彼がどれだけ変でキザなことを口走っていても、インターネットの情報を鵜呑みにするようなバカ正直でも気にならない。

なぜなら苗字名前は森山由孝の顔がめちゃくちゃタイプだからだ。

もともとミーハーな私はモデルの黄瀬涼太が今年自分と同じ学校に入学したらしいと聞いて友達と1年生の教室まで駆けつけた。同じ考えの女の子は多数いてあまりしっかり見ることは出来なかったが、遠くから覗いても分かる程には黄瀬涼太の顔は華やかで美しかった。慣れたように女の子に笑いかける黄瀬涼太みて、友人と共にヤバ、とそれだけ言うのだった。

「ねえ黄瀬涼太みてきた」
「まじ?どうだった?」
「ヤバいよ。めっちゃイケメン」
「うそ、あたしの好み?」
「なっちゃんの好みは知らないけど、マジで芸能人って感じ。顔すごいちっちゃいの」
「ねえ今日バスケ部見にいこーよ」
「月曜かーあたしミーティングだ」
「テニ部?うちら休みじゃなかった?」

教室に戻って、何人かの同じくミーハーな友人達と騒げば、怪訝そうに男子は見遣った。中でも斎藤くんが

「斎藤〜、イケメンに嫉妬すんなって」
「うるせえぞ中川!」


「どこ黄瀬くん?」
「背が高くてさ、あ、ほら金パの!真ん中にいる」
「えっうそうそ待ってチョーかっこいい」
「てか人やば、これ絶対全員黄瀬くん見にきたんだよ」
「うちらもじゃん」
「それな」
「黄瀬くんと斎藤比べてみてよ、月とスッポン」
「おい聞こえてんぞ中川!」

体育館に詰め寄る女の子達に、部員はそわそわしているようだった。先ほどみた黄瀬くんは座ってたので気付かなかったが、黄瀬くんはめちゃくちゃ背が高い。バスケ部は大概みんな背が高いが中でも高い黄瀬くんをみてさすがモデルだと思った。しかもマジで顔が小さいのだ。

黄瀬くんの隣にいる人をみて、私は思わず嘘!と声をあげてしまった。
めちゃくちゃタイプなのだ。
流れる黒髪に、切れ長の瞳。通った鼻筋に、薄い唇。高い身長。ほどよくついた筋肉。紛れもなくど真ん中ストライクだ。

「ちょちょちょ」
「えっなに」
「あれ誰!?」
「どれよ」
「あの、黄瀬くんの隣でこっち側みてる、サラサラめの黒髪の、あ、今ボールついた」
「あー、あたしのタイプじゃないけど確かにあんた好きそー、でもなんか黄瀬くんみたあとだとぶっちゃけ地味じゃない?」
「んなことねーわ!うわーまじでめっちゃタイプなんですけど…あ、ユリ先輩〜!こんにちは」

部活の先輩に声をかけると、うわあんた絶対見に来てると思った、と笑われた。ミーハーな私をよく知っていらっしゃる。でも先輩も来ているので同じだ。

「てか、てか、先輩、あれ誰ですか?」
「あれって?森山?森山由孝?同じクラスだよ」
「森山先輩っていうんですか?めっちゃタイプ!」
「あー、あんた好きそう」

友人と同じことをいう先輩に、紹介してくださいよ、と頼むと先輩は何故だか渋い顔をした。もしかして普通に彼女がいるんだろうか。いや、いても全くおかしくない。え、もしかして彼女います?と聞くと、いないけど、と先輩は困った顔で隣にいた先輩のお友達の顔をみた。

「森山はねえ」
「ねえ?まあ悪いやつじゃないけど、やめといたら?」
「ええ、なんですか女遊び激しいとか?」
「あー、いやうーん、そうじゃないっていうかそうっていうか、話したらわかるっていうかね」
「ね」

先輩達のあまり掴めない様子に、首を傾げるばかりだったが、ユリ先輩は面倒になったのか啓明日うちのクラス来なよ、そしたらわかるから、と私に言った。何だかよく分からないが森山先輩を見られるなら全然行く。


とは言ったものの、やっぱり上級生の階は居心地が悪い。


「」
右肩の花びら