所のバイクライダーも何人か集まっている。
会議の内容は会場の設備投資、老朽化施設の補強や備品の交換について。
難しい内容だけど、真剣に話を聞いていれば理解は出来る。
理事長が話している内容を簡単にノートにまとめ、ペットボトルの水を一口含んで頬杖をついた。
備品の交換…か…
「では、本日の会議はここまでとします」
「…ッ」
ふと顔を上げると、会議が始まって1時間が経過していた。
もう終わりか…
解散の指示が出て、周りの人達がそれぞれ席を立ったり背伸びをしてから部屋から退出し始める。
はぁ。
…俺も帰ろうかな。
綺麗に整理されたノートを閉じ、ペンケースにボールペンを仕舞う。
携帯のマナーモードを解除して、立ち上がった瞬間だった。
「リッキー」
「あ、はい。何ですか、理事長?」
講義を終えた理事長が、直接彼に話しかけてきた。
「話がある。片付けが終わったら廊下で待ってなさい」
「え…?」
ドキッとして思わず力のない返事を返してしまった。
俺に個人的に話…?
何か悪い事でもしてしまったのだろうか。
返事を聞いた後に去っていく理事長の背中を見て妙に焦ってしまうが、悪事なんて働いた記憶はない。
考えたって仕方がないし、とりあえず言われた通り廊下で待っておこう。
…本当に何もしてないかな。
あ、もしかしてあれ?
理事長が育毛剤を買ってたって話をジムにしてしまった事だろうか。
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「遅くなってすまない」
「いえ、大丈夫です」
会議が終了して20分後。
関係者が大分少なくなり、廊下で待っていたリッキーの元へ理事長がやってきた。
「なんだね、その怯えた顔は」
「え、や…いえ。突然の事だったので驚いて」
「叱られるとでも思ったのか?」
「ちょっとだけ」
その裏表のない素直な返しに理事長は歯を見せて笑う。
良かった…。
別に怒られるわけじゃないようだ。(育毛剤の事もバレてない)
「それで、話とは何ですか?」
「あぁ…君はここ最近、レースの結果が良いみたいじゃないか」
「は…い。ありがとうございます」
「去年からの成績を見ても君はトップクラスだ。他ライダーも皆個性があり優秀だが、君は群を抜いている」
「…いえ、そんな」
唐突に褒められて嬉しいが、やはり何を言いたいのかわからない。
すると理事長は七三に分けられた黒髪をさすり、周りに人がいない事を確認した。
「そんな君に私からご褒美をあげようと思ってな」
「…へ?いや、そんな!」
「おや?要らないのか?せっかくこれをウィンディランに1台導入しようと思ったのに」
ペラリと差し出された一枚の広告資料。
「……ッ!?」
それを見た瞬間、リッキーは言葉を失ってしまった。
新型バイク「スクエアR750型」
これは…確か…
「え?理事長!?どうしてこれを!?」
「詳しい事は教えられんな。まぁ、ここの所客の入りも良いし、たまには新型を入れても悪くないだろうと思ってな」
「…………。」
「使っているバイクも結構ガタがきているんだろ?遠慮はするな。君が使いなさい」
柔らかな口調と共に紙を手渡される。
どうして突然このバイクが導入される事になったのか。
そして何故、俺が使わせてもらえるのか。
「理事ちょ…」
「大切にするんだぞ。高かったんだからな」
肩をポンポンと叩かれ、彼はその場を立ち去った。
瞬きを繰り返して廊下に取り残されたのは俺だけ。
「…………。」
何も言えずに広告をもう一度見返した。
最新型のモーターバイク。
間違いなく、このバイクには見覚えがある。
……………
「おおっ!すげぇ、格好良い!」
数日後、理事長が発注した新型バイクがウィンディランに到着し、メンバー全員はもちろんそれに飛びついた。
「新車だぞ!」
「わぁ、良いなぁ、リッキー!」
理事長が言っていた通り、そのバイクはリッキーが使う事になったようだ。
新しいキーにいつものとぐろを巻いた蛇のキーホルダーが付いている。
メンバーがそのバイクに夢中になる中、彼はある女性に話しかけた。
「サラ」
「ん?」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる後輩。
「何の事?」
「貴方がお願いしてくれたんでしょう?理事長に」
「………。」
少しの間が空いた後、彼女は「知らないわ」なんてしらばくれる。
そのわざとらしい演技に思わず笑ってしまった。
「凄く嬉しいです。大切に使います」
「ふふ、やだ。リッキーがあんな高機能なバイクに乗ったら、ますますレースで勝てなくなるじゃない」
「はは。もちろん。手加減はしませんよ」
お互い笑い合うと、少し遠く離れてしまったサラの存在を再び近くに感じた。
彼女はやっぱり、俺の事を大切な後輩だと思ってくれている。
それが身に染みて実感出来たのだ。
これに乗ってレースで走れる。
今からウズウズしてたまらないや。
「何笑ってんのよ」
「だって…まぁ、いいや。行きましょ!」
ふたりも仲間の輪の中に入って、新入りのバイクを拝んだそうな。
fin
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